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美酒佳肴  作者: 乙賛
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第4話 はぢめてのごぶりん

夜になり肌寒くなったこともあり、山積みになった枝を燃やして暖をとろうと思ったが、このままだと生木のため煙で大変なことになると気が付く。、

魔法で枝から水分を取り出し乾燥させてみる。枝に含まれる水分を手元に集めるイメージをする。


枝の山が乾いた音を出して崩れ、手元にサッカーボール程度の水のボールが生成された。

水のボールを捨て、枝を手に取って力を加えてみると、乾いた音とともに簡単に二つに折ることが出来た。


枝の乾燥がうまくいったようなので、枝の山を二つに分け片方に火をつける。

もちろん着火は魔法だ。


枝の山の内側で小さな炎が上がり、焚火代わりはうまくできたようだ。

あとはもう一つの山から適当に枝を追加すれば今晩は持つと思う。


焚火のそばに座り、鞄からハムを取り出し適当な大きさにちぎり、枝を串代わりにして焚火の周りの地面に突き刺す。

酒の瓶も取り出したところで、コップがないことに気が付く。


そのまま飲んでもよいのだが、さすがに酔って寝てしまうことは避けたい。

個体生成で簡単なコップを作成することにした。


自宅でよく使っていたロックグラスに似たグラスを創造する。

グラスに一杯だけと決め、ウイスキーをダブルでグラスに注ぐ。


ハムの焼ける良い香りがしてきたので手頃なものを枝ごと引き抜きかぶりつく。

ウイスキーをチビチビとやりながら、さっきまでの木刀を振っていたことでどうなったのかを確認しておこうと思い、ステータスを確認することにした。


「転移者」

能力値:9,800


スキル:

「魔法」

「魔力操作」

「無詠唱」

「剣術」


魔法の検証の時ほどではないが、それでもとんでもないスピードで成長している。

たかだか2時間程度木刀を振り回しただけでステータスが大きく伸び、剣術スキルまで手にいれている。


ウイスキー片手にハムをかじりながら、この成長速度について考えてみる。


転移する前にいたあの部屋で渋い声の何かが言っていた内容を思い出す。


 『この中に資質の高いものがいたため、周りの者もまとめて転移させた』

 『転移先での能力が高いということだ、基本レベルで能力が高く成長率も個人差はあるが平均よりも高いということだ』


「資質が高いもの」これが誰を指すのかはひとまず置いておくとして、渋い声は能力値がこの世界の一般レベル以上のものを与えると言っていた。

つまり低いと思っていたステータスは実はそうではなく、一般よりも高いものであり、この成長速度は与えられた高い能力のおかげということか。

結局他人と比較するしか確認のしようがないかとあきらめかけたときに思い出した。


 『ここの書庫にも魔法の書があったが、転移先でステータスを見れば説明があるので、そちらの方が簡単ではあるな』


「ステータスを見れば説明がある」とはどういうことだ?


