111-閑話:召喚ってどういう感じなの?
私達姉妹の修行は終わり、後は将軍とレンさんの交渉の結果を待つだけになりました。
私はほとんど在庫がない鉄を求めて採掘に行くことに決めた。寝不足でボーッとしているアリッサにそう伝えると。「外に行くならシロちゃんを散歩に連れて行ってあげてよ」と頼まれたので白狐と一緒に河童屈へと向かった。
河童屈で採掘をしていると、白狐は暇だったようで石をひっくり返したり、水たまりをじっと見たりしていた。しかしそれも飽きてしまったのかついに河童を追い回して遊び始めた。
「ヤメテ!コノ キツネ ドウニカシテ!タノムヨ トカゲゴロシ!」
河童が親しげに話しかけてくる。蜥蜴人の集落が壊滅している事実と、私が見逃した河童が見たことを結びつけて噂に尾ひれがついた様だ。結局恐怖と恩義がいい具合に混じった結果、友人扱いに落ち着いたようで私は河童たちから攻撃されなくなり、気軽に話しかけてくるようになった。
「その蜥蜴殺しって呼び名やめてマルレって呼んでくれるなら良いよ」
「ワカッタ!マルレ!タスケテ!」
「シロちゃん河童が可愛そうだから止めてあげてね」
「わかりましたマルレ様」
素直に従ってくれたけど、きっと暇なのがいけなかったのね……。そうね、疑問に思っていた被召喚者について聞いてみようかしら?
「あなた達精霊の召喚ってどういう仕組みになってるんですか?」
「私たちは基本的には精霊界に住んでいます。そこで呼び出された時に気が向けば、それに応じます」
「へぇ~強制的じゃなくて気が向いたらなんですか」
召喚というと無理やり突然という感じがしてたので意外ですね。
「そうですね、でもほぼ全ての精霊が受けますけどね」
「なにか良い事でもあるの?」
「魔力をもらえるってのもありますが、死んでも戻るだけなのでリスク無しに遊びに出かけられるといった感覚ですね、いろいろな世界が見れて面白いですよ」
アバターで別世界への旅行って感じなのかな?なんだか楽しそうね。
「楽しそうですわね。私も行ってみたいですわ」
「でしたら一度行ってみますか?」
「そんな事できるのですか?」
「出来ますよ、少々お持ちくださいね」
白狐が目をつぶりじっとしている。きっとなにか凄い事をやっているのでしょうね。
「指定なし召喚の超級クラスに1回限りで登録しておきましたので呼び出しが来れば自動的に転送されますよ」
「そんな予約登録みたいなものなの?」
「ええ、指定なしでの召喚はそうですね。登録者の中から条件にあった人が呼ばれます」
召喚の話を終えアリッサの前世での恥ずかしい失敗を白狐に暴露しながら採掘を続けた。しばらく掘ると鉄鉱石もいい感じに溜まってきたので、そろそろ休憩しようかとしていたときでした。
「マルレ様、呼び出しきましたよ。もうすぐ転送されます!」
「え?あ!ちょっとまだ心の準備が!」
足元に六芒星を基礎とした魔法陣が浮かび上がった。
「おー!すごくきれいね!」
「行ってらしゃいませ」
「行ってまいります!」
あたりの景色が洞窟から山脈の荒れ地のようなところへと変わった。木は一本も生えていなくとても乾燥している場所だった。どうやら本当に召喚されたらしい。そして周囲には人間が6人いた。盾剣、両手剣、短剣装備の戦士風の男が3人、弓使いの女性が一人白ローブの回復師だと思われる女性が一人、そして私を召喚したと思われる女性がいた。見事に前衛後衛で男女が別れている。
目の前には彼らの敵だと思われる奴がいた。赤い皮膚で禿頭に角が生えた巨大なおっさんが地割れから上半身だけが出ている。落っこちて挟まったのかしら?と思いましたが、どうやら赤いおっさんは地割れの中から出てきたようです。
なにかヤバイものが復活しそうって感じかしら?周りを観察しそんな事を考えていたら召喚師たちが騒がしくなった。
「おい!最強の召喚獣とやらはどうしたんだよ!ツルハシ持った貴族の令嬢みたいなのが出てきたぞ!」
「私にもわからないわよ!召喚に応じてくれた一番強い精霊が来てくれるはずだったのよ!」
あら?なにか揉めているみたいね……。私はツルハシをインベントリにしまって彼らに話しかけた。
「どうもごきげんようマルレリンドと申します。よろしくお願いいたしますわ」
私が丁寧に自己紹介したのにポカンとしていて何も反応がなかった。
「ええと?あのー、私は召喚に応じてこちらに来たのですが、敵はアレでいいのですか?」
私は念の為に赤でっかいおっさんを指さして尋ねる。
「え?あっはい……あそこにいる復活寸前の巨人の王と戦っています。あいつに攻撃してもらえますか?」
私を召喚した女性が混乱する頭を働かせてくれたおかげで、なんとか意思の疎通が出来た。
「では行ってまいります!」
「えっと?おきおつけて?」
私は地面をけるとまずは普通に殴ってみることにした。相手が大きすぎてどこを攻撃してよいかよくわからなかった。赤おっさんは、這い上がろうとして地面に手を付いてい力を込めている。とりあえず、でっかい人差し指が一番近かったのでそれを殴りつけた。
「ぐおぉおおおおおお!」
おっさんのでかい口から大音量の唸り声とそして目の前に謎の数字が浮かび上がった。
<4346>
「何この数字?」
おっさんの指は関節ではないところで曲がってしまった。かなりのダメージがあったようですぐに手を引っ込めた。
「その数字はダメージですよ!」
「ワンパンで4000超え……」
私を召喚した人たちの声が聞こえてきた。どうやらこの世界ではダメージを与えると数字が出るらしい。
「へぇ~面白いのね!もっとやってみましょう!エンド・オブ・ブラッド!」
私は血霧を吹き出しながら、おっさんの腹部に強めの連打を放った。
「ぐあわあああああ!」
このおっさん五月蝿いわね……声のデカさって喉のデカさに比例するのかしら?
