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日奉家夜ノ見町支部 怪異封印録  作者: 龍々
第拾弐章:「首ヒョコヒョコおばさん」と「唾くれおじさん」
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第28話:変態が織り成す『神の御業』

 入浴を終えて風呂場から出ると周囲を警戒しながら居間へと戻ると窓や扉を全て閉めて就寝の準備を始めた。あの怪異が部屋の中まで入ってくるという話は聞いていなかったが、もし侵入可能なのであればとっくに入って来ている筈だった。攻撃をするでもなく、ただこちらを見ていただけでそれ以上は何もしてこなかった。そのため、明日あの二つを封じるために早めに寝る事としたのだ。

 翠は風呂場で遭遇したという事もあってかまだ怯えているらしく、引っ付く様にして布団に潜り込んできた。彼女にとっては怪異自体はそこまで脅威でもないが、やはり自らの裸を見られるという行為に何らかのトラウマがあるのだろう。しかしそれを聞くのははばかられた。いくら家族でも聞いてはいけない事だと感じたのだ。

 一応周囲に注意を向けていたが、いつしか意識は微睡まどろみの中に沈み、いつの間にか朝を迎えていた。


「翠、起きろ」

「ん……」


 部屋の中を見渡してみたが、誰かに侵入されたような痕跡は確認出来ず、掛布団の上では美海がスヤスヤと寝息を立てていた。メリーさん人形も特に変わった様子はなく、箪笥の上で鎮座していた。他にも何の変化は見られず、スマホを見てみても賽からの追加の連絡は来ていなかった。


「翠、あの男の方は通学時間や帰宅時間に出てくる。もう一体は覗き込める遮蔽物が必要な存在だと思うンだが、どう思う?」

「んぅ……じゃあどうするの……?」

「一ヶ所に誘き寄せる。上手くやれば一気に封印出来るかもしれん」


 まだ寝ぼけ眼な翠を洗面所へと向かわせて、その間に準備を進める。とは言ってもいつも通りの通学準備だった。あの時逃げられてしまったのは逃げ足が速かったからであり、逃げる隙を与えさえしなければ大した敵ではないと感じる。要はどのようにしてあの二体を誘導して集めるかという点にあった。

 この家に誘導するのが無難と言えば無難だ。だが昨日の事もあって警戒されているかもしれない。アタシや翠にはアイツらに対抗するだけの力がある。そのせいで避けられてしまうかもしれない。そう考えれば、必ず協力者が必要になってくる。

 スマホを手に取り電話を掛ける。


「……もしもし、雅だが」

「あー雅さん……ふぁあ~……どうしましたぁ?」

「あれからどうだった。何か変わった事はあったか?」

「いえぇ……昨日はお母さんと一緒に寝たんで、あれ以降は見てないでぇす……」

「分かった。それじゃあすまないがな三瀬川、ちょっと協力してくれるか?」

「んえぇ?」

「オイ真面目な話なンだ。しっかりしてくれ」


 ひとまず賽に顔を洗う様に言い、少しの間待っているとようやく覚醒した様子の賽が電話口に戻って来た。


「すみません戻りました」

「ああ。それで協力の話だが」

「私はいいですよ。桃ちゃんの時にお世話になりましたから。で、でもどうするんですか?」

「アタシらは多分警戒されてるからな。お前ェの家に誘き寄せたいンだが、大丈夫か?」

「はい。お母さんお仕事で家を出ますし、大丈夫ですよ」

「分かった。じゃあ時間は……」


 計画はこうだった。まず自分と翠が賽の家へと向かい、その後に賽は家の外を周回しておく。その際に『唾くれおじさん』に出会ったらすぐに逃げ、家へと戻ってくる。この時、玄関の扉は開けたままにしておき、相手が好きに侵入出来る様にしておく。その後は窓がある場所に隠れ、『首ヒョコヒョコおばさん』が現れたら、事前に設置しておいた『四神封尽』を発動させて一網打尽にするという寸法だである。

