無限の切れ目
世界から消える?死なないで?そんなことできるの?
『ははーん、さては疑ってるねぇ...』
『大丈夫よ、私もそうしたからね。』
「つまりお前の住む世界に行って俺が俺自身に与えられる役目を全うしろってことか...?」
『そゆこと。その為に貴方を体ごと異世界に転送しようって話』
そんなことどうでもいい。早く死にたくて仕方がない...はずなんだ。でもなんか気になる異世界というワード...昔初めてゲームと出会った時のような胸をくすぐられるような感覚が芽生えた。
『貴方異世界に興味はあるかしら?』
同時に少し小さな文字も書かれる
『異世界に行けて冒険できるっ!ゲームでもバーチャルでもないのよっ!どう!?』
「フッ...最近のゲームの売り文句かよ...」
だが急激に絶望感が引いてゆくと共に、幼かった当時のゲーム世界への憧れを思い出した。そして子供のように無邪気に答えてしまったんだ。
「うん!俺異世界行ってみたい!」
オタク精神圧勝。
『ほぼ一方通行だけど大丈夫?』
「え。こんなクッソみたいな世界うんざりだからおけまる〜。」
『急に吹っ切れたわね...』
かっこよく言えば「こんな所にもう用はない。」なのか?ともかくウキウキが止まらない。
瞬時に脳内妄想は新星爆発のように広がる。
(*ここからヒビキの脳内妄想です)
一瞬、さもこれまでこの世界で農民してました感を出しておいて、魔法や剣技の以外な才能に目覚め、たまたま通りかかった勇者かお偉いさん(王様も可)からスカウト(又は少しお悪く引き抜き)されて魔法使いか剣士になって勇者のパーティーの2番手の実力持ちのチート能力で王様にへこへこしてお姫様とあわよくばというシナリオまで完成。もし農民生活でもこの世界よりかは何倍もマシだ。結婚もしたいな...子供も欲しいし、異世界の子供かぁ...ケモ耳とかもカワイイだろうなぁ...
よし、中二心あふれていいじゃないか。やってやろう。現実世界の死ぬという野望は捨てよう。そう思って顔を上げた瞬間。
『は〜い契約完了〜マッハで行きま〜す』
手紙にサッと書き込まれたとほぼ同時にそれまでのやり取りが一瞬にして消え、直径30センチぐらいの魔法陣が現れた。
「えっ...心の準備とか凄い異世界語で書かれたの契約書とかは...?」
『こちら〜異世界への旅〜お金や切符何もかもご不要です♪』
そこで俺が目撃したのはにょろにょろと2本の紐のような腕が魔法陣から伸びている異様な光景。
『少々痛いけど我慢してくださいまし〜♪』 と魔法陣の上に小さく書かれたのが見えたが、次の瞬間、返事もなしにいきなり頭をがしっと掴まれた俺は凄い早さで魔法陣へと引きずり込まれた。
魔法陣は異世界と現実世界のつなぎ目のトンネルらしい。簡単に入られては困るので境目にはゴム膜のような物が張ってあるみたいだ。つまりその魔法のゴム膜を引き裂く勢いで俺は引っ張られた。結構痛かった。禿げるかと思った。
魔法陣の中は明るい緑の立方体の部屋の中に意味ありげな白い物質が球体や立方体で浮かんでいる。白いラインは伸びたと思えば飛び散って小さな粒になる。白と緑の世界だ。広くて立方体の形をしている。
そこに1匹だけオレンジ色のリボンをしたぬいぐるみのような真っ白ウサギがふよふよ浮いている。
『やぁジェントルメン!グットアフタヌーン!』
「・・・。(えぇ...これ異世界式歓迎法なのかぁ?)」
『あ、あれぇ...ノ、ノーコメント!?バッドモーニングなのぉ?』
ポカーンとしていると挨拶だけで一人芝居を始めた。なんかこのウサギ昔見たことある気がする。どこで見たんだっけな...
『コホン!...ボクは時空の狭間担当。八つ裂きウサギの。マンゴーちゃんだよぉ〜。ちょっと変な名前だよね?ご主人様も変わり者だよぉ...』
「ん?...ご主人様って?」
するとマンゴーは少し寂しげな顔をした。
相手の素性が分からないコチラとしてはご主人様ワードが気になったのだが...もしや我コレ地雷踏んだ?
『おっと...話すぎちゃったね。お喋りは嫌われちゃうよ...』
そしてまた陽気な顔に戻るマンゴー。どうやらこのマンゴーちゃんにも色々あるようだ。
『お喋りなお手紙さんはご主人様の魔法の道具。マンゴーちゃんもご主人様から作られた道具だよ。ちょっと待っててね。転送手続きしてるから。』
マンゴーはひとしきり話したいことを話したようで、そさくさと飛び回って何か作業をしているように見える。
「マンゴーちゃん。それ(作業)は演技だろ?」
マンゴーは明らかにドキッとして取り乱したようだ。どれだけ愉快なキャラを演じようが、嘘を見破られた時の反応はやり慣れていないようで、とても焦っている。
『ど、どうしてそう思うのかい?』
『確かに信じられないよね...いきなり変な所に連れてこられて顔も知らない喋るウサギが出てきたかr...』
「違うよ。」
俺には分かる。マンゴーは俺と同じコミュ障だ。俺と違う点はそのコミュ障の分類、コイツは明るく本心じゃない姿を振舞ってて本心は絶対胸に秘めておくタイプ。正確にはコミュ障では無いのかもしれないが、
・嘘をついて明るく振る舞う
・本心を知られたくない
この2点を踏まえて【一見コミュニケーション上手に見えるコミュ障】なんじゃないか俺はは自分論を唱えた。
因みに俺はコミュ障と言っても、初対面だと極度に緊張して目が泳ぎ、言葉が詰まったり噛みまくったりする程度の典型的theコミュ障だ。
最初明るく話しかけてきたのは明らかにウケ狙いをしたコミュ障の入学初日の自己紹介での空ぶりのようだった。それに俺がポカーンとしてたから焦った。頑張って自己紹介を暗記までしたのにシーンとして「やらかした!」と思っても時すでに遅し。着席した瞬間汗が吹き出して顔が真っ赤になって腹がズキズキ傷んで途方も無く絶望するアレだ。(体験済み)
ただし典型的コミュ障は心のガード値が高い。会話を『しないし』、『したくないし』、『そもそもほぼ他人とスムーズにできないし』の三拍子揃い踏み=某ゲームのメタル属に当たる。(ヒビキもここに位置する。)
けどマンゴーは違う。その全てが当てはまるわけでもないし1つしか当てはまらない訳でもないんだ。
「ん...?」
これ自己解析ミスってるんじゃね?
ただ嘘で誤魔化して気軽な様子を振舞っているだけ。つまり拒絶はされていない。優しく話しかけても怯えられるかもしれないが急に過呼吸になるほどではないと予想。
前言撤回、ウサギちゃんコミュ障じゃないわ。申し訳ないがコミュ障の足元にも及びませんわ!
『なーに勝ち誇ってんのよ...』
「!」
急に背後から現れた手紙にドキッとする。
『使命が終わって自由になった』
『貴方は興味深い』
『ついて行く』
どうやら手紙に気に入られてしまったみたいだ。
『オリジナルミッション【キュートなもっふの心を動かせ】が発生しました。報酬???』
「(面白ぇ。キュートなもっふの心、動かすだけじゃなく掌握してやろうじゃないか!)」
かくして最初のミッションが始まった___