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自殺する日

 私はこれから自殺する。

 私を虐めてきたみんなを殺してから。 

「今日の降水確率は〇%。今年初めての夏日です」

 昼のニュースで梅雨明けの話題をやっている。

 七月。

 午前十一時。

「今日は雨、降らないのかなぁ」

 私は雨が好きだった。

 雨はいつも私の友達だった。

 テレビを切って外に出た。

 燃えるような陽射し。

 アスファルトの照り返し。

「うわぁ……、暑いなぁ」

 私はこれから中学校へ行く。

 みんなを殺すためだ。

「ちょっと背伸びた? のかなぁ」

 一年ぶりの制服が小さく感じた。

 通学路。

 川沿いを歩く。

 不老川の河川敷に夏らしさ。

 生い茂る青草。花。虫。

 咲いている花の名前は私にはわからない。

「へえ-、私の下駄箱ってちゃんとあるんだ」

 市立王川中学校。

 下駄箱。

――三年二組。二十番。雨宮ゆゆ。

 吹きぬける風が優しく頬をなでる。

 上履きを履いた。

 土と汗が混ざった匂い。

 学校。

 嫌な思い出ばかりが思い起こされる。

「私は何も間違ってない」

 階段を登る。

 二階の放送室へ向かう。

 鍵のかかったドア。

 私には超能力がある。

 念力テレキネシス

 物体を操作したり破壊したりする万能の力。

 解錠するくらい余裕。

「私はヒーローじゃんか」

 これは私の世界戦争。

 大嫌いな世界への復讐の物語だ。

「すぅー、はぁー、ふぅー」

 私は席に座る。 

 ヘッドフォンを装着。

 放送機材のスイッチはオン。

 深呼吸をしてから私は話し始めた。

「皆さん聞こえますか? 授業中にすいません。私は三年二組の雨宮ゆゆです」

 負け犬だった私は反旗を翻し、敵への反撃を試みた。戦況は私の圧倒的優勢。そして今日、私の大勝利で物語はハッピーエンドを迎えるのだ。

「楽しかったですか? 私を虐めるのは。楽しかったですか? 私が不登校になって。楽しかったですか? 私は楽しくなかったですよ。苦しかったです。死にたくなるくらいに嫌でした」

 ずっと虐められてきた。

 何年も何年も。

 堪え忍んできた。

 やがて限界を迎え不登校になった。

「だから死にます! これから体育館でガソリンを被って死にます!」

 これは復讐。

 やり返さなかったら死んでも死にきれない。

 みんな殺す。

 私が殺すんだ。

「止めたかったら全校生徒全職員体育館に集合して下さい。この放送が終わったら今すぐにです」

 私は私のことが嫌いだ。

 変わりたかった。

 これはそんな私からの世界への反撃。

「王川中学校テロ事件の犯人は私です。私が平沼綾花さんへの暴行容疑で捕まったことを知っている人もいるかも知れません。体育倉庫を燃やしたのも、校舎を破壊したのも、三年生を暴行したのも、全て私です。私がやりました」

 私はテロリスト。

 たくさんの犯罪を犯した。

 だけどもういいんだ。

 戦争はこれで終わりだ。

「要求を断ったら全員、殺します。それが出来るだけの準備はしてあります。なので命がおしかったら体育館に来て下さい。お願いします」

――ブッッッー。

 放送を切った。

「おい! 何してる!」

――ドンドンドン!

 ドアを叩く音。

 放送を聞いてやってきた先生たちだろうか。

「うるさいなぁ。何って、放送聞いてなかったの?」

 これからみんなを殺す。

 そして自殺する。

 それだけのこと。

「とりあえず体育館へ行くか」

――ドシャアアアアアアアアアアン。

 念力を使い放送室の壁を破壊する。

 一瞬にして空への道が出来る。

「あー、暑いなぁ。夏だなぁ」

 何分かぶりの空。

 青空が延々。

「どうせなら雨がよかったのになぁ」

 念力を使い空を飛んだ。

 私は自由。

 乾いた風に乗る。

 湿った匂いはどこにもない。

「降水確率〇パーセント……」


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