 計画を話し終えて電話を切ると翠が目を覚まして戻って来た。どうやら計画を聞いていたらしく、詳しくは聞かずにすぐに準備に移ってくれた。

 全ての準備を終えると朝食も摂らずに、いつもより早めに家を出た。自分達が登校しているという状況を作り出す事で早めにあの二体を活性化させる必要があった。しかし彼らはこちらを警戒しているので、同じ時間帯に家を出た賽を追う事になる。


「上手くいくかな?」

「やってみねェと分からねェ。だがまあ、アイツらは大した力は無さそうだ。人の姿をしてるのと逃げ足が速いだけだ」

「確かに強そうでは無かったけど、何が目的なんだろ……」

「そこが一番引っ掛かるよな。何がしたいンだ……」


 彼らの目的については未だに答えは出なかったが、今の何もかもが不明な状況では考えるだけ無駄そうだった。それから十数分程歩くと三瀬川家に辿り着いた。その時丁度母親らしき人物が家から出て、どこかへと歩いて行った。恐らく賽が言っていた様に仕事へと向かっていると思われ、父親の話が出なかった事から母子家庭なのだと推測された。


「翠、見えない位置に頼むぞ」

「う、うん」


 指示を出された翠は植木鉢の影や植え込みの影などに折り紙を隠して配置した。その間に賽に電話を掛け、内鍵を開けてもらった。


「よう」

「待ってましたよ。さ、どうぞ」

「翠、入るぞ」

「うん」


 三瀬川家は周囲にある様なごく普通の家の様に見えた。ちゃんと掃除などがされており、靴も綺麗に揃えてあった。二階にあるという自室に案内されている最中に色々な所へ視線を向けたが、やはり想定通り父親を表す物品はどこにも見当たらなかった。

 自室へ入るといかにも女の子の部屋といった雰囲気だった。可愛らしいぬいぐるみやら漫画が置かれており、壁にはいくつか絵が飾ってあった。しかしどれも見た事が無い絵であり、あまり著名ではない作者が描いたか、あるいは彼女自身が描いたものに見えた。


「じゃあ出てきますね」

「ああ。いいか、家の周りから外れるルートは行くなよ、逃げ切れなくなるかもしれねェ」

「も、もう大丈夫ですよ! いざとなったら記憶流して混乱させちゃいます!」

「だ、駄目だよ三瀬川さん! 無闇に使ったら危ないよ……」

「あはは、冗談だよ翠ちゃん。じゃ、行ってきます」


 賽は気丈に振舞おうとしていたが、やはり恐怖や緊張はあるらしく口元が引き攣っていた。しかし今の自分達にすぐに協力してくれそうな人員は彼女しか居なかった。姉さんや紫苑達は下手に動けない上にすぐに来るというのも不可能であり、同じ様に力を持っている人間にしか頼めなかった。

 賽が家を出てから20分は経った頃、突然玄関の扉が開け放たれる音が聞こえてきた。その後ドタドタと階段を駆け上がる音が聞こえ、扉が勢いよく開いて賽が飛び込んできた。すぐさま扉を閉めて耳を当てる。


「だ、大丈夫!?」

「い、居た……何か汚いおじさんが居て、急に唾くれって……」

「しっ! 静かに……」


 扉に耳を当てながら階段の方に意識を向けていると、家の中を誰かが歩き回っているかの様な音が聞こえ始めた。


「来てる……下に居るな」

「……みやちゃん」

「どうした?」

「あっちも居る……」


 そう言って翠が窓を指差すと、そこにはあの女が居た。外から首をヒョコヒョコ動かしながら部屋を覗いてきており、こちらを凝視していた。昨日攻撃を仕掛けたアタシが居るというのにそれを気にする様子も見せなかった。

 まさかアイツ……人間の識別が出来てないのか? 誰を見るかじゃなくて、どこを見るかを重視してるのか? あの家とは違ってこの家では何も危険な目に遭ってないから、余裕そうなのか?


