011-王都でお茶を!
「早く行きましょう!」
私は今、アリッサちゃんに手を引っ張られながら、王都の商店街に来ています。今日の訓練は休みだと伝えたら「カフェに行きましょう!」アリッサちゃんは、はりきっています。
「ちょっと! そんなに引っ張ったら危ないでしょ!」
「だって、こうして無いとフラフラと、どっか行っちゃうじゃない!」
私が、街のいろいろなことに気を取られて、目的地になかなか着けないのが、不満のようです。
「気になってしまうんだから、仕方がないでしょ?」
「マルレちゃんの性格だと、そうなっちゃうのはわかるよ。けど友だちと、一緒のときは、こっちも気にかけてよ」
「うう~、ごめんなさい気をつけます」
結局、最初の目的地のカフェまで、手を離してくれませんでした。カフェは、焼き菓子と紅茶を出す店です。読書しながら紅茶を飲む紳士や、女の子グループ、カップルなどいろいろなお客さんいます。空席もほとんど無く、とても繁盛している良いお店です。
「ここですよ! さぁ入りましょう」
店員さんに案内されて席に座るまで手を引かれたままでした。私が意識をそらすのを許す気はないようです。
「マルレちゃんは何にしますか?」
多数あるメニューにいろいろ目移りする。どれがいいかしら? うーん悩みますね。
「私はエクレアにしますアリッサちゃんは?」
「私もエクレ……ハッ! やっぱりガトーショコラにします」
あれ? 同じものにならないようにと気を使わせてしまったかな? 店員さんに注文を伝え、前から気になっていたことを聞いてみることにします。
「あの……。私ってほとんど、アリッサちゃんとアーク様としか話していないでしょ?」
「うーん? まぁそうですね」
「このままでは、良くないと思いまして、友好関係を広げようと思いますの」
「無理して広げなくてもいいと思うけど?」
追放計画のためにも人脈は多いほうがいいと思うからどうにかしないと。
「いえもっと、こう……。取り巻きとかをはべらせてですね」
「なにそれ! マルレちゃんに全然似合わないし、それ友達じゃないよ!」
「やっぱり、そうですわよね」
予想どおりの答えにガックリと肩を落とす。やはり向いてないですよね……。
「でも学園で話す知り合いは、多いほうがいいと思うんですよね」
「取り巻きは、止めたほうがいいけど、友人を増やすのはいいと思うよ」
アリッサちゃんの表情と言葉があってない気がするのは気のせいでしょうか?
「そこでお聞きしたいのですが、きっかけがよく分からなくて」
「う~ん、まずは名前と顔を覚えることからかな」
「私人の名前と顔を覚えるのが苦手なんです」
「うん、知ってる。マルレちゃん声かけられても『どなたでしたっけ?』だもんね、見ていてちょっとかわいそうでしたもん」
わかってはいたけど、やはりそうですよね。わざわざ話しかけてくれたのだから頑張って名前を覚えようと思ってるんですが……。お名前を聞くと「なんでもないです」って逃げられてしまうんですよね。
「なんで逃げちゃうんだろ? って思ってるでしょ」
アリッサちゃんは、何でもお見通しですね。
「名前なんてそのうち覚えればいいのよ! 適当に話して後から覚えればいいんです!」
「そうですか……。頑張ってみます」
「そういえば ラーバル様はすぐ覚えてましたよね?」
「ええ、小さい頃に顔と名前が覚えられないと、両親に相談しましたら『マルレが名前を事前に覚えておくべきなのは王族とバルトレイス公爵家だけだ。他の者はおまえに名を覚えてもらうよう努力すればよい話だ』と言われまして……。お兄様やお父様は一度会った全員のお名前を覚えてるのに……」
「そうなんだ、貴族様ってなんか大変だね……」
「そうよ! ラーバル様から始めればいいんだわ!」
「むぅ……」
なんでアリッサは、ふてくされてるのかしら? おかしなこと言ったかしら? とりあえず、ラーバル様から友好を深めてみようかしらね! なんだかやる気が出てまいりました!
店員さんが「お待たせいたしました」とエクレアとガトーショコラを運んできてくれました。とてもおいしそう! この世界の食が前世と似ていて本当に良かった! ん~前世か~そういえば通算年齢が今年で、さんじゅ――私は考えることを止めた……。
「来たよ~おいしそ~」
「ええ、ほんとに!」
「「いただきます!」」
おいしいわ~エクレア~! まさかスイーツが食べられるとは思わなかったな~砂糖が貴重品! とかだったら第2の人生投げてた自信がありますわ~むむ! アリッサちゃんのガトーショコラもおいしそうですね。そうだ半分交換しましょう!
「アリッサちゃん、半分交換しません?」
あれ? すっごいニヤニヤしているわね。そんなにエクレアを食べたかったのかな? ガトーショコラを一口大に切り分けフォークに挿してこちらに差し出す。
「どうぞ!」
何しているのこの子! 恥ずかしい! でも食べたい! えええーい!
「あ~ん」
しっとりしてて大変、おいしゅうございました。
「あらおいしい!」
なぜ彼女は「あ~ん!」といいながら口を開けてるのでしょう? これは、やる流れですか? すっごい恥ずかしくてやりたくない……。でも……覚悟を決めました。
「どっどうぞ!」
エクレアを急いで切り分けて口に押し込む。
「う~ん、おいしい」
そんなとろけるような顔をするほどおいしかったでしょうか?
スイーツを食べ紅茶を飲み終わると、もう日が落ちかけていました。夕食もどうかと誘ったのですが、アリッサちゃんはお金がギリギリらしいです。高級店ばかりの王都での外食は厳しいようです。
私が支払うと提案したのですが「それは友達じゃなくなるからダメ」と言われてしまいました。私は両親と領民に感謝しないといけませんね……。
そういった事情でしたので、私たちは、暗くなる前に寮に帰ることにしました。
ああー! 今日は楽しかったな~また街にでかけたいな!