とっておきは裏面に
「雅...その目の色...!」
「えっ...私の目がどうかしてるの?」
一瞬の隙に悪魔は一気に距離を詰め、雅の肩を掻き裂こうとした。
[おっと!よそ見はイケねぇなぁ!]
「いっ...た!」
間一髪で回避したが、掠めただけでもかなり出血している。もういちいち作戦を考えている暇は無い。少し無理やりだが...
「魔法袋経由!」
レタの特技『道具袋に自由に出入り』の応用バージョンで、レタにびいどろ玉を包んでもらい、俺の魔法袋から雅の持つ魔法小袋へと自動で出してもらうことができるれっきとした技(仮)だ。
わざとらしく大声で袋に手を突っ込んだことで注意をこちらに向けさせた。視界の端で雅が勢いよく小袋から飛び出すガラス玉を素早くキャッチした瞬間、ガラスの玉から眩い光がほとばしる___
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「ここ...何処...?」
『何処だと思います?』
ぬっと横から顔を出したのはすっぽりフードを被った見知らぬ女だった。急なご登場にびっくりして数秒間見つめるだけしかできなかったが、フード女が沈黙を破った。
『お時間はあまり無いから早口で行きますね』
「は、はい...」
『唐突だこど貴方には、本来持つべき武器があった。10歳の誕生日に届けられるはずが、何らかの手違いか何者かの妨害で届けられなかった。ざっくり言ってしまえばソレを渡したいの。』
何が何だか分からず黙っていると無限に話されそうな勢いで話は進む。
『彼の宝石が貴方の感情の高まりから貴方を発見し、宝石から私に合図がありまし...』
「ちょ、ちょっと待って。つまり『武器をあげるからこれを使いなさい』ってこと?」
『正解。この後すぐにこれを使って悪魔を倒して欲しいの。でも...』
『一応すぐに使えるけれど、この武器はこれまで使われなかったから特別な力は錆び付いて固まっているような状態よ。そこに彼の演奏の登場ってワケ。』
突然の助太刀にありがたく思う反面、あんな化け物を自分なんかが本当に倒せるのか一気に不安が襲ってきた。そもそもかなり失礼だがあんなキャラが定まらないヒビキが演奏の要望に「はいそうですか」とすんなり了解してくれるだろうか?
『大丈夫よ。彼は分かってくれる。嫌でも演奏させる気にさせる。』
フードから見える口から見て表情はかなり楽しそうだ。まるで彼がちょっと混乱する姿を想像して楽しみにしているような...そんな気持ちの現れだろうか?
『合言葉は私、つまり【フード女】よ。』
想像に堪えきれなくなってクスクスと笑い始めた女が取り出してきたものは【イヤリング】だった。
ルビーのように真っ赤なまん丸の宝石が付いている。
『普段は耳に付けておいて、武器が使いたくなったら外して空に掲げると武器に変わるわ。彼と同じスペシャル衣装付きの1級品よ。』
そう言いながら彼女は丁寧に耳たぶに付けてくれた。
『これで一泡吹かしてやるといいわ。少しの間私が敵の邪魔をするから、そのうちに演奏してもらってね。貴方なら大丈夫。』
言い終わりと同時にゆっくりと元の空間に戻り始めた。ヒビキや悪魔の輪郭が戻り、細部の線が戻り、色が戻って影が戻った。
『作戦開始!』
3秒後周囲は堰を切るように動き出す___
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『ボンッ』と音がして、ヒビキの方に振り向いた悪魔の目元にえげつない量の煙が現れた。
[何だ!?...目に染みるっ...おのれ勇者何をした!?]
「えっ......えっ?w私何もしてませんけどー?wアンタ被害妄想激しいとかたまに言われるタイプじゃないですか?少・な・く・と・も・私は何もしていませんwww」
相手が目潰しを喰らって前が見えていないことをいいことに、ヒビキはすっかりゲッスい顔になっている。
「(この勇者、呑気に煽りすぎだろう...!)」
私が若干苛立ちを感じたその時、私が悪魔の目元に見たのはホレ!ホレェ!と言わんばかりに羽をばたつかせて煙を飛ばすアゲハ蝶だった。あれが今のフード女の姿なのだろうか?
「ヒビキ!演奏を!」
「ふふふ...オタクを馬鹿にした天罰だ!苦しゅうない苦しゅうない!...ってえっ!急に?...うわっ!俺もう着替えてる!?」
少し混乱しているヒビキに合言葉を投げかける。
「合言葉は、【フード女】!」
それを聞いてはっとさせられた。雅も会ったんだ。あのフード女に...
気づけばいつの間にか楽譜も鍵盤の上に置かれている。誰作曲でどこから現れたのかは不明だ。
だが、楽譜の裏側の五線譜を見て急に弾きたくなってきた。
「これこれ!俺が試したかったのはこれだぜ!」
ヒビキら逸はやる気持ちを抑え、表面の曲を急いで弾き始めた___
曲を譜面に書き起こさずに陳腐にならないように説明するのは難しいです...




