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第4話 雨降って、パン温める

季節がずれててすいません……梅雨時期のお話です。

 その日は朝から雨だった。


「せんぱーい!ランチ行きませんか?」


 若葉がパソコンから目を放したタイミングで、声がかかる。

 雨の日だと言うのに、元気があって良い。


「あ、大石さん。ごめんね、今日は外食しない予定なんだ」

「お弁当だったりします?」

「似たようなものと言うか……秘密兵器があってね♪」


 デスクの下から、少し大きめの袋を取り出す。

 ブリーフケースにも見えるデザインだが……


「あ、それってもしかしてワッフルメ-カーですか?」

「残念。ホットサンドメーカー。似てるけれどね」

「もしかして、この場で焼くんですか?」

「そう言う事♪ 雨が降ってるのに外に食べに行きたくないじゃない? でもコンビニのお弁当とかカップ麺とか嫌でしょ?」

「そうですよね……羨ましいです……」

「大石さんも一緒に食べる? 下のコンビニでパン菓子を買ってきたら焼けるよ?」

「え? あ!そうですね!」

「その間に応接室の使用申請と珈琲の準備をしておくから、ちゃちゃっと買ってきなさい」

「わかりましたー!」


 元気に飛び出して行く。

 コンビニならば傘を差さずともビルの下にある。


 そもそもは、これも仕事の絡みで頂いたのだったが、すでに家にもあるので会社に置きっぱなしにしていたのだ。

 用途は前述の通り。こう言う日に外に出ずに食事を済ませられるように。

 大きさもそれほど嵩張らないし、重いわけでもない。置いておくスペースがあれば、邪魔にならないのが良い。


 応接室の使用申請する。

 新人である大石には出来ないだろうが、若葉であれば文句を言う人はいない。

 信頼と実績である。年功序列ではない。


 給湯室のコーヒーメーカーから二杯頂き、ペーパープレートと片付け用にペーパータオルも貰って行く。


(コンビニとの往復を考えると、一つ目はもう焼いちゃった方が良いか)


 このホットサンドメーカーは食パン一枚分であるから、待ってから焼いていたのでは食べ始める時間が遅くなるだけだ。

 なので、早速準備を始める。


 このホットサンドメーカーは、コンセントにプラグを繋げば焼く準備は完了である。

 閉じている状態なのだから埃が入ったりはしていないだろうが、気になるのでペーパータオルで軽く拭いておく。


 家で用意してきたサンドイッチを二つ取り出す。


 まずはハムチーズ。

 パンの内側にマーガリンを薄く塗り、ハム、レタス、チーズを挟んだものだが、ハムは精肉店で売っていたちょっと良い物を使ってみた。


 パンをホットサンドメーカーに入れ、ロックをしたらスイッチを入れる。

 安全装置も付いているので、安心だ。


 応接室の柔らかなソファーに沈みながら、紙資料をチェックする。

 資源の無駄遣いと非難される事もあるが、紙に印刷されたものはチェックがしやすくて良い。


「ただ今戻りました!」

「お疲れ様でした」


 営業部独特の挨拶で迎えてしまう。条件反射だ。


「それで、何を買って来たの?」

「照り焼きチキンサンドと、チョコホイップサンドを選んでみました♪」

「あ、面白そうね♪」


 そんな話をしている横で、一つ目が完成した。

 ホットサンドメーカーを開くと、真ん中で切れるようになっている。


「はい。どうぞ。ハムとレタスとチーズだけど、大丈夫?」

「ありがとうございます」

「少し冷えちゃったけれど、珈琲もどうぞ」

「すいません!頂きます!」


 後輩である大石は恐縮しきりだ。普通に考えれば当然なので、若葉も気にせずにスルーする。


「そしたら、次は大石さんの買ってきた、照り焼きチキンにしようか。頂戴」

「あ、はい!」


 耳が無く食パンと比べて一回り小さいので、配置をちょっと気にする。


「照り焼きチキンをホットサンドにしたら、美味しそうですよね♪」

「そうね♪でも、チョコホイップは少し驚いちゃった。でも、それも美味しそうね」

「デザートに良いかなって思いまして。実は、大きめの大福をホットサンドで焼いても美味しそうと思ったんですけど、自分のホットサンドメーカーじゃないのに冒険が過ぎるかな?って思って止めておきました」

「いいじゃない! 今度やってみましょう♪」


 ひとつ目を食べながら、どんなのをホットサンドにしたら美味しいかで盛り上がる。


「そのうち女子のみんなでホットサンドパーティーでもしませんか?」

「良いわね♪ でも、会社でやるわけにいかないから……レンタルスペースでも借りようか」

「楽しそうで良いですね!」


 照り焼きチキンは、中に入っていたマヨネーズが良い仕事をしていた。

 熱々でジューシーな感じは、きっと子供にも受けが良いだろう。


(これ、ビールに合いそう……)


 と、ついお酒との相性を考えてしまう、残念な若葉であった。


「先輩!これなんですか!おいしいです!」

「それは、アボカドとクリームチーズのペーストと、スモークサーモンを入れたの」

「なんか、居酒屋で出てきそうですね」

「実際イタリアンのお店でカナッペとして出てきたのを真似しただけだから」


 そう、サンドせずに焼いたフランスパンの上に乗せればカナッペになる。


「料理はちょっと形を変えたら新しいメニューになるの」

「先輩のその発想が凄いです」

「あら。企画だってそうよ。同じ物でも見方、見せ方を変えるだけで違ったものになる。仕事と一緒」

「勉強になります!」


(しまったぁ……先輩風をビュービュー吹かせてしまった)


「じゃあ、最後はデザートで締めて、午後も頑張りましょう♪」

「はい♪」


 デザートのチョコホイップサンドは、中身がたっぷり詰まっていたせいか漏れてしまい、少し焦げ付いてしまった。

 香ばしくなったと思えば、これも失敗ではない。


 成功か失敗か。それも見方を変えれば、結果が違って見えるものである。

モデルになっている大手広告代理店さんの1階にコンビニは実在します!

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