四分音符
フラッシュバックした記憶に一瞬ぼんやりとしていたが、レタの尖った角につつかれてはっとした。そもそもオルガンでどう戦えばいいのだろう?
試しに『ド』の四分音符を出そうとする。
何か出るどころか音も出ない。
レタが足元でくるくる回るので、退いてもらおうと下を向いた瞬間、あるものに気づいた。
「ペダル...?」
楽器が現れた瞬間には無かったペダルが足元で1つだけ浮いている。
「つまりリードオルガンか。」
リードオルガンとはいわゆる”保育所のオルガン”らしい。先生がやたらとパタパタ踏んでいた印象があるが、理由はペダルを常に交互に踏み続けなければ音が出ないから・・・だった気がする。俺はピアノしか弾いたことがないのであまり分からないがそれぐらいは予備知識として持っている(たまたま気になって検索しただけなんだけど)。
だが、ペダルは1つしかない。本来のリードオルガンでペダル1つなんて、足踏みが大変になるのかそもそも音が出し続けられるのか分からないが大変な欠陥と思われる。
ふと鍵盤に目をやるとレタがキャラ専用道具『魔法のメモ張』の1枚に貼り付いて何かを書き込んだ。
「練習曲【ドレミファソラシド】?」
そこには1枚の五線譜が置かれており、綺麗な字で
『ペダルは踏み込みすぎず軽すぎず、踏みっぱで丁寧に弾くこと』とある。4分の4拍子で二小節、四分音符が8つドレミファソラシドとピアノと初めて触る子供が弾くように1つずつ音が上がっている。
恐る恐るヒビキはペダルを踏み、鍵盤の『ド』に恐る恐る手をかけて弾いた瞬間、足元が淡く光り、足からオルガンの下に伸びていた透明な糸へと淡い光が上へと登る___
ポローンとピアノのような音が鳴る。
その瞬間、オルガンの真上でぱっと光る小さな玉ができたかと思えば、女に飛びつこうとしている猿の方向へ勢いよく飛び出し、バチッとぶつかった。
『ギャイッ!』
猿は小さな悲鳴を上げて倒れた。死んではいないが、結構な衝撃があったのか、少し血を吐いて気絶したようだ。
その一部始終にヒビキは顔では驚きながらも、奏者として演奏を止めるわけにはいけなかった。静かに演奏を続け、最後の『ド』の玉が猿に当たった瞬間、そこには8匹の気絶した猿が倒れていた。
「すごい...これが魔法...」
大きな感動と興奮にぶるりと身震いした。
一瞬何があったのか理解できなかった女とマンゴーが我に返り、ヒビキの方へ走り寄ってきた。
『ご主人様~!あれは何?!』
「貴方すごい...あんな魔法攻撃があったなんて...」
興奮気味に話す二人に押されながらヒビキは道具袋をごそごそと探った。
「そ、それよりもお前ら回復草使っとけ!」
ヒビキは褒められて少し照れたように頬を赤くしながら回復草を2つ差し出した。二人とも自分たちにできたいくつものすり傷や切り傷を思い出し、笑顔で受け取る。
『仲間思いは大切な事ね。よく出来ました~♪』
頭上斜め上で浮いているレタの紙にそう書き込まれると同時にミッションコンプリートという文字が浮かび上がる。
「ねぇ、そのオルガンいつまで出しておくの?」
女が興味深そうに覗き込んできた。
「あっ、そーいえばしまい忘れてたな。」
軽くホイッスルを吹くと楽器は空気へと溶け込むように消え、跡形も無くなった。
武器持ち歩くのは大変だもんな。そう考えてみるとアクセサリーの1部として携帯できるのは粋な計らいじゃないか。
こうして、波乱の猿騒動から俺の異世界での演奏魔法使い兼勇者ライフが始まった___
よくヒビキをガルフと間違えそうになります。
これはいわゆる「吐き溜め小説病」だね。
おっ、こんな夜に誰か来たようです




