071-ラーバル 伝承の盾術
短剣を構えながら食料品市場へと急ぐ。王都にて奇襲……私が知る限りこんな事は一度もなかったはず、一体何が起こっているのだ……。
食料品市場の広場に到着して目に入った光景はおぞましいものだった。
四つん這いになった人間のような魔物が住民を貪り食っている……。それを止めようと騎士団員が引き剥がし激しい戦いを繰り広げている。他にも短剣を持ったフードローブ集団も戦闘に加わっている。
「状況報告!」
私が大声を上げると住民の手当をしていた兵士が答える。
「副団長殿!敵はグールらしき魔物が20体!それと未だに中央に陣取り動いていない黒い鎧の奴がいます」
「了解した。あなたはそのまま住民の救助を頼んだ!私はこのまま参戦する!」
「待ってください副団長!短剣だけでは危険です!俺の装備を持っていってください!」
私は剣に盾ガントレットにブーツを貰い受け装備した。幸いサイズは合っており不自由はない、しかしチェストプレートは胸が邪魔で付けることは出来なかった。
「すいません一番大事な防具が……」
「問題ない!これだけの部位があれば疾風迅雷を発動するには十分だ!」
私は剣と盾を握りしめ戦乱に向かって走り出す。兵士を組み伏せてガチガチと歯を鳴らし、今にも噛みつきそうなグールに狙いをつける。すぐに首を切りとばし、胴体にケリを入れて引き剥がす。そして、皆を鼓舞するために名乗りを上げる。
「騎士団副団長!ラーバル・バルトレイス!これより参戦します!」
戦況は混乱を極め客員がバラバラに戦っていた。今の状態が長く続けば徐々にパワー負けし前線が崩れてしまう。
「三人陣形!複数人で一匹に当たれ!」
私の指揮に反応した騎士団員は3人で陣形を組み互いを支えあい強力なグールに対抗していく。その分自由になるグールが出始めた。ここで私の出番だ!
「残りは任せなさい!疾風迅雷!」
防具に風の魔法をまとわせていく私のオリジナル魔法だ。飛ばさなくて良いので私の弱い魔力でも問題ない!ガントレットには腕を振るときに追い風を、ブーツには地面をけるときに追い風を発動させる。剣は刃先の空間を真空にして空気抵抗をなくし盾には暴風をまとわせすべてのものを弾く。
私はこの魔法で風になる!次々にグールの首を切り落として行く。
「勝利は見えている!奮戦せよ!」
グールの数が少なくなるとついに今まで動いていなかった短槍を2本持った黒鎧が動き出した。
「貴様が魔物の主か!」
ラーバルの問に答えること無く黒鎧は槍を構える。
短槍を2本持ったこの構え……この黒鎧がアレの関係者なら厄介なことになる……。戦ってみればわかる事か……。
「その構えが本物かどうか確かめてあげます!」
ラーバルは盾を前面に構えると地面を強く蹴り、風を巻き起こしながら突撃する。
そのままの勢いでシールドバッシュを放つも黒鎧の男は短槍をクロスさせて受け止める。そのスキを突き加速した剣を振り下ろすが黒鎧はすでに後ろに飛び退いていた。
攻撃が空振りに終わると、それがスキとなり黒鎧の2本の槍による猛攻が始まった。
黒鎧は的確に急所を突いてくる。ある時は右肘と左膝を同時に、ある時は右手首と右肘を一拍置いてなど攻撃する度に違う急所を違うタイミングで突いてくる。非常に読みづらい攻撃に私は確信した。
この槍術は間違いなくバルトレイスの恥と言われたスルーベル・バルトレイスのものだ。国を滅ぼしかけた、愚かな王を支持し最後には国民の怒りに触れて王と一緒に葬られたはずのスルーベル……。
滅んだはずなのに彼の技に対抗するための剣術……。というか盾術がバルトレイス家には伝わっている。私は一旦距離を取る。広場の中央から首を切り落としたグールの辺りまで下がり素早く盾と剣を持ち変える。
右手に盾を持ち盾の後ろに隠れるように体制を低くし、左手は後ろに下げ剣を低く構える。利き手による素早く強い防御を主体に攻撃はシールドバッシュからの脇を狙った振り上げのみに絞った対2本槍専用の型だ。
この体制を取るとついに黒鎧は言葉を発した。
「あの方の愚弟の盾術か……忌々しい!」
「あの方?スルーベル本人ではないのですか?」
私の言葉に反応するように黒鎧はこちらへと突進してくる。勢いをつけた強烈な一撃を盾でなんとか受け止める。利き腕に持ち替えていなかったらと思うとゾッとした。
休みなく繰り出される突きを盾で受けながらスキを伺う……ついにスキが見えた!両手同時付きのタイミングに合わせて盾を斜め上に押し込み短槍を弾き腕を上げさせた。後ろに構えた剣をがら空きになった脇に振り上げる。
「もらった!」
私の剣は見事に鎧の隙間で防御の薄い脇を捕らえた。滴る黒い液体……力が入らなくなり黒鎧の右手から槍がこぼれ落ち、カランと音を鳴らした。
勝った!槍が一本になれば攻略は容易い!
「どうやら私のかち……」
勝利が見えたその瞬間……後ろに転がっていた首のないグールが起き上がり私を羽交い締めにした。剣も盾もまともに動かせなくなりグールを振り払おうともがき続けるが振り払える気配はない!
「そいつらは元々脳で動いていない……油断したな……」
その言葉と同時に槍が私の胸を貫く……。
騎士団員の叫ぶ声が聞こえる……。
口からは大量の血が溢れ、視界がぼやけてくる。
チェストプレートがあればまた状況が違ったのかな?そんな今更どうにもならないことを考えながら意識は闇に飲み込まれた。




