113-八岐大蛇
オロチは8本あるうちの首を一本だけ下げて話しかけてきた。
「何をしに来た人間……贄は4年分貰っているぞ……次は再来年からだぞ?」
私達の頭より大きな目玉をギロっと動かしサキさん、アリッサ、私を確認した。
「……また先納か?」
どうやらこいつは無謀にも討伐にきた超越者4人を生贄だと思ったらしく今日までおとなしくしていたようでした。
「ちげぇよ!でかいトカゲ野郎をたたっ切りに来たんだよ!」
外道丸さんが苦虫を噛み潰したような表情をしながら一歩前に出た。付きまとわれて迷惑していたが荒事には及ばず同行を許していたのですから、ああ言っていたけど彼女たちには思うところがあるようです。
「ふむ……前に来た贄4人も初めはそのようなことを言っていたが、軽く威圧しただけで動けなくなったぞ?あれで討伐に来たなど冗談であろう」
オロチは牙をむき出し笑っているのか威嚇しているのかよくわからない表情を作った。
「だから贄として扱いしっかりと最後の願いも聞いてやったしな……」
「願い?なんだそれは?」
外道丸さんは刀に手をかけながら問い返した。
「お前だよ……。お前への呪いを成就してやった……。そうだな……私の力で鬼へと生まれ変わったのだから、いわば私はお前の父になるのか?フハハハハ!」
「なんだと!?この角はお前の仕業か!」
外道丸さんが刀を抜いたのを合図に全員が戦闘態勢に入る。
「作戦通りに行くぞ!」
「承知した!」
「ええ!わかりました!」
「りょ~かい!」
「はい!まずは首を弱らせるのでしたね!」
作戦の第1段階は首を弱らせることです。まずはオロチの持つ強力な回復力をどうにかするために首を痛めつけて意識を失わせるのです。
ギュオワアアアアアアアアアア!
オロチは八本全ての首で咆哮を上げ大気が震えた。それを合図に皆が散り散りになり4箇所で戦いが始まった。私はそれを中央で回避しながら観戦する。
外道丸さんは瓢箪の酒をグビグビと飲むと、ふらつくような独特の動きへと変化する。彼のスキルは[剣術][双武][筋力増加][酔拳][回避術][魔法感知][薬師]だ。
回避酔双剣士と呼ばれる鉄板構成だ。[剣術][双武][筋力増加]で攻撃力を上げ[酔拳][回避術][魔法感知]で物理と魔法の回避力をあげる。そして余ったLv5で[薬師]を取り薬の効果を底上げする。この構成は攻撃にLv30、回避にLv30、回復にLv5で防御には一切振らない死ぬ前に殺せ!を体現する超攻撃的前衛職だ。
「行くぞトカゲ野郎!酔拳、双武、剣術、混合奥義!二重酔桜!」
オロチの頭突きをゆらりと回避すると同時に二本の刀がオロチの鱗を切り裂く。血の代わりに桜の花びらが舞い散る。ゆらりと動く度に舞い散る花びら。火炎も首でのなぎ払いも回避しオロチは外道丸さんに触れることすら出来ない。それどころか攻撃の度に返し技である二重酔桜を受け花びらか舞い散る。
限界を迎えたオロチの首は意識を失い桜の絨毯へと横たわる。その風圧で地面に落ちた桜の花びらが舞う。
外道丸さんは桜吹雪の中に入り大きな盃を取り出しそれに酒を注いだ。盃に花びらが落ちたのを確認するとぐびっと飲み干した。
「よし!一本終わり!」
「なに戦闘中にくつろいでるのよ!」
「あ?技のモーションだよ!サボってるわけじゃねーよ!」
「ていうかマルレこそなにやってるんだ?」
私はビー!ビー!という音を出しながら4本の首からの攻撃を回避しつつ[採掘]をしている。
「この音はねヒヒイロカネ探知機なの!どうやらここにヒヒイロカネ鉱石がいっぱい集まってるみたいだからずっと採掘してるのよ!」
「なっ!お前のが遊んでるじゃねーか!」
「わかりましたわよ!一本潰せばいいんでしょ!」
ちょうど頭突してきた首を[挟脚壁]でギュッとして気絶させた。
なにか言いたそうな顔をしていましたがそれを飲み込んだようで、「……それなら良し!じゃあ俺は八塩折の用意しておく」と後方へ下がってしまった。何が良いのかわかりませんがとりあえず鉱石が逃げる前に[採掘]してしまいましょう。
回避採掘をしながら他の3人の様子を見る。
2番目に首を倒したのはアリッサだった。「アリッサ、お主の魔力は膨大だな、我の力の全てが出せる。今までで一番の召喚者であるな!」そうおっしゃるカルラ様の足元には焼け焦げたオロチの首が横たわっていた。アリッサは「もうカルラ様だけでいいんじゃない……」と拍子抜けしていた。そりゃあの強さですもんね楽勝ですよね。
それに合わせて私も首をまた1つ[挟掌壁]でペタンとして気絶させた。
「マルレ無事!?って引きつけるだけって言ったのに二本倒してるし……」
「アリッサはみんなの体力回復でもしておいてよ私はこれやってるから」
そう言ってビービー五月蝿い鈴の形をした[ヒヒイロカネ探知機]を指さして採掘中だということを知らせると呆れた様子でレンさんとサキさんの支援に向かった。
3番目に首を倒したのはレンさんだった。[爆炎発勁]で首元を内部から大爆発させ持ち上げられなくなった頭へと火炎弾である[溶熱破]を放ち着火させる。燃え盛り苦しむオロチの首を掴み爆発の勢いで地に押し付ける。それでも止まらず馬乗りになり炎の拳で連打する。あれは[掴爆乱打]ね!あの技は大きい相手には使いにくい掴み系統の技なのに……すごい!
