070-古霊の蠢き
時は戻りマルレたちが王都に帰還した頃。
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どこともわからぬ暗い石造りの部屋にはポツンと玉座が置いてある。その玉座は数百年前に流行った宝石と金の闇鍋とでもいったほうがふさわしいゴテゴテとした趣味の悪いデザインだ。その玉座には青髪青目で顔の作りは美しいが内面からにじみ出る醜悪さが表情へと現れていて、とても美しいとは言えない人物がふんぞり返って座っていた。
「ターダ……2度目の失敗だな……」
その言葉を投げかけられたのは玉座に向って跪く全身を黒い鎧に包んだ男だ。頭の先から爪先まですべて鎧で覆われており一切肌が見えることはない。
「申し訳ありません!アウゲル様!次こそは!」
「アーク・セイントレイトを操りトレイルを暴走させるのに失敗したときもそう言っていたな?」
「申し訳ありません!トレイルの子孫が毎日のように近づき浄化されてしまい……」
アウゲルと呼ばれた玉座の男は不機嫌そうにしながら立ち上がり、話の途中でターダと呼ばれた黒鎧の男を蹴り飛ばした。蹴飛ばされたターダは仰向けに倒れたあと上半身だけをおこす。
「言い訳は聞かぬ!2度目は、私が奴らから奪った力を貸し与えたにもかかわらずまた失敗……」
「ぐぅぅ……申し訳ありません……スペクトル化させたミノタウロスが思った以上に戦力にならなく……魔王の魂も何者かに連れ去られていて……」
アウゲルは見苦しい言い訳を止めるためもう一度蹴りを入れてうつ伏せに倒した後ターダの頭を踏みつける。
「言い訳は聞かぬと言ったはずだ!」
「ぐあああ……っ申し訳あり、ま、せん……」
踏みつけた足をグリグリと動かしながら叱咤は続く。
「貴様は頭が悪い!画策などせず自ら動き王都を落とせ!」
「うぐぐ……了解しました……」
脚をどけ玉座に戻りターダが黒い霧となり霧散して消えるのを見届ける。フンと息をつくと玉座の肘掛けをコンコンと指で二度叩く。
すると短髪の緑髪で角張った顎に鋭い目つきで銀色に輝く鎧を身にまとった男が現れた。
「お呼びですか、真王アウゲル様……」
「呼び出してすまないスルーベル、あの使えない部下に直接攻撃を命じた」
「そうですか了解しました奴に見合った数の魔物を送っておきます」
「理解が早くて助かる、それでお前に任せた仕事はどうだ?」
「小さな問題が一つありましたが滞りなく進んでおります」
「どんな小さな問題でも報告せよ」
「はっ!隊長クラスの魔術師が一人離脱しましたが光属性なので大した問題にはならぬかと……」
「ふむ……たしかに小さな問題だな、よろしいそのまま続けろ」
「了解いたしました」
「下がって良いぞ」
「はっ!偉大なる王に真の地位を!」
銀鎧のスルーベルとよばれた男は敬礼をしながらそう言い残すと白い光の粒となりどこかへ消えていった。
真王アウゲルと呼ばれた玉座の男は青い髪をかきあげるとフッーとため息を付き一人愚痴をこぼした。
「スルーベルのように優秀な部下ばかりだと私も楽をできるのだがな……」
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そして、ラーバルが飲食街で部下と遭遇し、マルレがガオゴウレンの船を探し回っている頃。
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「スルーベル様に頂いた魔物はこれだけか……」
転移の間に用意された魔物の質と数はとても王都を落とせるようなものではない。2度の失敗により完全に信頼を失ったようだ。
一度目は、私の術で第二王子のアークの心を蝕み操りドレストレイルの娘を殺害させる手はずだった。予想外にドレストレイルの娘が第二王子に近づき心を蝕むどころか毎日浄化される始末……。結婚前の男女がみだりに近づいてはならないという貴族の決まりごとは一体どうなっているんだ……。送り込んだ協力者もトトリア・リウスの悪意を膨らませず役に立たなかった所詮は子供だ……。
2度目はアウゲル様の力を借りてミノタウロスをスペクトル化したが、ドレストレイルの娘が死体を近くに置いたため肉体と魂が引き合いゾンビ化し弱体化して、まったく役に立たなかった。その後魔王の魂も探したが闇の痕跡が残っているだけで魂はどこかに連れ去られていた。
何をやっても邪魔が入る……やはり直接出向くしか無い……最後にできることを直感し覚悟を決めた。
「上手くいけば相打ちと言ったところか……」
ターダは武器棚から短槍を2本手に取り強く握りしめる。スペクトル化失敗の成れの果てである元人間の魔物を引き連れて王都へと転移した。
日が落ちはじめて辺りがオレンジ色に染まった食料品市場の広場。そこにで、人の形をした人でないものを引き連れた黒い鎧の男は両手にもった2本の短槍を構え魔物に命令を下す。
「手当りしだい殺せ!」
その声に反応して元人間だった魔物は四つん這いになって走り住民へと襲いかかる。




