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怪力悪役令嬢は冒険者になりたい!  作者: タハノア
自分達の物語に決着をつける編
146/158

146-アーク 初手全力!

 合図も何もなく魔術師団の砲撃から戦争は始まった。


「さて始まったか、石ローラーの軌道計算はできているな?」

「準備万端です。いつでも投下できます!」


 この砦の屋上には可動式の滑り台のような装置がいくつも設置してある。その坂の上に生み出されるのは、土魔導師二人がかりで作り出した地盤固め用の石ローラー、つまり石の円柱だ。


 ローラーの直径2m幅2.5m。これを砦の上から転がし落とすのだ。


 攻撃力はご想像どおりのシロモノだ。


「投下開始!」


 私の合図で一斉に石ローラーが魔術師の軍団めがけて飛び込んでいく。乾燥して固くなった大地ではとても良く転がる。


 屋上から見下ろしていると魔術師団の悲鳴が響く。広がる血、原型をとどめていない肉塊が量産されていく。予想通りの効果があったようで戦場は既にめちゃくちゃになっていた。


「アーク様!作戦は成功し敵は3割ほどの兵を失い撤退を始めました」

「やはり、あのローラーを止められるほどの障壁を張れる者はいないか」


 私は、父の言葉を思い出していた。


『良いかアークよ戦いにおいて強さとはなんだか分かるか?』

『強力な魔法や剣術でしょうか?』

『いや違う!戦いにおける強さとは剣でも魔法でもない()()だよ』

『質量?ですか?』

『そうだ!どんな魔法も巨大な岩石には勝ち目がない』

『では、騎士団や魔術師団よりも大きな石材を自在に操る枢密院の方が強いのですか?』

『その通りだぞアーク!その証拠に枢密院の訓練が一番怪我人が多いからな!お前も注意するのだぞ』

『わかりました父上!』

『おっと!忘れていたトレイル達は除外しろよ。あれは人の形をしているが戦いとなると山よりも質量が上がるのだ』


 質量こそ強さか……。


 通常土魔法で相手が飛ばしてくる石は大きくても人の頭ぐらいの大きさだ。直径2mの石ローラーなど止められるはずもない……。


 初手全力!


 これが枢密院の戦い方だ。効果があるなら追撃し、効果が薄ければ砦を崩して即撤退。


「敵影確認!空からなにか来ます!」

「空だと!?」


 空を見上げると風をまとい空中に静止している人物が見えた。風にはためくローブはボロボロで、ときおり見える顔はとても生きているとは思えないほど火傷を負っていた。


「高位の風魔法使いか……」

「あれは!魔術師団長です!」


 魔術師団長だと!?爆炎のトラディネントか!風と火の複合魔法で、圧縮した炎を飛ばし大爆発させる魔法系統を得意とする人物だ。


「私が出る!爆発で崩落の恐れあり!砦の柱を増やしておけ」


 私の指示と同時に爆炎が城壁の一部を吹き飛ばした。壁には大穴が空き大量のグールが入り込んでくる。


「間に合わなかったか!」


 魔術師団に気を取られている間に近づかれていたのか!まさか生きている人間を囮に使うとは……。

 私は土魔法班に指示を飛ばす。


「土魔法班は穴を囲むように1mほどの壁を作れ!」


 続いて水魔法班にも指示を飛ばす。


「水魔法班は壁ができるまでグールを水撃で撃ち抜け!壁ができ次第水でグールを外に流しだせ!水位は30cmもあれば十分だ!」


 私の指示に従い皆が動き始める。囲いさえできれば擬似的な洪水で外に押し流すことができるだろう。


「師団長は私に任せろ!」


 私は足元の地面から石柱を伸ばし、トラディネントに視線を合わせる。


「キタ ナ アーク・セイントレイト!」


 トラディネントの裂けた口からは聞き取りづらい言葉が発せられている。近づいてみると分かるが確実に人間をやめているようだ。


「喋れるアンデットか、気味が悪いものだな……。お前は、トラディネントで間違いないか?」

「ソノ ナ ハ ステタ ワレ ハ リッチロード!イダイ ナル シンオウ ノ シモベ!」

「リッチロード……真王?なんだ愚王の手下か……」


 私の発した愚王という言葉に反応しリッチロードは、両手を空に掲げ特大の爆炎弾を作り出した!


