勇者殺害事件
「あれ?寒くねぇな」
昨日の極寒地獄からは考えられないほどの穏やかさを取り戻したのどかな平野。若干肌寒いが、地面全面にしばが生えているためボスタル地方よりも鮮やかな緑色が風景に映えている。変わらなかったのはキャンプした場所から少しのところにある村だけだ。
ほんの10分も歩けば村はすぐそばまできた。
「おお!勇者様だぞ!みんなー!歓迎の宴だ!」
村の見張り台から小太りな青年がこちらを指さして叫んだ。てっきりセキュリティがカッチカチでよそ者No!かと思いきやそうでもないらしい。だが___
「(勇者は俺だよ...)」
ついうっかり刀をしまい忘れていた雅を指さす青年はものすごく目を輝かせている。ここでこんなへっぽこが勇者だとカミングアウトすれば落胆間違いなしだ。
『あ、あの雅...』
「ん?」
『勇者のふりして! 』
レタからの指示はあまりにも唐突で、村は目の前だというのに驚き騒ぎ立てる...なんてことはできないので渋々了承してくれた。
村人達総出で迎えてくださるそうで、門から村長の家へと両脇に一直線に村人達が並んでいる。
ここはお上品に手を振りながら入場するべきだろうと1歩足を踏み出した。
その瞬間真横から衝撃と痛みが飛びかかってきた。
「!?」
喉に走る激痛、吹き出す汗と血飛沫に視界は揺らぎ、その場に倒れ込んだ。ひと目見ただけで分かる回復草を使うまでもない致命傷、頸動脈を切られたらしく、あっという間に地面には血溜まりができた。
「えっ、ヒビキ!?...きゃっ!」
雅の声とほぼ同時に隣でも倒れる音がした。
迎え入れられて射殺される勇者も前代未聞だが、それよりも異様なのは周囲の光景だ。さっきから顔色1つ変えることなく笑顔でこちらに拍手を送り続けている。
「(もう...いきなりやり直しじゃないの)」
2人で苦笑いして村人達の拍手に包まれる中、意識は遠のいた___
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「うーん...」
我ながら早速やってしまったなぁという感じだ。とはいってもほぼ不可抗力に近しい理不尽な死に方であった。
「しーっ、なんか変...」
「大丈夫、もう知ってる。」
コイツは寝ぼけているのかと眉を一瞬ひそめた雅だったが、すぐに言葉の意味を汲み取ってくれた。
「知ってるってまさか...もう死んだの!?」
「しーっ!ここでは死んでないから安心していい」
ついさっきのように笛を2度吹いてバイオリン剣を手にした。
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「ふーん、むらに入った瞬間死んだのね。しも村人は全員ずっと笑顔だった。と」
「だがあれは魔法的なものだと思うんだ。村に入る直前まで気難しそうな人までぞっとするくらい笑顔だったんだよ」
「確かに魔法はほぼなんでもありみたいなもんだから感情操作も出来ないわけではないと思うわ。取り敢えず村まで行って打たれる前に村長の家まで突っ切りましょう」
「その前に...」
「その前に...?」
「ここでセーブしたいです!」
テントのすぐそばにはゴブリンの死体の山があるというなんだか呪われそうな雰囲気があるが、なんとしてでもここでセーブしなければもしもう一度死ねばうーやんフライトと砂焼き勇者を体験せねばならない。
「さっきまで爆睡だったのにどうやって寝るのよ?」
「その点はノープロブレムだ!マンゴーおいで〜」
近づいてきたマンゴーをがっしり捕まえてベッドに横になった。
「これで寝れ...る...」
『『「赤ちゃんかな?」』』
話終わらないうちにすーすーと寝息を立てたヒビキ。起きても目が潰れそうなほど眠たい状況で起こされてしまうのはじつに10分後であった。
ぐずるヒビキをテントから引きずり出し、全員にprestoをかけさせた。これで門から村長の家まではほぼ一瞬だろう。
「次の目標は...取り敢えず射抜かれずに村長の家に滑り込むことでぇす...」
やっぱり眠いよと言わんばかりにヒビキは目を擦った___




