067-無属性魔道具研究家
「よし!そうと決まれば早速学園に行ってみましょう!」
せっかちなアリッサに手を引かれて学園へと向かう。卒業してからまだ一月ほどしかたっていないのね。それなのに人生で一番長く感じた一月でした。冒険者になってすぐ剣が折れてへこんだり、お金がなくて食事を抜いて、床かしら?と思うほど硬いベットで寝たり。第二の家と言っても良い素晴らしい宿に出会えたり、魔物を素手で狩ったほうが高く売れたり。そしてはじめての遠征で勇者対魔王に巻き込まれたり……っと短い間にいろいろありましたね。
そんな思い出に浸っていると見慣れた建物が見えてきました。
「うわー1ヶ月しかたってないのになんでこんなに懐かしい感じがするんだろね~」
「そうですわね、不思議です」
馬車が通れる大きな門は閉まっており人だけが通れる門の前には衛兵さんが居て出入りする人をチェックしている。素知らぬ顔で通ろうとして止められても格好が悪いので衛兵さんに声をかけることにした。
「こんにちは、卒業生なのですが中に入ってもよろしいですか?」
「はい、卒業生なら入っても構いません……ああ!マルレさんじゃないですか!」
彼は2年生のときに騎士団の訓練でご一緒した新兵の方でした。身元の確認もすんなり済んで懐かしい校舎へと入っていく。
片っ端から聞いてみようとするが、現在は授業中らしく廊下には誰も居なく静まり返っている。先生方の授業の声がときおり聞こえるだけで、話を聞けそうな人は居なかった。
「今朝無属性の魔道具をここの学生が作ってると聞いたので先に研究室に行ってみようと思うのですが」
「へぇ~マルレのあとを継いだ後輩がいるんだ~面白そうだから行ってみよう」
私は通いなれた廊下を通り3年生のときにダラダラ過ごした無属性魔道具研究所に向かった。研究所は変わらぬ姿でそこにあった。本当にあとを継いだ人がいるのですね、倉庫に戻っていなくてよかったわ。
どんな人がついでくれているのだろう?そう思いながら研究所の扉をノックする。
「はーい、鍵は開いてますのでどうぞー」
研究所の扉を開けると内装は居酒屋の座敷席のようなままで土足禁止も健在だった。変わったところといえば工作道具や試作品らしきものが増えているぐらいだった。部屋の中央には円卓の脚を短く切断して作ったちゃぶ台と水晶用のクッションを使用した座布団が健在だった。その横には、座布団を二つ折りにして枕代わりにして寝転がっている少年がいた。
教えてもいないのにくつろぎかたが私達と同じなのは面白いなと思った。
「ここは靴を脱いで上がってくださいねー」
だらけた態度の少年はクリーム色の髪をワシワシといじりながらダルそうに首だけを動かした。薄いブルーのきれいな瞳で年齢より幼く見える顔をこちらに向けた。
私達は「おじゃまします」と挨拶して自然と靴を脱ぎ座布団に座り用件を切り出した。
「始めましてマルレです」
「始めまして~アリッサです」
「どうも~ジェスで~す」
寝転がったまま自己紹介をするジェスと名乗る少年に若干イラつきながらも話を進める。
「それではジェスさん井戸の魔道具を見てきたのですが作ったのはあなたですか?」
私が声を掛けると少年はすぐに寝た状態から体を起こし二つ折りしていた座布団を平らに戻し、手で何度か叩き形を整えてその上に座った。研究者にありがちな性格らしく興味を引く話題に態度を急変させた。
「あれを見て来てくれたんですか!使ってみた感じどうでした?」
「つるべを落として水を汲むより数十倍も楽でしたわ!」
私がそう言うとジェスさんはニコリと笑って目を輝かせた。
「そうでしょ!あれは世紀の大発明!無属性魔道具の試作第一号なんですよ!」
興奮したジェスさん、こうなってしまった研究者の話を止められるものはそうはいない。アリッサを見ると不安そうな顔でこちらを見ている。ごめんなさいアリッサ研究者とはこういうものなのよ……私は興奮を抑えきれなくなり語気を強めて話し出す。
「素晴らしいわ!無属性魔道具こそ魔道具の真髄!万人が使える最高の魔道具なのよ!」
「あなたもわかりますか!まさにそのとおり!」
私は我を忘れて魔道具について語り合った。魔力回路のパルス信号や回路中の魔力溜まりに使う素材など専門家でないとわからない話まで及び長々と同士と語り合ってしまいました。ちらっと目に入ったアリッサは死んだ魚のような濁った目で愛想笑いをしていた。
熱い語り合いが試作機の動力源の話に移ろうとしたその時「ただいまー」と声が聞こえ部屋の扉が開いた。
「あれ?お兄ちゃんお客さん来てるの?」
慣れた様子で靴を脱ぎ研究所に入ってきたのはジェスさんとそっくりな女の子だった。クリーム色のショートボブに薄いブルーのきれいな瞳と年齢より幼く見える顔は性別を変えただけのようにそっくりだ。
「おう!試作機を使った人が話のわかる人でね魔力回路について話してたんだよ」
「どうもジェスの双子の妹のフルーチですよろしくお願いしまぁあああああ!」
彼女は自己紹介を途中で奇声に変えて驚いた様子で私の顔を見ている。どうやら彼女は私の顔を知っていたようですね。
「うわ!フルーチ急にどうしたんだよ?いま試作機の動力について話そうとしてたんだから邪魔するなよ!」
「何言ってるのバカ!その[ピクツ]を開発したのがあなたの目の前にいるドレストレイル先輩よ!」
やはり動力は無属性魔力でピストン運動をする[ピクツ]でしたか。あれは私がアリッサにヒントを貰って開発したのよね。でも開発したは良いが活かし方が分からず特許だけ取って放置していた。それが今、技術が後輩の手によって製品化されている。アリッサの想定通りこの世界の天才に任せる作戦は見事成功ですね。
「え?ドレストレイル先輩……」
私はニッコリと微笑みうなずいた。




