無限に続く
ヒビキは再び起き上がった。
「はぁ...やっぱりか」
やっぱり時間が遡った。だけどこれは...
「夕方...?」
レースカーテンの向こうにはザクロのような太陽が傾いている。寝室じゃない、これはリビングだ。
日付けは...20××年4月4日...!?
ふと机の上を見るとやりかけの課題があった。どうやら途中寝てしまったらしく、うっすらとシャープペンの線がミミズのように解答欄からはみ出している。
ここまで起きたことで分かったことといえば
・死ぬと時間が遡って生き返ること
ぐらいだ。何故前日に戻ったのかは謎のまま。
「はぁ...また明日死ななきゃいけないのか...」
とりあえず課題を終らせて寝ることにした。
窓の向こうのザクロはゆっくりとビル群に吸い込まれていった___
次の日、起床は早めの6時。あまり変わったことはせずに同じように3度目の自殺をした。毎度のことではあるが、にぶい音が一瞬して意識が飛ぶ___
「・・・」
次目覚めたのは朝。日付は20××年4月5日朝6時これで生き返りのシステムについてなんとなく理解出来
ともかくこれまで3回発動した生き返りだが、なんだか死ぬことになれつつある気がする。誰しも死ぬような体験はしたくないものである。が、急に効果が切れない限り謎の【生き返る】能力が続けばどうだろう?『死』ということへの価値観の違いが生じつつある。
あんなこの世から解放される幸福感はもう無い。そう思う度、また現実に目を向けてしまう。 課題といじめに追われることを繰り返すだけの日々にもう戻りたくないと頭を抱えたくなってくる。
その時、6時半を知らせる聞き慣れた目覚ましの音が鳴り響いた。
また4度目の今日が始まるんだ___
ヒビキが”死ぬ”という希望の何もかもを諦めて朝食を作ろうと顔を上げた時、それはヒラヒラ舞い降りて来た。
手紙...?
あぁ、誰だろうかこんな自分にわざわざ贈ってくるなんて、これはファンタジー世界なのか?部屋の中で手紙が舞っていようが、もう驚かない。驚くのは死んだって生き返るということだけでお腹いっぱいだ。
ヒビキは遂に幻覚が見え始めたのかと思った。どんどん死に慣れていく自分を見てつらくなってくる。でもそれよりも死ねないことに意識が向いてしまう。
「息苦しいこんな世界から逃げ出したい...けど死にきれないんだよ!」
泣きながら怒ったような声を出してヒラヒラと舞う手紙をクシャッと握った。
同時に感情に任せて誰から送られてきたかも分からない贈り物を握りつぶしてしまったことにハッとして罪悪感が湧き上がる。
恐る恐る手を開くと手紙は勝手に元の折り目1つ無い紙へと戻り、封がカサッという音と共に切られた。
中から飛び出した紙は折り目が消え、ゆっくりと字が刻まれる___
『___貴方は絶望している。世界から消えたいと思っている』
『だけど何故か消えられない。...違う?』
心を読まれているのか?自分のことを分かってくれる存在がいる。そんな気がしてさっきとは違う涙が溢れてきた。
『フフッ...図星かしら?じゃあどうしましょうか?』
『私は貴方を【殺すことができる】かもしれないわ。』
思ってもいなかった存在が御丁寧にも殺してくれるかもしれない。
「!...あぁ、ぜひそうしてほしい!」
ヒビキは喜びの涙を流しながら笑顔で答える。だけど...その返答もすぐに裏切られた。
『だけどそれではアナタの真のハッピーエンドではない。』
急に手のひら返しをくらい、一気にまた【死ねない】絶望が押し寄せてくる。
「もういい!こんな世界うんざりだ!どれだけもがこうが悪い方へと引きずり込まれる!俺はもう消えることしか求めない!一つだけのお願いだ。どうかオレを殺してくれ!」
『そうねぇ...』
魔法のような手紙はわざとらしく少し迷ったかのように間を置いて更にゆっくりと書き進め始めた。
『で〜も〜...やっぱり殺すのはやーめたっ♡』
『3回死のうとしたぐらいでさっさと救われりゃ、 人生イージーモードだぜっ☆』
「なんでだよぉ...」
普通の人なら3回死ねばオーバーキルもいいところ。このクレイジーな手紙は俺をあざ笑いに来たのか?
『でも私が死なせないということはまだ役目が残っているんじゃないかしら?』
『例えば私が住む方の世界で。』
あぁ、ついに変なことを言い始めた。異世界?オタクが1度は夢見る空想世界なんてあるわけがない。だが手紙はお構い無しに話を進めた。
『だからさ...』
『死なずに消えない?その世界から。』___