第6話・アンチョビGoForward
今回は簡単居酒屋レシピです♪
「クソがぁぁぁぁ!!!」
年頃の女性が駅の改札口で叫んで良い事は無い。基本的に残念なイメージにしかならない。
しかし、どうしても叫ばずにはいられなかった。
「……どうしてこう男は揃いも揃って、クソ面倒臭いんだ……」
この際、『クソ』と言うのは意味の無い修飾詞であろう。惰性でついてるに等しい。
女性は清楚でなければいけない?
それこそ、クソ喰らえである。
なぜこんなに荒れているのかを説明したいと思う。
それは突然だった。
「彦野さん。少し良いかな?」
「はい?なんでしょうか?」
「今夜、空いているかな?」
「え?今夜ですか?」
「食事会があるんだけれど、もし時間があれば参加して貰えないかな?」
「はぁ……」
社内の年上の男性からどうにも要領を得ない誘いをされたのだが、その食事会は合コンだったのである。
既婚未婚問わずの賑やかなものだったが、お酒を嗜み強い方であったが故に最後の方まで残ってしまったのだ。
2組の達成者達が程良いところで次のステージに進んだようだが、そこからが地獄だった……
敗者達の怨嗟が生まれ、異性への愚痴、それらが煮詰まっていくのである。
結果、男女間の差異に生じる絶望的に乖離した駄目な部分が結晶化して、諸共致死寸前の心の大火傷を負ったのだ。
この状態において、この女性、彦野若葉は一つ心に決めていたのだった。
(あのワインを飲み干してやる……)
もはや顔も覚えていない男性からのプレゼントであった。
記憶の片隅から引っ張り出した当時の会話の記憶が正しければ、まるで年代物のワインみたいな豊潤さがあるが、チリ産でもなく欧州でもマイナーなシャトーなら高くないとか……そんなことを話してた記憶があったりなかったりしている。
つまり結局は、飲みたいのだ。
「食材は全部家にあるはず……作るしかない!!」
疲れと言うのは恐ろしく、心の声のつもりが思いっきり声に出してしまう。
残念な人を見る視線が集まっているが、それに気付く程度であればそもそも駅前で「クソ」なんて言わないであろう。
若葉が家に付くとエプロンを纏い、真っ先にキャベツに手を伸ばした。
ハーフカットだったキャベツは、ザクザクと包丁を入れられ、八分の一カットになっていた。
軽く水で洗ったら顆粒の和風だしを振り掛け、そのまま電子レンジに投入される。
(これ、油なり水なりが無いと、電子レンジにかけても味が染みないのよねぇ)
仕組みを考えれば当然なのであるが、電子レンジは、電子が喧嘩する先である水や油が必要なのである。
顆粒の和風だしだけを掛けても、いずれキャベツの水分で溶けていくが、味が染みる前に温まってしまう。
そんなどうでも良い事を考えながらラップをふわっと掛けて、そのままボタン一つで自動温めをセットする。
電子レンジが指示された仕事をしている間に、進めなければいけない準備がある。
浅いフライパンに刻んだアンチョビとニンニク投げ入れて、多めのオリーブオイルを入れて火にかける。
撥ねない様に慎重に火を入れていく。
まずは強火。温度が上がってきたなって感じたら、一気に弱火にする。
最初から弱火にすればより安全なのだが、面倒なのだ。
電子レンジが完了を知らせる。
その時点で火から降ろし、余熱で火を入れる。
色が変わる前に下ろすくらいが丁度良い。
レンジから取り出したキャベツは、顆粒出しも溶けて馴染み、良い感じに湯気を立てている。
そこでクライマックスを迎える。
「ふふ……ふふふふ……」
ジュ……
フライパンのオイルソースをキャベツに掛ける。
煙が立つほど温度が高ければ撥ねてしまうが、温度に気を付ければ撥ねる事は無い。
「アンチョビキャベツ、完成♪」
若葉はニコニコしながらエプロンを外す。
出来栄えに満足したらしい。
冷蔵庫の中にあったチーズを取り出し、食卓に配膳する。
家に帰ってきてものの数分の出来事だった。
「さあ、飲むぞー!」
今日の生贄であるワインのコルクを雑に開けると、おおよそワインを飲むとは思えないコップに注ぎ込む。
飲み干す気満々であるがため、コルクはどうなろうと知った事ではない。
ワイン愛好家には、若葉に変わって謝罪をしておきます。
彦野若葉と言う女性は、こう言う人なので。
「パルミジャーノじゃないのが残念ね……」
チーズに文句を言うの前に、グラスをちゃんとして欲しいものです。
話しかける相手はいなくとも、酔いに任せて愚痴を零す。
そして、お酒と共に良いも悪いも飲み込んで、前に進む。
ただ、塩気のある料理だけでお酒を飲むのはお勧めしない。
翌朝。
「……頭痛い……」
二日酔いである。
この瞬間だけは「今夜はお酒を飲まないぞ」と心に誓い、重い身体を引き摺りながら今日の一歩を踏み出すのだった。
本当に美味しいので、お酒の飲み過ぎに注意して下さいね♪