010-騎士団基本訓練
私は今騎士団訓練場で15人の新兵の方々と一緒に整列している。ラーバル様のお兄様で騎士団長のラッシュ・バルトレイス様に、訓練の説明を受けています。新兵の方々も今日が初訓練で、いわば同期みたいな存在ですわ!
ラッシュ騎士団長様が、演説の最後を締めくくっている。
凛々しい顔立ちに短髪の緑髪に獲物を見定める鷹のように鋭い目つき。緑の瞳は、戦闘モードのラーバル様とそっくりですわ。
「以上が! 騎士の心得である! 騎士団の名を汚さぬよう邁進せよ!」
シルバーに輝く騎士の鎧が手ぶりに合わせて、金属音を立てている。
ラッシュ様は、文武両道、清廉潔白、まさに白馬に乗った騎士! といった感じですね馬には乗ってませんけど。あのバカ王子より、よっぽど王子らしいですわ!
「「「はい!」」」
「では、基礎訓練は副団長のラーバルに任せる!」
「ラーバル・バルトレイスです。あなたたちの基礎訓練を受け持ちます」
ラーバル様って副団長だったの!? それは手も足も出ないはずですわ……。
「まず初めの訓練は、私への反抗心を折ることから初めます!」
反抗心を折る? 女だからってなめてるやつの根性を叩き直すってところかしら?
「全員で一度にかかってきなさい! 私に一太刀でも当てたら、新兵は卒業です!」
ええええ!? なにそれ! それほど実力差があるってこと? 新兵さんたちもザワザワとしているし! すごい自信だわ! よーし私も頑張るぞ!
「ドレストレイル嬢、君はこちらへ」
あら? ラッシュ騎士団長様? やはり貴族令嬢が怪我しては、まずいってことでしょうか? もしかして、ゆるゆるメニューってことなのかしら……。正式な訓練受けたいな……。
「あの、私はやはりお客さんということでしょうか?」
「いや、君の実力は妹から聞いている。それに、妹をたかが女とは思わんだろ?」
「はい、見事に完敗いたしましたから、そんな気は微塵もありませんわ?」
「……完敗? ふむ……おいおいでよいか」
あら? なにかおかしなこと言ってしまったかしら?
「君は、この後から始まる基礎訓練から参加してくれたまえ」
「わかりましたわ、お世話になります!」
「良い返事だ。訓練はつらいだろうが頑張りなさい」
「はい! 全力でがんばります」
よーし! 特別扱いはされないみたいね! がんばるわ!
「今年は突破0か! 情けない!」
びっくりしましたわ! ラーバル様の怒号なんて、初めて聞きました。いつもの優しいイメージはどこへ行ってしまったの?
あら? 突破ゼロ? ってもう新兵を15人も片付けたってこと? ラーバル様って強すぎじゃないかしら? そうか副団長ですものね、これぐらい当たり前ってことですね。
「立て! 貴様ら! 根性を叩き直してやる! 剣を担いで訓練場100週! 今すぐ始めろ!」
わわわ! 私もですよね! 早く参加しなきゃ! すぐに走り出した新兵たちの後について、ランニングをはじめました。
「お嬢ちゃん、一緒に頑張ろうな!」
「副団長、怖すぎ! 君は唯一の癒やしだよ!」
「まさか一太刀も当てられないとはな~」
「井の中の蛙オレにピッタリの言葉だぜ」
合流した私に、新兵さんたちが話しかけてきた。いがいに元気ですね! やはり自信がある人たちの集まりなんでしょうね。
「しゃべっている暇があったら、さっさと走れ!」
ひぃ! 怖い! いつものラーバル様をかえして!
ランニングを続けていたんですが、周回を増すごとに、ペースを落とす人が増え来ました。目立たないように、集団の最後尾でペースを守っていた私が、だんだん前に来てしまいました。前を走っているのは3人だけですが、全体的にペースも落ちてきました。残り12週目でついに先頭に……。これは疲れたふりをしたほうがいいのですか? しかしラーバル様に手を抜いたとバレては……マズイです! 非常にマズイです!
「マルレリンド・ドレストレイル! 手を抜かず全力で走れ!」
ひぃ! 名指し! やはりバレてました! 全力で走らざるをえません! 他人の目を気にしている場合ではないです!
私は後ろを見ることを止め馬よりも速いスピードで一気にゴールまで走り切りました。
そしてすぐにラーバル様の前まで戻り謝罪しなくては!
「手を抜いて、すみませんでした!」
「――最後のスピードで100週できるのか?」
「はい……。たぶん……。やったことありませんが」
「汗一つかいてないようですが?」
さっ、さすがにおかしいと思われてる! 言い訳を言い訳を考えろ! そうだ!
「こっ、これは、清潔の祝福のおかげです! 汗はかいてます!」
よし! ホントは汗かいてないけど、きっとごまかせるわ!
「そうですか……」
完全に怪しまれてる!
「まあ、よいでしょう。どちらにしても明日から、あなたは、ランニング免除でいいわ」
「化物だ!」「ありえねぇ!」「騎士団の女は、化物しかいないのか!」
新兵から大変に失礼な声が聞こえてきます。
「では次だ! 走り終わった者から左右交互の袈裟斬りの素振り100回だ」
「初め!」
「はい!」
一人で素振りをはじめる私……。すっごい見られている。やりにくいわ!
ヒュヒュ! ヒュヒュ! ヒュヒュ!
「私の攻撃を捌いたときは、もっと早かったぞ!」
ひぃぃぃ!
「はい! ごめんなさい!」
全力! 全力で!
スッスッ! スッスッ! スッスッ!
全力で振ると、音がしなくなるのよね。振ってるって感じがしないわ……。ムダに風も起こるし……。
「素振り100回終わりました!」
「よし! 10分間休め!」
「はい!」
新兵の三人が剣を振り、残りが走っているのを見ながら、壁際にあるベンチに腰掛ける。正直言って基礎訓練はあまり面白くない……。ラッシュ騎士団長が行ってたのは面白くないけど頑張れってことなのね……。
「マルレちゃんもう終わったの? すごいね」
私の隣にアリッサちゃんが腰掛ける。
「あら? 見に来てくれたの?」
「友達が頑張ってるんです! 応援ぐらい来ます!」
「ありがとう」
私がほほ笑むとほほ笑みを返してくれた。少し気力が戻った気がしますわ!
「次は、剣を担いで短距離往復走! 10往復」
ラーバル様が、2本の線が引いてあるところを指さしながら鷹の目をこちらに向ける。
「初め!」
「はひぃ!」
それはもう全力でやりました。線の上でピッタリ切り返すのが難しく、余分に距離を走ってしまいました。これではダメ! でもスピードを落としては、本末転倒ですよね悩ましい……。
「よし! 今日は終わりだ上がってよし!」
「はい! お疲れさまでした!」
奮闘する新兵さんたちを置いて、先に帰り支度をしていると、アリッサちゃんが声をかけてきました。
「マルレちゃん、お疲れさま!」
「待っててくれたの? ありがとう。着替え終わったら一緒に帰りましょう?」
「はい!」
更衣室で着替えて、アリッサちゃんと一緒に寮に帰りました。ベッドに寝転び訓練のことを考える。あまり面白くないけど、きっとだいじなことなのよね、頑張らなくっちゃ!