第16話 ゴブリンがいっぱい
冒険者ランクを上げるのは依頼をこなすか討伐するかして貢献度を上げる必要があるとギルドの美人は言ってたよな。
と思い出しながら、ギルドへ歩いていく。
受付には昨日の美人と、別の美人が仕事をしていた。
時間が良かったのかそれほど混んではいないようだ。
依頼が貼られた掲示板のような依頼ボードと呼ばれるモノの前に向かう。
コボルトやオークなどの常時森で出会うような魔物の討伐は常時依頼と呼ばれ、依頼を受けなくても討伐部位を持ってくれば良いと小冊子には書いてあったが、
依頼ボードにはゴブリンの討伐と書かれたものがあった。
気になったので詳しく見てみると、ゴブリンが繁殖し町の西部の森にコロニーを形成しているようで、そのコロニーの壊滅が依頼のようだ。
俺のランクは最低のFなので、この依頼を受けることはランク的にできなかった。
ここは森の町と呼ばれるように周辺は森に囲まれている。
コロニーの大体の位置は確認出来たので、そちらには近づかないようして訓練がてら森に向かうことにした。
前回は魔法でゴブリンを相手にしたので、出来れば剣(ではなくて木刀だが)で戦ってみたい。
剣術のスキルの効果を確認してみたいのと、実際に直接魔物を殺すという経験は今後必須なためだ。
魔物は基本的な習性として積極的に人間を襲うらしいので、森の枝を木刀で払い音を立てながら森の中を進む。
進みながら手に入れたばかりの鑑定スキルを使い、適当に目に付いたものを鑑定していく。
食用になる木の実や、薬草など鑑定していなければ気が付かなかったであろうものを適宜収穫し格納しておく。
やがて、森が深くなり日差しが通りにくくなってきた頃、目当ての魔物が現れた。
ゴブリンは2匹でこちらにまっすぐ近づいてきている。まだ距離があるので鑑定してみる。
ゴブリン
能力値:500
ステータスの数値は思っていたよりもはるかに低く、俺の半分にも満たない。
スキルも持っていないようなので、木刀を正眼に構えゴブリンを待ち構えた。
「ギャギャギャーッ」
叫び声をあげ棍棒を振りかぶって突っ込んでくるゴブリン2匹、俺は棍棒の軌跡を木刀で逸らし袈裟懸けから逆袈裟に流れるように2匹の間を通り抜けた。
驚いたことに、一連の動作をほぼ無意識で体が反応するかのように行えた、おそらくこれが剣術スキルの効果なのだろう。
さらに驚いたことに木刀を使ったはずなのにゴブリンは奇麗に切断されていて、すでに2匹とも絶命していたのだ。
この木刀は魔法で創造したものだが、ひょっとするとまずいものかもと思い慌てて鑑定してみる。
漆黒の木刀
超々高圧で圧縮された炭素繊維製の木刀、金剛石に近い硬度と弾性を併せ持つ、魔力を通すことで切れ味が上昇する
結果に愕然とする。
金剛石って確かダイヤモンドだったよな、硬度としては最上級に近いうえに弾性まで持ってるって…しかも魔力を通すと切れ味が上がるって、すでに木刀ではないよな…。
ゴブリンが真っ二つになっているところを見ると、魔力を通して使っていたということか。
全く自覚はないが、次は魔力を使わないようにして試してみるか。
ちょっと想像の斜め上の結果に呆然としつつも、討伐部位を切り取り指輪に格納する。
正直なところ不潔なこいつらには触れたくはないが、ランクアップの為と割り切り我慢する。
残った死体は魔法で土に返しておいた。
その後も、ゴブリンと頻繁に出会い木刀の切れ味というよくわからない事象を試しながら討伐を進めていった。
結果、俺の意思で魔法を通さないようにすれば木刀として打撃を与えることが出来ることが解った。
魔法を通す量により切れ味が変わり、本気で魔力を通してみたときにはゴブリンどころかその後ろの木々も両断してしまうことになったのは焦ったが。
魔物とはいえ生き物を手にかけることに対する嫌悪感や忌避感はなかったのは転生による影響だろうか。
まあ、これで冒険者として暮らしていけそうなめどは立ったし、それなりの数討伐したのでそろそろ戻ろうと思う。
来た道を振り返ると、枝を払いながら来たので迷うことなく戻れそうだと安心し大きく伸びをしていた時に森の奥から物音が聞こえた。
かなりの数のゴブリンらしき声が森の奥から聞こえる。
今まで討伐したような数匹といったレベルではなく、少なくとも10匹以上はいるようだ。
帰路背後から襲撃されるのは避けたいので、息をひそめて森の奥へと索敵に向かうことにする。
50メートルほど進むと少し先の森が開けていて、そこには数10匹かそれ以上のゴブリンがいた。
こっちにもコロニーが出来ていたのか…
わざわざコロニーを避けるために依頼の出ていた森と反対に向かったのに、ついていないと嘆く。
すでにかなりの数のゴブリンは討伐しているので、ゴブリンに対する恐怖は無いがいかんせん数が多すぎる。
やるとしたら魔法だな…
爆破はさすがに懲りたので、最初の戦闘時に使った酸素濃度低下をこの開けたエリア全域に対してイメージする。
がくんと魔力が抜け落ちた感覚で、一瞬倒れそうになるがなんとか踏みとどまる。
呼吸を落ち着けて魔法を発動したエリアを見ると、ゴブリンたちが地に伏せ痙攣しながらもがいていた。
こちらに向かってくる様子がないことを確認すると、その場に座り込んで魔力の回復を待ちつつ様子を見ることにした。
前回のようにとどめを刺すだけの魔力はこれだけの数を相手には使えそうもないので、悪いがこのまま酸欠で死ぬのを待つことにする。
あぁ、これ討伐部位を集めるだけで一苦労だな…。
やがて動くゴブリンがいなくなると、コロニー内に足を踏み入れる。
はっきり言って臭い、単体でも臭かったがコロニー内は臭いがこびりついているのか気分が悪くなるほどだ。
とりあえず風を魔法で起こして、臭いを緩和させる。
2時間近くかけて討伐部位の収集と死体の処理を終えると、色々疲れたので早々に町に引き返すことにした。
夕方やっとギルドに戻り、受付にいた前とは違う美人に話しかける。
「討伐部位はどこに提示したらいいんだ?」
「はい、討伐部位の受け取りは向かって右手奥のカウンターになります。」
と左手を伸ばし、俺から見て右手にあるカウンターを指す。
ありがとうと礼を言って、奥のカウンターに向かうと男性ホルモン過多な親父がこちらに向かって笑顔で挨拶してきた。
「おお、昨日ギルドに来ていた兄ちゃんじゃねぇか、さっそく狩りに行ってきたのかい」
昨日のやり取りを見られていたようで、そんな風にフランクに話しかけてきた。
「あぁ、昨日から世話になることになったキョウスケだ、よろしく頼む」
俺は右手を差し出し親父と握手するとさっそく要件を伝える。
「ゴブリンをそれなりに狩ったんだが、討伐部位の換金と貢献度の登録はここでいいのか?」
「ああ、ここでやっとるよ、そこのテーブルの上に並べてくれるか」
親父はカウンター横のテーブルを指さす。
格納していた指輪から討伐部位をテーブルの上に出すと、4人用の食卓程度あったテーブルの上にゴブリンの右耳が山積みとなった。
「なっ…」親父は口をパクパクとし声が出ないようだ。
こちらの様子に気づいた受付の美人も親父と同じように口をパクパクさせていた。