130-ナイスアリッサ!
エプロストリング領へ向かうパーティーに組み込まれた私達は、互いの能力を確認するために軽く模擬戦のようなことをすることになりました。
最初の手合わせは、剣士同士ということで私VSアロイーンさんで行うことになった。
私の相手をするのは勇者のアロイーンさんです。濃紺の逆だった髪型にいたずら少年のような顔立ちで瞳の色は青、純白に金の飾り細工が施された見事な鎧を身に着けている。
天幕郡を北の前線方面に通り抜けた先に広場があり、そこで戦うことになった。魔防軍の皆さんに囲まれながらアロイーンさんと対峙している。手に持つのは木剣で二人とも鎧はそのままなので多少打ち込んでも平気でしょう。
「よろしくおねがいします!」
フフッ元気があってよろしいですわね!どれくらい腕を上げたか楽しみだわ。
「こちらこそよろしく」
互いに剣を構えるとロットヴァルデ卿の合図で手合わせが始まる。
アロイーンは、剣を上段に構えてそのまま突撃してくる。私を攻撃範囲に捉えると「やぁ!」とそのまま木剣を振り下ろす。
私はそれを楽々と回避する。
一般兵の域は楽に超えているが、スピードはファーダやラーバルには及ばない。しかしパワータイプにしては十分な速度だ。しかしフェイントも何もなく以前魔王と戦っていたのを覗いたときと同じただの振り下ろし。
それ自体が良くないわけではない聖剣の重さを最大限に活かした良い攻撃だ。問題はそればかりになってしまうことだ。
アロイーンはもう一歩踏み込むともう一度剣を振り下ろした。
うん……まるで成長してないわね……。仕方がない[巻き上げ]で剣を飛ばして終わりにしましょ。
振り下ろされた剣を両手で握り水平に構えた剣で受け止める。剣が止まったのを確認し相手の剣に沿って巻き込むようにして上から押さえつけようとしたその時だった。
剣に集中して目線を上げていた所にアロイーンの前蹴りが私の腹部に迫る!
油断していた私は避けきれず衝撃を和らげるために後ろに跳ぶので精一杯だった。ダメージはないが確かに攻撃を食らった!
「やるじゃないか!」
私はなんだか楽しくなってきた。
「あちゃー油断しているうちに一撃入れておきたかったんだけど、あれじゃ当たった内に入らないなぁ」
そう言って下ろした足は地面につくとズシンと鈍い音が響いた。そういえば鎧も重くできるのでしたね!そうなると殴りやケリにも注意しないといけませんね。
「次はこちらから行く!」
私は一気に間合いを詰め剣を横薙ぎにすると、アロイーンはこれを辛うじて受け止める。間髪入れずにすぐに剣を引き上段に構え振り下ろす!驚いたことにこれも剣を水平に構えて防がれた。
先ほどと逆の状況になったので私もガードが空いた腹に素早く前蹴りを放つが、流石に自分がやった技を食らうはずもなく大きく飛び退いて避けた。
飛んだ!空中で移動することはできないので攻撃のチャンス!すぐに飛び退いたアロイーンを追う![脚壁]を出しそれを足場にして全力で踏み込み猛スピードで迫る。
アロイーンが着地するより早く落下地点に行きながら、まだ空中にいるアロイーンの胴をすれ違いざまに木剣で打ち抜いた。
私の木剣は折れアロイーンさんは殴り飛ばされ1メートルほど先にゴロゴロと転がった。
「そこまで!勝負あり!」
ロットヴァルデ卿が宣言することにより手合わせは終了した。
私は転がっているアロイーンさんに手を差し伸べて引き起こす。
「いや~世界には強い人がいっぱいいるんですね~俺もまだまだだな~」
「いえ、あなたも十分にお強い。剣を振るう事だけにこだわらない姿勢は大変良かったですよ」
ちゃんと訓練しているみたいで成長しているのがちょっと嬉しかった。レンさんに追い抜かれそうだと思ったけどこれは評価が難しくなってきましたね。
次の手合わせはアリッサVSリーシャー&ニーニャで行うことになった。
リーシャーさんは朱色の髪をポニーテイルに結んでいて、顔にはそばかすのある素朴な雰囲気で瞳の色は水色、白い大きめの魔石が付いた短い聖杖に白くて綺麗なローブはところどころにフリルと金の刺繍がしてある。
ニーニャちゃんは輝くような金髪は両サイドで編み込まれ後ろにまとめられていて、可愛らしい顔立ちにくりっとした青い目をしている。服装は真っ赤なローブで袖と裾に白い帯状の模様が入っている。手には大きな魔石が付いた背丈ほどある杖を持っていた。
なぜアリッサが二人を相手にすることになったかというと「特定の人物に心酔してその人を越えようという気概がない人なんて二人同時相手にしても余裕でしょう」なんて余計なこと言ったからです。
そりゃもう発狂と言っていいほど怒っていましたよ。
手合わせが始まるとアリッサは直ぐに行動を開始した。
「白狐招来!黒狐招来!やるわよ二人共!」
「「御意!」」
「「魂混献!」」
アリッサを紫炎が包み込む。
「鈍色空狐降臨!」
頭には狐耳が生え髪は、にび色のロングヘアに変わり服装は巫女服になっていた。アリッサは最大の攻撃力を持った鈍色空狐へと変身した。
狐面の耳と合わせて耳が6つになったわ!などと余計なことが頭に浮かんだ。
驚いて動けない二人に対してアリッサは「スキだらけね、やはり口ほどにもないですね」と追加挑発……。
挑発された二人は手合わせとは思えないほどの攻撃力を持った魔法を放つ!