「翠、結界を頼む」

「う、うん……!」


 翠は急いで追加の結界の準備を始めた。彼らを封印するだけならこのまま『四神封尽』を発動させても構わなかったが、あれは怪異や異常存在を封じて別空間に送り込む技であるため、今の状態で発動させると一般的に見れば超常存在であるアタシや翠、賽までも巻き込まれる可能性があった。その事は翠も分かっているらしく、こういった状況のために専用の結界を用意してくれていた。

 三人を取り囲む様に龍を模した青い折り紙が四つ配置され、守護結界を作り出した。


「いけそうか?」

「は、初めてやるやつだけど、多分何とか……」

「えっこれ大丈夫なの翠ちゃん!?」

「うん……守護結界『龍玉ノ陣』……龍は神聖な存在、だから……!」

「よし。後はもう一つの結界を……」


 次の指示を出そうとした瞬間、部屋の扉が突然開かれた。あまりに予測できなかった事態であり、何より驚きだったのは入って来た人物だった。その人物は賽の母親だったのだ。家から仕事へと向かうところを確かに目撃した筈であり、この時間帯にこの場所に居るのはあまりに不可解だった。


「あ、あれっ……!?」

「馬鹿な……何で……」

「……あ、あなた……誰ですか?」


 賽の口から放たれたその言葉は更に驚きを誘うものだった。確かに彼女の母親である事は確認済みであり、実の娘である賽本人が知らないというのは本来有り得ない事だったのだ。

 その人物は無言のまま『龍玉ノ陣』の中へと腕を侵入させてくると賽の顔に触れた。するとそのまま指を無理矢理賽の口に押し込むと、すぐさま引き抜いて素早く部屋から出て行った。あまりの事に呆気にとられしまったが、急いで部屋から出て階下を見る。

 居なくなってる……アイツの今の行動、あの男怪異の仲間、あるいは変身能力か? だが変身が出来るなら何故今ここで使ってきた? もっと早く使えば唾を効率的に集められる筈だ。


「三瀬川さん大丈夫!?」

「ゲホッ……う、うん。でもさっきのは……」


 一旦追跡を諦めて部屋へと戻る。


「三瀬川、アイツはお前ェの母親じゃないのか?」

「み、見た目は同じですけど別人です。魂の形が全然違う……」

「形が?」

「は、はい……魂はそれぞれ形があるんです。お母さんの形は小さい頃からずっと見てますし、間違えようがないです。それなのにさっきのは、体の形に魂がちゃんと収まってないって言うか……」


 上手く説明出来ない様だが、彼女には間違いなく違った存在として認識出来ていたらしい。見た目は完全に賽の母親そのものであり、パッと見ただけでは違いが識別出来なかった。


「別の怪異か……? アイツに加担してるのは間違いないが……」

「あっ……」

「どうした?」


 アタシの後ろの方を唖然とした様子で見つめて賽は固まった。その視線を追った翠の目線も固まり、何事かと後ろへ振り返ると、そこには賽が立っていた。一瞬、瞬間移動したのではないかと錯覚しそうになったが、間違いなくさっきまで話していた賽は後ろで固まっており、それとは別の賽が目の前に立っていたのだ。

 偽物はアタシや翠の間を縫う様に腕を伸ばして賽の顔に触れて一瞬で昏倒させた。するとすぐさま翠の顔にも触れた。意識までは失わなかったものの翠は頭を抑えながらうずくまってしまった。


「テメッ……!?」


 咄嗟に攻撃をしようと頭部に手を伸ばしたが、頭部に触れた瞬間に突然体の自由が利かなくなり、凄まじい頭痛を感じながら倒れてしまった。

 その頭痛の理由は明らかだった。頭の中には自分の知らない記憶や感情が大量に流れ込んできており、その中には賽とは明らかに無関係な記憶も混ざっていた。江戸を思わせる景色なども混ざっており、風呂桶を前にして舌を伸ばしている光景も流れ込んできた。これによってようやく『唾くれおじさん』と呼ばれていた怪異の正体が判明した。

