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作者: 嵯蛾野

 4年ぶりに実家に帰ってきた。昔から重くて、開けるたびにガタガタと大きな音を立てていた引き戸を開けると、懐かしい我が家の匂いに包まれた。つい口元がゆるむ。

 車庫に車はなかったし、両親揃って年甲斐もなくデートってやつに出かけたんだろうなぁ


「ま…帰ってくるって伝えてないし、いなくても文句は言えない、か…」


 なんて言いながらリビングへと続くドアを開けた。そういえば、玄関にあったやりもしない親父のスキー靴とか、お袋のどこに履いていくかわからない程派手な靴が綺麗さっぱりなくなっていたのには驚いた。あんなにも捨てたくないと駄々をこねていたのに。

 リビングに入ると、真正面に位置するテレビの前のソファに見慣れない派手な色の髪がひょっこり見えた


「え……」

「ゲッ、兄ちゃん……」


 思わず動揺が漏れた口を慌てて抑えるも、ソファの奴には気づかれてしまった


「お前何してんの…」

「え…はっ?!兄ちゃんこそ何してんの?!」


 えっ、生きてたの?!存在してたの?!てか久しぶり!その髪型ダサくない?!あはははは。と笑う無礼極まりないこいつは俺の妹、夏海(なつみ)。俺の3つ下で確か今はまだ大学生。

 それから暫くは夏海のマシンガントークに付き合わされた。相変わらず親父に似てテンションは高いし無礼だし、裸族で困る。それでも必死に話す妹を可愛く感じるのは兄の性というものだろうか、なんて思いながら家の中をぐるぐると巡る。

 リビングや客間も玄関同様、あったはずのものやなかったはずのものが、増えたり減ったり。まるで他人の家に遊びに来たような、そんな寂しさを感じながら、ふと玄関横の柱に目が留まった。



 あれはまだ俺が小学生の頃


「おう、陸!こっちこい」

「え〜俺今スーファミやってっから無理ぃー」

「んなこといってねぇでいいから早くこいっつんだアホ!」


 え〜〜〜〜なんだよ〜〜と言いながら渋々スタートボタンを押して席を立った


「おら、ここに立ってみろ」

「なんだよ…」


 こーやってな…こうして…と親父は何やら柱をガリガリと擦ってた。よしできた!と満足げな親父の顔をみながら柱をみた俺は、一瞬で血の気が引いた


「お、おお親父!柱に落書きなんかして母ちゃんに怒られても知んねーぞ俺!!」

「がはははは怒らんねーよ!」


 ほらみてみろ、と親父が指差した先には随分と昔に彫られたであろう、少し黒ずんだ古傷がいくつもあった


「これはな〜……



 親父も子供の頃、親父が俺にしたようにじいちゃんがここに身長を彫ったのが始まりで…。初めは面倒臭くて、毎年毎年口うるさく言われ続けて…。そうやって刻んできたものが、今はとても愛しく感じる。自分に子供ができた時には、是非やらせたいと思っていたらしい。


「これだけは変わらねーなぁ…」


 そっと柱に額をつけると、心地のいい冷たさと、仄かに香る木の匂い。まるでここだけ時間が止まっているような。あの日の自分がここにいるような、そんな感覚。


 ああ、俺…ここに居ていいんだ……


 少し遠くから聞き慣れたエンジン音が聞こえる。程なくして、車庫に車が入る音がした。


 昔から重くて、開けるたびにガタガタと大きな音を立てる引き戸を開けると、車から降りようとしている2人。驚きと喜びの混ざった表情の両親と、4年ぶりの再会に口元がゆるむ。


「おかえり、親父、お袋」

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