028-アリッサ・エトワンス
タイトルに人物名があるときは、その人視点になってます。
私はアリッサ・エトワンス、魔法学園に通う平民出身の生徒だ。
今私は運命の力におびえ泣きわめいている。マルレの口から出た”追放処分”の言葉……。もう終わっていると思っていた。しかし運命はまだそれを許していなかった……。この国が破滅し終わることを……。
私は泣きながら2年ほど前の出来事を思い出していた。
治療魔法が使えることが両親に知られ、相談の末に王立魔法学園に通うことが決まった。そのときに、頭に流れ込んで来た大量の情報によって、高熱を出し私は倒れた。熱が引き意識を取り戻したときに、私は全てを思い出した。
私には、前世の記憶ができた。この世界ではない別の世界の記憶で、そこは日本という国だった。そして、その前世でプレイしたゲームと、この世界がそっくりだと気がついた。自分は、いわゆる転生者だった。
確信した理由は、王族や貴族の名前に王立魔法学園の存在。そして、決定的なのは自分の名前と容姿が、ゲームのヒロインとまったく同じことだ。
その乙女ゲームのタイトルは「終末の楽園」だ。
このゲームは、カッコイイ攻略対象や登場人物はもちろん。中世風なのに戦争や貧困とは無縁な楽園の題名にふさわしい平和な世界が売りだった。人気は、続編が待望されるほどだった。
内容はシンプルで、攻略対象との心密度を上げ告白され恋人になればグットエンド。誰とも恋人になれなければバットエンドと言う感じだった。そして、[悪役令嬢、冷血マルレ]は、イジメの内容とそのしつこさからかなり嫌われていた。最後は必ず追放処分になるのでざまぁ! と思われていた。
しかしファンの間で話題になったタイトルの[終末]の謎は残ったままだった。ゲームは[終末]とはいっさい関係なく平和でステキな世界観だった。そのことに触れていないことに、疑問の声がでていたが、ファンは謎を追わず続編を望む声を上げていた。
しかしそれはある騒動で打ち破られた。一人のファンがゲームの総監督にSNSで「彼らのその後が知りたい!」とメッセージを送ったところ、返信は驚くべきものだった。
「あの国はエンディングのあとすぐに滅びている。もちろん登場人物は全員死亡している。その原因は、ゲーム内にちりばめられた情報でわかるようになっている。プレイした誰かが真実を知ると思ったが、それはかなわなかった。だれにも気が付かれず彼女は本当にかわいそうだ……」
この返信にファンは、混乱した。何度もゲームをプレイし、テキストの一文字からスチルの詳細まで調べあげた。そして、ついにファンたちは一つの結論にたどり着いた。
「冷血マルレは冤罪、そして裁判後に殺されていた!」
イジメのシーンで出てくるマルレは、縦ロールの巻きが逆だった。さらには、目尻に小さなホクロがあり、別人だと判明した。この事は冤罪である証拠となった。
そして、ラストシーンの裁判が終わり、攻略対象と抱き合うスチルの全てに、あるものが描かれていた。それは、小さく描かれた血溜まりに沈むマルレだった。それは一見するとただの赤い塊だが、拡大してよく見るとたしかにマルレの姿だった。
その答えを聞いたゲームの総監督は、行動を起こした。ファンの要望通りその後の世界を題材にしたフリーの戦略シミュレーション(15才以上のみ対象)を公開した。そのゲームはゲーム制作ソフトで作られた簡素なものだった。だけど、画像は公式と同じアーティストが担当していた。
そのゲームは、血溜まりに倒れたマルレを見下ろすドレストレイル家の姿から始まる。
「我らはドレスを脱ぐ」
復讐に燃えるドレストレイル家は国中の全ての裏の任務をしていた組織[トレイル]であった。ドレスを脱ぐとは爵位の返上と宣戦布告を意味していた。その言葉の意味を知っていた王族と騎士団の家系はすぐ城に逃げ込む。そして、各所に指示を飛ばすシーンでオープニングは終わる。
第一ステージの舞台は魔術師学園だ。生徒を動かしたった一人の人間を倒すステージだ。
敵の名前はマルレの使用人[首刈りファーダ]。
「主犯も、気が付かなかったやつも、知ってて見捨てたやつも同罪だ!」
このセリフから戦闘は始まる。
1ターンで5回行動するファーダは、味方ユニットを一撃で葬り去っていく。ファーダに為す術もなくすべての生徒が殺されると、次へ進む負けイベントだ。
ラストに表示されるスチルの生首は、[終末の楽園]で見知った顔であった。そのため多くのプレイヤーがここで脱落した。
第二ステージは軍を率いてドレストレイル領を攻めるステージだった。
敵軍を率いるのはマルレの兄[冥王ヴィクトル]。
「この国は存続に値しない」
このセリフで戦闘が始まる。
戦闘開始直後の2ターン目で、全ての味方武将が暗殺される。そして、士気が20%に落ちて味方ユニットがすごく弱くなる。そこにヴィクトルの広範囲の闇魔法が襲いかかり、あっという間に全滅する。また負けイベントだ。
表示されるスチルは、闇魔法に侵され植物が全て枯れた黒い大地にたたずむ、冥王の姿だった。
ラストステージは、城に避難していた近衛騎士団と王族たちが、ラスボスと対峙する。
敵はたった一人[魔王ザロット]。
「おまえらが犯した罪の代償は1代の命では払いきれない根絶やしだ」
赤いオーラをまとった魔王には、魔法も剣も効かず1ターンに一人ずつじわじわと殺される。最後に命乞いをする第二王子が殺され全滅する。
最後のスチルは死体の山の上で、魔獣のように咆哮している魔王ザロットのスチルだった。
このゲームは簡単に言うとクソゲーだった。全てが負けイベントで、ただドレストレイル家の怒りと復讐の結末を描いただけで、ゲームとは言えない代物だった。もちろん監督のSNSは炎上し文句が殺到した。
そして最後に出された「気が付かなかった君たちと、学生へ向けた私とトレイルの答えだ」の投稿を最後にSNSは閉鎖された。
前世ではゲームの世界に転生したら恋愛を頑張るぞ~! とか思っていたけど、実際に来てしまった今は、よりによってなんでこのゲームなんだ……。そんなことしか思い浮かばなかった。