 こいつ……妖怪の『垢嘗あかなめ』だ! しっかりと掃除をしていない風呂場に現れて、夜な夜な風呂桶に付いた垢を舐めるだけの妖怪……。そういう事かよ……昔資料を読んだ時には大した害も無い妖怪だから優先順位は低いって書かれてたが……垢を舐めてたのはこのためだ……。垢や唾にも遺伝子情報は含まれてる……こいつの真の目的は遺伝子を集めてそれを自分の体で再現する事だったんだ……。


「く、ぐっ……!」


 何とか立ち上がろうとしたが、扉の向こうから顔がヒョコッと現れた。入り乱れる記憶のせいで視界が安定しなかったが、このタイミングで現れる様な存在は一人しか居なかった。そして、『垢嘗』とコンビを組んで活動出来る程の歴史を持ち、更に覗き込んでくるという特徴から正体は一つしか考えられなかった。

 それは妖怪『屏風覗き』だった。『屏風覗き』はその名の通り屏風の向こう側からこちらを覗いてくる妖怪だったらしいが、時代が進んで屏風が使われる事が減るに連れて目撃数が激減したと資料に記載されていた。そして、かつて一族が残した記録によれば、長い間人間の夜の営みを見てきた屏風が妖怪化したのではないかとの事だった。

 翠が風呂に入ってる時、あの子は裸だった。アタシが見られた時、丁度寝転がっていた。そして賽もこの部屋に居る時に見られた。どんなタイミングだったのかは不明だが、もしベッドに寝そべっていたのなら、全員が無防備な状態だった事になる。性行為をする時、人間はかなり無防備になる。それを覗いてた妖怪が現代に合わせて変異したのか……?


「……っ」


 体を動かそうにも頭痛のせいで思う様に動かせず、賽は意識不明なままであり、更に翠もまた同じ様に頭痛で動けなくなっていた。

 そんな中、『屏風覗き』は賽に化けている『垢嘗』の前で屈み込むと、スカートの中に腕を突っ込んだ。『垢嘗』は終始無表情のままであり、やがて『屏風覗き』はスカートの中から何かを取り出した。指先に何かを摘まんでいるかの様な手の形をしていたが、何を摘まんでいるのかは不明であり、指先が小さく発光しているおかげで辛うじて何かがあるのだけは分かった。

 『屏風覗き』はアタシの足元で屈み込むと突然履いていたズボンを掴み、無理矢理脱がせようとしてきた。


「こいっつ……ッ!」


 何か分からんが絶対にまずい……! 遺伝子情報を基に姿や能力を模倣する力に、人の営みを盗み見し続けてきた意味……何となくだが見えてきたぞ……。

 見覚えのない記憶の混雑で視界が揺らぎ続けていたが、床を触ってそこから『屏風覗き』の頭部へと熱源を伸ばした。そして、先程『垢嘗』の頭部に触れた時に何とか付けておいた熱源を同時に加熱する。

 両名とも悲鳴を上げて苦しみ始め、それで力が少し弱まったのか体の自由が利く様になったらしく、翠が床に落としていた折り鶴入りの瓶に手を触れた。すると、先程一旦中止されてしまった二つの結界が同時に発動し、二匹の妖怪を封じ込め始めた。

 しかし『屏風覗き』は自らの使命を果たそうとするかの様に『龍玉ノ陣』の中に腕を伸ばし、アタシの下着の中に手を入れるとそのまま局部の奥に指を一気に突っ込んできた。咄嗟に蹴り飛ばした事によって『屏風覗き』は守護結界から追い出され、そのまま『垢嘗』と共に眩く発光しながら封印されていった。

