遺伝子イリュージョン
「マンゴー!カモン!」
『へ〜い』
例のごとくぬいぐるみ効果で一瞬だけ眠る。癖のようなものなので寝ること自体に抵抗は無いものの、起きるときの体への負担やストレスは凄まじい。かといってうとうとした瞬間に起こされてしまえばセーブしきれていない可能性がある。
「(そろそろ村の宿で寝てぇな...)」
そして数分後にはお約束通りに叩き起される運命であった...
「えーっと、何か忘れてることは...あ!ゴブリンも撃ち落としたよな!?」
『?』
「そっか!まだか!」
「どうしたのヒビキ?ゴブリン?」
周囲がポカンとする中、一瞬で16分音符を使ってゴブリンを撃ち落とした。
『あらお見事、何か落ちたわ』
続けざまに雅に指示を送る。
「あと雅!今壁の下に落としたゴブリンは魔法が使えない弓ゴブリンだ!次は操られている女の子に刺殺されたから、短剣を持った怪しい子は殺さないで捕まえてくれ!」
「よ、よく分からないけど了解!」
そんなこんなで村へ突入するわけだ。村がいくらウェルカムといってもそんなこと知ったこっちゃない。こっちは2度も死んでいる。三度目の正直、だが二度あることは三度ある。どちらに転ぶかはあの女の動きに委ねられているんだから__
・・・・・
さて3度目の突入、みんな...とは言わなくとも8割がたニコニコしている。こんな拍手は卒業式以来だが、ヘマすりゃ人生卒業になりかねないので笑顔なんてものは捨てた。
「なぜあんなに表情がお硬いのだろうか?」
「きっと不眠なのでしょう...」
そんな勘違いコソコソ話が聞こえてきたが全く違う。何度も言うがこちとら殺されそうなんです!
雅の手元にはレタを広げたマンゴーがトコトコ歩いている。ホームビデオにしてしまいたいほど可愛らしいのだが今は我慢我慢...
雅は剣を既に手にしているが、勇者御一行なのだからそのうちの1人が護身のために剣を持とうが怪しまれはしないだろう。実は俺も口にホイッスルを入れているので若干何かを含んでいるかのような怪しげな顔立ちになっている。ちなみにホイッスルはどういう仕組みかは分からないが前後どちらから吹こうが音と楽器は正常に出てくるようだ。
細心の注意を払いながらも早足で進む。できれば何も起きずに村長宅で匿ってもらいたいものだか...
「お嬢様!?」
拍手が列の一角からなりやむと同時にざわめきと共に少女が人混みからこちらへ飛び出してきた。例の短剣少女だ。短剣を真っ直ぐにこちらに向けて走りよってくる。
「ヒビキ避けて!」
いや、だめだ。ここで避けても次の攻撃を避けられない。
『ピッ!』
笛の音と楽器が瞬時に現れた___が、
「しまった!バイオリン剣じゃなくてオルガン出しちゃった!」
『こぉんのバカ勇者!』『ドアホ!』
同時に辛辣なコメントがレタとマンゴーから容赦なく振りかかる。
だが幸運なことに半泣きねオロオロする俺を見据えた少女は欠点があった。『俺しか』見ていなかった。
突然現れた硬い箱の角にちょうどおでこを打つような体勢で少女の突進は阻止されたのだった。
~~~~~
「う、ウチの娘が大変なご迷惑を...申し訳ございません...」
気絶して隣で眠る可憐な花のように可愛らしい少女の代わりに深々と頭をたれたのはこの村の村長であり、少女の父親、トズだった。
「い、いえそちらのお子様も何かに操られていたようでしたので...お子様がご無事で良かったですわ」
家に入るなりずっと頭を下げたフォームでスタンバイなされていた村長に優しくフォローを入れる雅だがトズはべったりと額を机に付けたまま顔を上げようとしない。
「だ、大丈夫...ですよ...俺、無傷でしたし...ハハハ...」
実際は1度殺されているのだが黙っていてあげよう。そんなことがあったような雰囲気も隠しておかねば。事情を説明してもこの人なら血相を変えて切腹しそうだ。
「と申されましても!このような無礼を身内がはたらいたのでございます!私財でも私の首でも何でも捧げてお詫びさせて頂きます!」
言わんこっちゃない。俺が追い討ちをかける前でもこの覚悟なのはさすが一族の長の威厳といえよう。
そう言いながらやっと顔を上げたのはゴツイ顔をした中年男性だ。歴史の教科書で出てくる『縄文人』のようにほりの深く、渋い顔をしている。
「(待って待って、この顔からどうやってあの可愛らしい女の子が産まれたの!?)」
殺されかけたことに対する暗い気分は遺伝子イリュージョンで即座に吹き飛ばされた。