レンさんはちらっとこちらを振り返りニコっと笑った。あっ!もしかして私に見せるためにLv順に技を使ってるの?もう……なんて律儀な人なんだろう……。ということは最後は[鳳凰炎武]ね!
「うおおおおおお!奥義!鳳凰炎武!」
オロチの前で大きく拳を突き上げると、それに合わせて特大の火柱があがりオロチの頭を包み込む。激しい炎の奔流はオロチを焼き尽くしていく。
「滅却せよぉぉぉ!」
いやいや!滅却しちゃだめでしょ!気絶させるのよ!……本当に大丈夫かしら?
「この大馬鹿者!気絶させるだけです!」
戦いながらもレンさんの様子を見ていたようでサキさんから鋭いツッコミが入る。
「すまない……いいところを見せたくて……つい……」
途中で止めたおかげでオロチの首はまるコゲであるがなんとか息をしているようだ。
私はホッとして私に攻撃してくる3本目の首を双掌壁で地面に叩きつけて気絶させた。
そして最後のサキさんは両者傷だらけでオロチの首と向かい合っている。レンさんの治療を終えたアリッサがサキさんに光魔法奥義[完全回復]をかけた。
「ありがとうございます!私もそろそろ終わらせますわ!剣術・槍術・大武混合奥義![血花大旋風]!」
青龍偃月刀を下から上えと振り上げオロチを切り上げる。そのまま勢いを殺さず一回転しもう一度切り上げる。回転する度に上空へと血飛沫があがる……。この血飛沫を花と例える技の開発者のセンスがすごい……。
無数に縦斬りされ、血を撒き散らしたオロチの首は力なく地に伏した。
私も避けるのが面倒になってきたので、首根っこを捕まえて抑え込んでいたオロチの首に膝蹴りを入れて4本目を気絶させた。
「首を一本倒した後にマルレさんの救援をするって事になっていましたが、やはりその必要はなかったようですね」
「ですから平気だと言ったのですが、聞き分けのない二人がいましたからね」
私は4本相手でも楽勝なので救援はいらないと言ったのに、それでも終わったらすぐ駆けつけると言っていた。しかし外道丸さんもレンさんも採掘しながら戦う私を見て救援する気が無くなったようでした。
「さて!鉱石もいっぱい掘れたし!後は外道丸さんね!」
後ろに下がった外道丸さんを見ると、目をつぶり腰についていた瓢箪を手に持ちぶつぶつとなにか唱えている。全ての呪文を唱え終わったようでカッと目を見開いた。
「八塩折樽招来!」
気絶しているオロチの頭の下から大きな酒樽がせり出してきた。首が乗った酒樽は外道丸さんの「開封!」の掛け声で蓋が開きオロチの首が酒樽の中に入る。呼吸をするたびに空気の代わりにオロチの喉に酒が入ってゆく。そう、酒を飲ませるために気絶にとどめたのだ。
しばらくするとオロチの体が光だした。
「再生前に間に合ったな!離れろそろそろ再生が始まるぞ!」
オロチの首は体から送られた魔力によってどんどん回復していく……。しかしその代りに体内へ八塩折の酒が流れ込む。体内に入った八塩折の酒は魔力の流れを破壊し再生機能を妨害し始めた。
中途半端に回復した首は、酒のせいもあり満身創痍で弱体化しており私達に簡単に倒された。
「仕上げだ!体の魔力に守られてた再生の源を断つ!天羽々斬!」
外道丸さんは青白い刀身の直刀を抜きオロチの背を飛び越える。構えたその刃を尾の付け根へと振り下ろした。するとオロチの傷口からは光魔法と同じ輝きの光が吹き出す。外道丸さんは傷口をえぐるように何度も斬りつける。深く切り込むほどに光は強くなり、ついにパキィィィンという私の嫌いな音がして光が収まった。
再生の源である尾が切り落とされ邪竜の首の8本と体は完全に絶命した。
ヤマタノオロチ戦でした。ヒヒイロカネがいっぱい集まっていたので戦闘中に採掘しちゃうマルレに呆れる皆さんでした!
次回はマルレのもう一つの奥義が出る予定です。