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死んで始めた異世界前奏曲  作者: 寒音キリ
狭間の愉快なフレンズ編
2/45

幼き日の約束

ふらふらと重い足取りで有名な都心の駅前のビルへと向かった。エレベーターで一気に最上階の35階まで登る。



歩行者は死のうとする自分に見向きもしてくれない。誰も止めようとはしない。35階なんだから気づかないのは当たり前だけど、それは自分が孤立しているということを社会に知らしめされているような気がしてくる。



歩行者の波が途切れるタイミングを見計らってゆっくりと足を空中へと踏み出した。妙花のくれた胸にかけているびいどろ玉のお守りは西日を受けてキラキラと緑色を放っている。



「あぁ、父さん母さん姉ちゃん弟...。やっと会えるよ。」



走馬灯が流れ始める___



一説によると走馬灯は人生を振り返り、生き残る方法が無いのかを懸命に探しているらしい。



ぱっと走馬灯が止まる。これは...妙花がお守りをくれた例の事件の日の記憶だ。



「ヒビキくんのために一生懸命に作ったんだ。これはキミを守るお守りだ。ヒビキくん鈍臭いから肌身離さず持っていなよ!タエカとの約束っ!」



わざとらしく子供っぽく演じてはしゃいでいた妙花。



でもびいどろ玉は紐を通しただけのモノだ。どうして一生懸命作ったと表現したんだろう?彼女にガラス細工を作る趣味等は無かったはず...と今になって疑問に思ったが、自分はこの世を去るのだから、まだ死んだ証拠は無いけれど、もしあの世で会えたら聞いてみようと思った。落下するがままの勢いに身を任せ目を閉じる___


*****



【これはHAPPYエンドなのだろうか?】



こんなにも清々しい気分でこの世から消え去ることができる。


生命の寿命という逆らえないものに逆らえるんだ。なんて幸せなんだろう。


俺からすれば完璧なHAPPY END、でも社会からはBAD END扱い。『若いのに可愛そうに...なぜ助けを求めなかったのだろう。』それで終わり。どうせ死んでも社会は乱れない。たぶん乱させてくれない。邪魔ならもみ消すそれだけ。アイツは自分から消えた。ただそれだけ。


それで十分だった。あいにく自分は『私が死ぬから社会を変えて!』なんてドラマの悲劇のヒロインようには言えない。



そして繰り返しになってしまうが...



俺はベッドの上でこう呟いた。



「これはHAPPYエンドなのだろうか...?」



俺は真っ逆さまに落ちた。確かに落ちて一瞬「ぐしゃっ」と音も聞こえた。でも、



「え”?」



我ながら恥ずかしいことに混乱してしまう。だけど貴方もこの状況に置かれた時、どう混乱せずにいられるかな?



「生きてる...」



気づけば俺はベッドの上に居た。


体もいつもの痣しかない。内出血して寝返りをうつと少し痛むだけ。いじめるヤツらいわく「ちょっとやりすぎちまったw」で折られた左手の小指以外はどこも折れてない。



「遡った...?」



時間は20××年4月5日、死んだのと同じ日だ。朝の6時30分。起きて学校に行こうと準備を始めた時間。死んだのは今日の学校帰りの夕方。死んだ時間からみて明らかな過去じゃないか。テレビをつけると今朝みたのと全く同じニュースが流れている。



同じような時間が流れてゆく...またいじめっ子に捕まって殴られ、同じだけ金を取られた。



試しにもう1回死のうと決めて、同じ場所から同じ時間に飛び降りてみた。学校には何百人と居るのだから全く同じ人の配置で同じ会話をするはずはない。俺がトイレに行って帰るまでが1秒でも長ければ俺についての変な噂をする女子の井戸端会議も1秒伸びる訳であり、大きな変化はないものの、全く同じ一日ではなくなる。



だから同じ時間に飛ぼうとしても人の波が途絶える時間も違う。



何もかもが多かれ少なかれズレた一日。だけどその程度では遠い未来は変わったとしても飛び降りる未来は変わらない。



もし過去に帰れても1日、2日程度なら死ぬ思いを変えようとは思わない。



またにぶい音と共に意識が遠のく___

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