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第1話・卵の甘さに包まれて

小説イラスト投稿サイト・エルブームに投稿していたのですがサービス終了してしまったので、こちらにて……


宜しくお願いします♪

「お腹が空いた……」


 雑踏の中に消え誰も耳にしていないであろうが、思わず口から洩れたらしく、少し恥ずかしそうにしている。

 その人は女性だった。

 パンツスーツに身を固め眼鏡姿がしっくりくる彼女は、大手広告代理店に勤めている。

 日暮里駅の改札をくぐる姿は、凛としつつもどこか疲れていた。


(……ダルいなぁ……冷蔵庫に何があったっけ?)

 途中で外食するのも良いなと思ったけれど、そろそろ鮮度がきびしくなりそうな卵の存在を思い出してしまった。

 生卵でご飯を食べる自分の姿を一瞬思い浮かべたが、新鮮でもなければ、炊き立てご飯も用意をしていなかった。

 じゃあ炒飯と言うのも考えたのだが……その時に、目に入ったのだ。


「とんかつ……卵でとじてご飯に載せたらカツ丼かぁ……」


 惣菜屋の安く大きなとんかつ。

 家で作るなら卵1つでは閉じきれないだろう。

 まさに丼から溢れんばかりの豪快なカツ丼になる。

 それも良いなと思った。


 先ほどもそうだが、考えたことが口から洩れるのを押さえられないくらいに疲弊しているらしい。


(……重い。却下。)


 立ち止まることなく、そのまま家路を急ぐ。

 歩きながら自分が何を欲しているのか、どうするべきなのかを考えていると、カチリと音を立ててピースがハマった。


「……よし!」


 人に聞かれない程度の小さな呟き、手を握るだけのガッツポーズをする。


(食べたらすぐに寝よう!)


 やや年季の入った自宅アパートに戻ると、計画を実行する。


 お風呂の自動湯張りのボタンを押すと、鋭い電子音が答える。

 カウントスタートである。


 冷凍庫からケースに入っている冷凍ご飯を取り出し、そのまま電子レンジへ入れてスイッチを入れる。

 レンジの横にあるストッカーから未開封の揚げ玉を取りだす。


「うどん用に買ってあったけれど、こんな形で役に立つとはね♪」


 思わず笑いそうになりながら、ストッカー下段にある常温野菜から玉ねぎも持ち出し、冷蔵庫へ戻る。


「えっと、卵に白だし……あ、紅生姜もまだ残ってた。ラッキー♪」


 手がふさがってしまったので、肩で冷蔵庫の扉を閉める。

 今回の食材はこれだけであった。


 シンク下からまな板と包丁を取り出すと、手早く玉ねぎを真っ二つにする。

 皮ごとである。


 一つにさっとラップをするとそのまま冷蔵庫の野菜室へ戻し、残った半分の玉ねぎとまな板を水洗いした。

 根の部分の土を洗うとすぐに茶色い外皮を豪快に外す。

 半分に切れているので、手早く外せる。

 白い半球状になった玉ねぎを、今度はスライスして行く。


 次の手順は、小さく浅いフライパンを取り出すと、適当な量の白だしと水を入れて火にかける。

 それくらいのタイミングで電子音がレンジが終了を知らせる。


 シンク横にある食洗機から丼を持ち出し、温まったご飯を移すとケースをシンクに投げ入れて、箸でご飯をほぐし、さらに延長で温める。

 ケースに入れたまま電子レンジに入れても、しっかりとは温まらないものである。


 そんな間にくつくつとフライパンの中が温まってきたタイミングで玉ねぎを入れてぐるっとかき混ぜる。

 一度鍋を揺すったら、次にボウルを取り出し、卵を二つ落した。

 ざっくりかき混ぜたらそこに揚げ玉を入れ、フライパンへ流し込む。


 フライパンの縁から中へと箸を入れてふわりとさせる。

 オムレツと同じ要領だ。


 卵が固まりきる前にコンロの火を消し蓋を落す、再加熱していたレンジが今夜2度目の仕事を終える。


「熱っ!」


 ちょっと時間設定を長くしすぎたらしく、丼ごと温まり過ぎたようである。

 一瞬手を離しそうになったが、なんとか堪えてコンロ横に丼を置く。


 丼にフライパンの卵を移し、紅生姜を添えて完成。


 卵丼である。


(昔なら、追い天かすをしてサクサク感を楽しんでたけど……今はそれすら面倒臭いな)



 それなりに整ったリビングはレクリエーション目的である。

 動画配信サービスで適当な番組を選ぶ。

 海外の料理番組だった。


(食べながら視聴するし、飯テロとならないから丁度良いタイミングなのかもしれない♪)


 卓上にある七味唐辛子を振って、頬張る。


(うん、上出来だ)


 卵の甘さを噛みしめながら、マイペースに食べる。

 一人なのだから誰かに合わせる必要もないし、気が楽なものである。


 一口目を咀嚼して二口目を頬張ろうとしたとき、お風呂からメロディーが聞こえてきた。


(食べ終わったらお風呂にゆっくり浸かって、そのまま寝てやるんだ)

 と心に誓い、二口目を噛みしめた。

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