「シンオウ サマ ヲ ブジョク スルナァアア!」

「事実を言ったまでだ!」


 風で圧縮された炎の玉がこちらへ向かって来る。大きさは人の背丈の二倍ほどある。


 私はそれを粘土障壁で受ける!


 土と水魔法の混合障壁だ。熱と衝撃に強く障壁自身が飛び散ることで威力を拡散させる。 


 辺りに泥を散らかすだけで私にも砦にもダメージはなかった。


「ヤッカイ ナ ショウヘキ ダ!」


 得意の爆破魔法を防がれて驚いているトラディネントに攻撃魔法を放つ。


 初手全力!これは枢密院だけではなく、私自身にも当てはまることだ。


「シージ・オブ・リフレクター!」


 私の手から放たれた光と水の混合魔法の鏡が、リッチロードを全法位取り囲むように無数に配置される。


「ホーリーレイ・インフィニット!」


 私は、開始地点の鏡に向けて極光を放ち続ける!


 鏡に反射した極光は初めは、的外れの方向へ跳んでいく。しかし、緻密な計算に基づき配置された鏡によって反射を繰り返すと、放たれ続ける極光の包囲網が外側からじわじわと中央へ追い込んでいく。


 反射するたびに包囲網が狭くなっいることに気がついたときにはもう遅い。


 光の速度は早い!あっという間にリッチは脱出不能となり、極光があたるのを待つだけとなった。


 長く放たれた、極光は巡り巡ってすべてリッチへと命中する。閃光が収まるとリッチは煙を上げながら地面へと落下していった。


 私は、鏡を消してグールの群れへ飲み込まれるリッチを見送った。


「ふう……やはり初手で大技の方が燃費がいいな」


 石の足場を縮めて砦の屋上へと戻る。


「アーク様!グールの排出と壁の修理が完了しました!」


 どうやら下も終わったようで、あとはグールの掃討に入るだけとなった。グールは高い壁に対し何もできない。もう消化試合のようなものなので、一休みしようかと思ったときだった。


 あの聞き取りづらい声が響いた。


 奴らは、アンデットのようだが光属性なのを忘れていた……。アリッサからの報告を今更思い出した。


 リッチはまだ消滅していない!


「オノレ!ダシオシミ ハ ナシダ!シンオウ サマ カラ イタダイタ チカラ ヲ トクト アジワエ!」


 グールの群れが一箇所に集まっていく。グールの上にグールが登り山のようになっていく。


 肉が裂け骨が飛び出すのも構わず一つの塊になっていく、やがてそれは、砦よりも大きな一つの塊となった。


 肉塊は血を滴らせながら形を変えてゆく……。


「何だあれは……」

「ひっ!人だ!うずくまった人の形をしているぞ!」


 砦から響いた悲鳴どおりそれは、人の形をとり始めた。


 あれはまずい!強さとは質量……それを地で行く巨大な人肉ゴーレム……。


「フハハハハハ! コレゾ キュウキョク! ジャイアントフレッシュゴーレム!」


 砦より大きな人肉の塊は立ち上がろうとしている!


 あれに対抗できるのは……この度持ってきた古代兵器だけだ!


「古代兵器を起動する!土魔法班、水魔法班の各8名は屋上へ来い!その他は砦を捨て撤退しろ!」


 私と、16名を残し、砦の裏から速やかに脱出していく。


 屋上では、私の周りに水晶玉の付いた石造りの柱が4柱立てられた。私を中心に正方形の頂点に配置された柱に各属性の魔導師が4人ずつ配置された。


 私は両手首と両足首に古代魔導具のブレスレットとアンクレットをはめる。


「魔力充填!古代兵器起動!」


 私の指示で古代兵器の起動が始まる!


「水魔力充填!水魔力起動水準に到達!」

「土魔力充填!土魔力起動水準に到達しません!」


 少し魔力が足りないようなので、檄を飛ばす!


「気合を入れろ!アレを農都に行かせるわけには行かない!」


「「うおぁああああ!」」


 土魔導師たちから気合の入った叫びが聞こえる。


 するとブレスレットとアンクレットが光り輝き始めた!


「土魔力起動水準に到達!」

「よし!古代兵器[レイトの大巨人]起動!」


 建国以前より伝わる古代兵器が、


 数百年の時を越えて、


 今起動する!




 アンデットの弱点は光魔法だから、スペクトル(腐)の見た目に騙されてつい反射的に光を使ってしまうけどスペクトルは、光属性なので効果が薄いです。ややこしいですね。


 次回は巨人の殴り合いの予定です。

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