 二匹が完全に消滅し、結界を解除すると丁度賽が目を覚ました。すぐに大丈夫かと確認しようとしたが、突如猛烈な吐き気を感じて動けなくなった。


「みやちゃんっ!」

「クソ……遅かった……。アイツの方はこれがやりたかった訳か……」


 『垢嘗』の遺伝子情報を基に再現する能力は序章に過ぎなかったって訳か……。アイツらの目的は最初からこれ一つだったんだ。強力な力を持って生まれた賽の体から卵子を抜き取って、それに改変を加えて日奉一族の誰かに植え込む……そうやって二つの超常的な力の影響を受けた子供を作り出そうとしたんだ……。本来なら不可能な同性同士での妊娠……それを無理矢理実行させる。それは最早、神の御業みわざと言ってもいい。人知を超え、妖怪などの超常世界での常識さえも超えた存在……アイツらが欲しかったのはまさに『神』だった訳だ……半人半妖の性質を持った、自分達が利用出来る『神』……。


「み、みやちゃんっ! な、何が……」

「……翠、いいか。今からアタシを封じ込めろ……」

「えっ……何、言って……」

「アイツらに何か埋め込まれた……直感だし憶測に過ぎねェが、賽の遺伝子とアタシの遺伝子を無理矢理融合させようとしてる……」

「な、何言ってるの!? み、三瀬川さん! 起きて! どうなってるの!?」

「そいつに聞いてもっ……ふーっ……! 分からねェよ……だが、埋め込まれたこいつが生まれるのは何としても避けなきゃならん……」


 賽はようやく意識がはっきりしてきた様だったが、ただ事ではない様子を感じ取り、すぐにこちらに寄ると背中を擦り始めた。だが、当然そんな事で調子が良くなる筈もなくどんどん脂汗が流れ始め、腹痛まで始まっていた。


「ど、どうしたんですか雅さん!?」

「三瀬川、翠を説得してくれ……この子じゃないと封印出来ねェンだよ……」

「やだ! やだよ! 何か、何か方法が!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいね……」


 そう言うと賽は背中を擦る手を止めた。数秒後、背中に置かれていた手はそっと離れた。


「そういう、事なんですね……」

「分かってくれたか……だったら」

「雅さんはお腹の中のそれだけを封じるのは無理だって思ってるんですよね? 私達みたいな存在は、翠ちゃんの結界で問答無用に封印されるから」

「ああっ……ん……アタシごとじゃないと無理だ」

「お断りします」


 賽はきっぱりと断ると向かい合う様に座り、アタシの頭部に右手を置いた。


「翠ちゃん、相手は雅さんのお腹の中、丁度子宮の辺りだよ。そこだけを囲うみたいに出来る?」

「う、うん。だ、大丈夫なの?」

「私を信じて」

「オイ……馬鹿な真似すンな……お前ェに何が出来ンだよ……」

「雅さん。私は魂を見るだけじゃなくて、記憶や感情の移譲や読み取りも出来るって知ってますよね」

「それがっ……はぁっ……何だよ……」

「分からないですか? 私の能力の本質は魂に全て関連してるんです。心を見て記憶を読み取ってるんじゃないんです」


 腹部を抑えて蹲る様にして座り込んでいるアタシの胴体部分のみを囲う様に『四神封尽』の陣形が作られる。


「私は相手の魂を一部吸収して、それを自分の魂と同期させて記憶を読んでるんです。誰も気付いてないみたいですけど、記憶が最終的に宿るのは脳じゃなくて魂なんですよ」

「そんな事、言ってなかっただろ……」

「説明が難しいですからね……言わなくても『記憶を読める』っていう重要な部分だけ分かればいいかと思ってましたから……」

「っ……だからってどうするンだよ」

「単純な話ですよ。翠ちゃん、お願い」

「うん!」


 四つの折り紙達が光り始める。


「今から私が、雅さんの魂を一時的に吸い取ります! そうすれば雅さんはただの空っぽな、異常な力を持たない肉体だけになる!」


 つまり彼女がアタシの魂を全て吸収する事によって体の方を空洞にして、体内に取り残された異常な存在だけを翠が封印するというやり方らしかった。正直滅茶苦茶な方法であり、賽が能力の本質を隠していたという点に不満はあったが、最早反論を述べる事すらも不可能になる程吐き気が限界まで込み上げていたため、賽と翠の力を信じて魂を預けるしかなかった。

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