Presto(プレスト)
新章突入です!
『異世界に向けて出発するよ〜!』
マンゴーがパチンと指を鳴らした瞬間_
「バリィン!」と全面のガラスが砕け散り、
視界が一気に広がった...が、
「これ上空かよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
スカイダイビング並の高さはありそうな上空からの落下___すなわち自殺でビル5階から落ちるなんてレベルではない。
【落ちたら即死。】それ一択である。万が一助かるもどクソもございやぁせん。圧倒的落下速度に身体を委ねるしかない状態だ。
「無理無理無理無理無理無理、余裕で死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!!」
『そんなぁ〜、外に出たんだから楽しもうよ〜』
『お空をご覧下さぁい。美しい空色でございまぁす♡』
斜め後ろから呑気な声が聞こえ、目の前には、ひらりともなびかずに折り目の無い紙が俺の目線にピッタリ合うようにしながら落下している。マンゴーや手紙さんのクレイジーな所も嫌いではないが流石にこれは正気かどうか疑わざるを得なかった。
手紙さんの言う通り、空は日が沈みきった直後らしく、青みのある夜空にほんのりと赤絵の具を混ぜたような空が広がっていた。だがそんなのを悠長に楽しむ暇は無い。
『30m...20m..10m.と地面が近づいてきましたぁ!』
『ヒビキ選手まもなく地面にシュゥゥゥゥゥト!death!』
極めつけにクレイジーサイコパスラビット&レターコンビにとっておきのdeathジョークを目の当たりにしながら地面が眼前に迫ってきた瞬間、ヒビキはただただ願った。
「(死にたくないっ!)」
受け身も何も取らずに小高く広い山に落ちた。
ボフッという地面に衝突したとは思えぬ音がして恐る恐る目を開ける。
「あれ...生きてる?」
まるで手入れをしたように高さの揃った柔らかい芝が全面に生えた小高い丘のおおよそ頂上に落ちたみたいだ。
どうやら、この世界においてこの丘はトランポリンのような衝撃に対する柔軟性を持っているようだ。シリコンのような柔らかさの芝を少しかき分けると至って変哲のない土があらわになった。どうやら現実世界では説明できないこともあるようだ。
『うふふっ。ヒビキの面白い顔が見れたわ!これは写メっといて正解ね。』
写メって...この手紙どこまで多機能なんだろうか。スクリーンのようにぼんやりと光ったかと思えばカラーで一枚の画像が浮かんできた。
『私達が落下を初めて2.03秒地点、状況把握して一瞬の現実逃避タイムでしたね♪』
白目で両目の端に涙を浮かべている自分が写っている。
『この写真に向かってヒビキさん!さぁ、あの名言をどうぞ!』
「...はい?」
『音声再生_「あぁ、我ながらいいヤツ(♂)だぜ」』
「ンア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ン”ン”ン”!!!」(汚い低音)
紙であろうと”1”仲間として仲間の傷口を抉るような性格をしているのは、パーティーにおいて致命的だと感じているのは自分だけだろうか?
マンゴーがケラケラと笑ながらこちらに寄ってきた。
『全く、あの方元ご主人様がこの世界に招いた客人を出発地点から落下死させるわけないじゃん〜』
確かに理にかなっているが、それにしてもマンゴーや手紙さんの元ご主人様は客人に前触れもなくスカイダイビングをさせるなんて皮肉を込めてかなりいい性格をしていらっしゃるらしい。
『そろそろ辺りも暗くなるから野宿にしよう』
マンゴー小さな身体にちょこんとかかったミニポシェットから緑色の正方形のブロックを出した。
「まさかそれって...」
『お察しの通り!僕らが入ってたグリーンボックス!...の派生道具、グリーンテントボックス〜!もちのろんで自作品〜!』
まさかまたあのボックスに入って朝になったらパリンと割るのかと思ったが、どうやら新式の折りたたみ式テントらしい。マンゴーがちょこちょこと弄るとチカチカと点滅を始めた。
ぼふん!とかなり大きな正方形が出現する。それなりの重みと耐久性があるらしく、ピクリとも動かない。
『ほら〜入って入って〜!』
広々とした空間にベッドが1つ。寝心地はとても良さそうだ。
『前ご主人様に魔法道具学を脳内通信で教えて貰ってたんだ〜お役に立てた〜?』
「あぁ、こりゃパーフェクトだよ。」
『ふふふ...よかったぁ〜.......』
マンゴーはかなり疲れてきたようでふらふらとしている。
それを見ると自分もどっと疲れが襲いかかってきた。
「(人間誰しも眠気様には勝てねぇな。)」
今日だけでも異世界にワープして、スカイダイビングした。こんなに変化があったんだから疲れるのも当然だ。
『ヒビキと一緒に寝る〜』
もふもふベッドにもふもふラビット、文句なしの環境。
うとうとと、まどろむ中で心の中でふと思った。
「(久しぶりに死にたくないと思ったな...)」
横ではマンゴーがすやすやと眠っている。ヒビキはフフッと笑って目を閉じた___