ニーニャちゃんは炎魔法の使い手らしく特大の炎でできたドラゴンを生み出すとそれをアリッサにけしかけた。周りの兵士たちはざわついたが、アリッサはそのドラゴンに右手を掲げて黒狐の青い炎を打ち込んだ。すると炎でできたドラゴンを燃やすという理解不能の現象で消滅させた。
「私の炎で上書きさせてもらったわ……」
つぎにリーシャーが無詠唱かつ溜めもなしに極太のスコーチャーレイのような光の束を放つ!
アリッサは左手にまとった赤い白狐の炎でそれを軽々受け止めた。
「太陽の力とはいえ熱に変換してしまっては炎の使い手である私には効かないわ!」
うわ……アリッサったらカルラ様のセリフを丸パクリしてるじゃない……。
大技を軽々とあしらわれた二人は思わず動きを止めた。眼の前でバケモノのじゃれ合いを見せられた兵士たちはしんと静まり返っていた。
アリッサは反撃に出ようと両手の炎を柏手を打つように混ぜ合わせて紫炎を作り出した。あたりの空気がピリ付き出したのを感じたロットヴァルデ卿は慌てて大声で叫ぶ。
「そこまで!実力は十分わかった!」
「そう?まだ何も攻撃してないけど、丸焼きにした後で治療の腕も見せるつもりだったのですけど、まあいいかな~」
アリッサは物騒な計画を漏らした後すぐに変身を解いた。すると周りの兵士達から安堵のため息が漏れた。
うん、どう見てもやりすぎね、一体何がしたかったのかしら?ちょっと注意したほうが良さそうね……。
私はアリッサに駆け寄り小声で話しかける。
(あなた何してるのよ!どう考えてもやりすぎでしょう?)
(いいの!関わることになってしまった以上あのふざけた部隊名を変えさせるの!もうひと芝居するから話を合わせてね?)
(そう言う意図があったのね何するかわからないけど協力するわよ)
「どうやらあなた達はマルレリンドとアリッサの知り合いのようだけど、あなた達が知っているアリッサよりも私の実力は上です。そしてトモは、あなた達の知っているマルレリンドより実力が上です。そうよねトモ?」
えーと……確かに昔の私達より確実に強くなっているから嘘はついてないですね。ですから「その通りだ今の俺の方が強い」と答えておきました。
急に二人の名前を出したことでいろいろ考えているようだが、考えがまとまったリーシャーがポツリと呟いた。
「そっか……師匠とマルレさんはクロービに居るんだっけ……。二人を知っててもおかしくないか……」
「マルレリンド様より実力が上!?信じられませんわ!でも本当なら5人でも十分すぎる戦力だわ」
「あの二人より強いって……あの蹴りを本能的に躱して正解だったな……。受け止めて反撃する予定を崩してよかった……」
いろいろ納得してくれたみたいね。5人編成で行くことは決まりね。そういえば部隊名はどうするんだろうと気になりアリッサに目配せすると小さくうなずいた。
「そういえばあの二人は故郷での二つ名を嫌ってたよね?そうだよねトモ?」
「ああ!そうだなハルカの言うとおり止めてほしいとよく愚痴をこぼしていた!」
これで妙な二つ名も消えるはず!ナイスアリッサ!
「「「ええっ!!!!!」」」
リーシャーさんとニーニャちゃんそれに2つの部隊員たちまでもが驚いていた。
「やっぱりそうっすよね!俺も勇者とか荷が重いと思ってるもん!」
「私だって!師匠を差し置いて聖女とか言われると……。そうね……隊の名前は考え直したほうが良いかもしれませんね……」
二つ名を背負っているアロイーンさんとニーニャちゃんにも似たような体験があるようですね。
「今すぐ代案を考えますので!お二人に隊の名前にしていたことは内密に!」
「!!! 私からもお願いします!師匠には黙っていてください!」
やった!うまく行ったわ!これでやっと学生時代の心残りが消滅する!
「約束しよう」
「もちろん秘密厳守します」
崇拝者より実力が上の存在がいることを示した後に、本人たちが嫌がってたって教えることで無事に改名させることに成功しました!アリッサの策略が見事にハマりましたわね!
とにかく3人は隊で動かないことに納得したようなので、ようやく敵の領地へ行く準備に取りかかることができるのでした。
アリッサの実力を示せと言われると平和的に行くのが難しい!瀕死の人を用意するとか腕を切り落としてそれを治療するとか物騒なことになるので無理やり空狐に変身させた結果アリッサの頭は耳だらけになりました。
次回は移動会になる予定です