改めてステータスを確認してみるが、先ほどと変化はないように見える。

各項目に意識を集中し、より詳細な情報が得られないか確認しようと考えたとき、

ステータス表示にポップアップしたような形で説明が表示された。


「魔法:術者がイメージした魔法を発動できる。このスキルは属性による制限を受けず発動可能」


「魔力操作:魔力の繊細な操作が可能。通常よりも魔力消費を抑える」


「無詠唱:魔法の発動に際して詠唱を省略できる。省略による効果の減少の影響を受けない」


「剣術:剣装備の時のみ有効。剣による攻撃の際その威力、技術が向上する」



なるほど、このようにステータスを使うことで説明を見ることが出来るというわけか。


説明を見る限り検証結果とその考察が、大きく外れているということはないようだ。

ただ、成長速度についてはこの説明でも解決はできそうにない。


他に説明が出る項目がないかと改めて見直すと特に気にしていなかったものに目が留まる。


「転移者:異世界から神の力により転移してきたもの。個体差はあるがこの世界の平均よりもステータス、成長率が高いものが多い」


これだ!この「転移者」のおかげで大幅な成長を遂げていたと考えると納得がいく。



しかし、今になって気が付くというのも自身のことながら間抜けなものだ。

やはり少し酒が入った方が頭の回転も上がるということか。




最終的には他人との比較は必要だが、転移したことで初期値も高く成長率も高いということでおおむね間違いはなさそうだ。

まあ魔法の検証や、木刀を振り回したことも無駄ではないので、結果オーライということにしておこう。



考え事も終わり、あても食べつくしグラスも空になったので、今後のことを考えようかと思ったその時、森の方からガサガサと音がしていることに気が付いた。

そちらの方を向き耳を澄ましてみると、何かがこちらに近づいてきているようだ。


「こんな時間に一般人は森の中を散歩したりはしないよな」と思い、襲われるようなことになった場合に備え木刀を手元に引き寄せる。

焚火は今更消してもすでに見つかっているだろうし、暗闇の中で未知のものと遭遇するのは避けたいという思いから放置しておく。

念のため別に分けておいた枝を少し焚火にくべておく。



明かりと武器の確保が終わったところで、近づいてくる何かに意識を向ける。

ラノベなどでは最初の敵はゴブリンやコボルトといったいわゆる雑魚と相場は決まっているが、決めつけるのはよろしくないだろう。

というよりもゴブリンだとしてもこれまで戦闘経験などないため、何が出てきても大差はない。せいぜい弱めの敵が望ましいというくらいだ。


音はかなり近づいてきて、おそらく複数の何かが近づいているような気がする。

いきなり多数に囲まれるのは非常にまずいため、森から50メートルほど距離をとり待ち構える。

木刀を握りしめるが、今まで人生で生き物を殺したことなどない。もちろん蚊のような虫は別だが少なくとも哺乳類に手をかけたことはない。

つまりこの木刀で戦うと相手に対して全力で切りかかれるか、変に手加減してしまうようなことはないかという点に不安が残る。


ここは魔法という飛び道具が最もリスクが少ない攻撃方法と思う。

さすがに森のそばで火をつけるのはまずいと思うので、検証で行った温度変化や気体生成が環境的にやさしいかとイメージを行っていく。


気持ちが落ち着いたときに、それらは現れた。

身長は1メートルを少し超えた程度の濃い緑の体皮をもち、腰巻のような元は布か皮だったと思われるモノを巻き付けた生物。

中にはあちこち欠けてはいるが皮鎧を付けたもの、錆びた剣を持つものなども混ざっていた。


おそらくゴブリンと思われる魔物が5体。


片手に武器を持ちこちらを前方から包囲するように近づいてくる。

近づくにつれ微妙な悪臭も漂ってくる。


「ギャギャギャー!」

すでにこちらを認識して、攻撃の隊形を組んでいるようだ。


こんな不潔な生物に接近されるのは生理的に無理なので、さっそく魔法を使ってみる。

イメージは酸素濃度の増加、ざっくり50%程度の酸素濃度の空気でゴブリンたちを覆う感じだ。


魔法が発動したことは魔力が消費されている感覚からわかったが、見た目には何の変化もない。

失敗したかと思ったとき、5体のゴブリンが痙攣し嘔吐しだした。

5体ともその場に倒れこみ呼吸困難な状況のようで体を引き攣らせながらもがいている。


どうやら酸素濃度の増加に成功したようだ。


苦しめたままというのも、心苦しいので早々にとどめを刺そうとイメージする。

高温で血液が沸騰するイメージだ。


その瞬間、5体のゴブリンは痙攣をやめ息を引き取った。

体表からは湯気が上がっていることから、今度も成功したようだ。


倒したのはいいが、この死体はどうすればいいかわからない。

討伐部位をもっていけば換金できるとかラノベではよくあるのだが、ここでもその方法が使われているかわからない。

最悪死体の部位を持ち歩き、売りつけようとするアブナイ人物と思わる可能性もある。

何よりこんな不潔なものに触れたくはない。


討伐にたいした手間もかかっていないことから、死体は土に還ってもらうことにする。


魔法により5体のゴブリンの死体はすぐに分解され土に還っていった。

腐敗臭も加わって辺りに漂っていたので、風を起こし臭いを吹き飛ばした。


死体のあったあたりの土が少し膨らんでいる程度で、何事もなかったような状態に戻った。


魔法は便利だが、うかつに使うとまずい気がする。

今回の魔法は現代日本の知識をもとにしているが、こちらの世界の文化レベルによっては、完全に異質なものと思われるはずだ。


こちらの世界の魔法についても実際に使っているところをぜひ見てみたいものだ。


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