<9999+><9999+><9999+><9999+><9999+>
「あれ?もう表示限界なの?+って何なの?これじゃ本気出してもわからないじゃない!」
もがき苦しむおっさんは腕をデタラメに動かしまくり私を攻撃してきた。拳が地面に叩きつけられる度に大地が揺れ後ろの人達が五月蝿い。でかすぎて、スローモーションのように見えてしまうので避けるのは簡単だった。一度おっさんの手が届かない召喚士たちのところまで飛び退いた。
「うーん思ったより楽しくありませんわね」
召喚士が慌てて私に駆け寄ってきた。
「あの!魔力がやばいので本気出してもらっていいですか?」
「え?いいですけど近くに人が住んでたりしませんか?危ないですよ?」
「ここは巨人の国なので大丈夫です!ガツンと行っちゃって下さい!」
「わかりましたわ!」
巨人の国だから平気だって言ってましたよね?なら全力で行きますか……。
「エンド・オブ・ブラッド・フルバースト!」
赤い霧が吹き出し周囲の大地にはヒビが入る。力の解放と共に髪がフワフワと浮かぶのを感じる。脚壁で足場を確保して、おっさんの鳩尾を思い切り蹴りあげた。
「せりゃああああああああ!」
<9999++++>
蹴りを食らったおっさんは勢いを殺せずその巨体は浮き上がり地割れから飛び出した。
「あああああ!巨人の王が復活しちゃったよ!」
「おいいいい!弱らせて封印するんだよー!」
外野がなにやら五月蝿いけど無視して次の攻撃に移る。おっさんはすばやく立ち上がると私めがけて走ってきた。
走り込んだ勢いから放たれた拳を軽くかわす。凄まじい風圧と振動が起こり召喚士達は吹き飛ばされてゴロゴロと転がっていった。外れた拳は地面にめり込み腕は動かせなくなっていたのでそれを駆け上がり肩を狙った。
「挟脚壁!」<9999++++++>
流石にこの大きさだと爆散はせず肩の周辺がスタぼろになった。どうやら腕が使い物にならなくなったようで、だらんと力なく下がっている。
「これなら激流飛壁も行けそうね……」
痛みにひるむことなくおっさんは踏みつけ攻撃をしてきた。デカすぎて攻撃地点が丸わかりなのでまた簡単に回避する。私は叩きつけや踏みつけを避けながら手の中に極小の壁を大量に作り出し溜めていく。そして抱えきれないほど溜めた小さな壁をおっさんに向けて解き放った。
「激流飛壁!」
限界まで溜めた激流飛壁はおっさんをらくらく包み込むほどの幅に広がりおっさんは飛壁の激流の中に姿を消した。
飛壁が当たる度にダメージが出たせいか数字表示がかさなり過ぎて全く読めなかった。
数字が表示されなくなると赤い巨人のおっさんは小さな壁に削り取られチリと化した。激流飛壁が通った後の大地は地平線の彼方まで円筒状に削り取られている。
「終わりましたわね!さて!この世界の観光にでも行きますわよ!」
私はこの世界の食べ物や観光名所それに魔道具に思いを馳せる。白狐の言ってた通りとても楽しそうだ。
「ははは……すげぇ……。ヤバイの呼び出しちゃったな」
「観光するんだってさ……。呼び出したお前が面倒見ろよな……」
「え?私ですか!?みんな助かったじゃないですか!」
何やら揉めだす召喚士達……すると私の体からキラキラと光が出始めた。
「あ!残念ながら魔力切れです!観光はまた今度ということで!」
「ちょっと!全然残念そうじゃない顔してるわよ!早く魔力回復しなさいよ」
「ごめんなさい回復薬切れちゃいました!」
召喚士が腰のベルトにつけている蓋のないポーチのようなものに青色の液体が入った瓶が見えた。
「ちょっと!その腰の青いやつ魔力回復しそうじゃないのよ」
「こっこれは……あ!HP回復薬です!」
じろりと他の人達を睨みつけるとすごい勢いで首を縦に振った。
うん……ゼッタイ☆ウソ!
「嘘でしょ!なんでもいいからはやく飲みなさいよ!」
そう言い終わった途端に私は河童屈へと戻っていた。
「どうでしたか?別世界は?」
出迎えてくれた白狐があちらの世界の事を聞いてきた。
「楽しむまえに召喚者の魔力が切れちゃったわ……」
「そうでしたかあなたほどの力だとかなり魔力消費が高いですから、私の主でも1時間が限界でしょうね」
「そうなのですか、遊べるほど長くいられないのね……じゃあ二度とご免だわ」
無事に元の世界に帰ってきた私は採掘作業へと戻った。
召喚の仕組みを考えてたらこんな話ができました。別の人から同時に呼ばれた場合は好きな方に意識をつけられるので、喋らないときは自動モードです。
次回は魔道具開発をさらっとやって邪竜と対面する予定!