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パーティイン

夕刻。 もうすぐ日も暮れるだろう。ただ、彼らはまだ帰ってこない。

「あのコらはどこをほっつきあるいてるのかねー」

「急な依頼があったのかも知れませんし、仕方ないですよ」

固めの鶏肉をかじりながらエールで流し込む。 ここの料理はスパイスが効いていて私好みだ。

早く彼らに会えないのは残念ではあるが、そのうち帰ってくるだろうし、気にすることじゃない。

「あ、この馬鈴薯おいしい」

「あ、わかる? 北の行商人が格安で降ろしてくれてねー。 結構評判いいんだよー」

「私の村じゃ馬鈴薯にチーズを乗せて焼くのがおいしかったですね」

「へえー。 馬鈴薯にチーズかー。 今度ウチで試してみようかなー」

そうこう2人が料理談義をしていると表の方が騒がしくなってきた。

「……? 表が騒がしいですけど、喧嘩ですかね?」

「あー、いや、これは、あのコらだね」

女将がそういうやいなや入り口のドアは景気良く開かれる。

「がーっはっは! 女将ィ! 一番いい酒と適当な肴頼むぜ!」

「あ、僕は鳥の串焼きの盛り合わせをお願いします」

「じゃあ、私は野菜盛りだくさんのサラダで」

「構わないけど、お金は大丈夫ー?」

アーヴィンが女将にお金が詰まった袋を投げ渡す。

「いやー、今日はいい日だったぜー」

「何かいい稼ぎでもあったのー?」

「ええ、ストレスを発散できた上にお小遣いも頂きました」

「きっと私達の日ごろの行いがいいから、神様がご褒美くれたんだと思うよ」

周りでは「そういうことか」「相手もついてねーな」と騒ぎ立てている。

「相変わらずだねー。 あ、席は奥のテーブル使ってね」

「あん? カウンター空いてんだからここでいいじゃねぇか」

「パーティに入ってくれそうなルーキーが居たからね。 いろいろ話したい事もあるでしょ?」

女将がこっちに顔を向けた。

「おー、女の子か。 仲間になってくれるなら嬉しいねえ! ガールズトークもできるってもんだ!」

「とりあえず、向こうへ移動しましょうか。 あ、ここは僕らが奢りますのでご注文はお好きにどうぞ」

あれよあれよと奥のテーブルへ拉致された。

向かいには盾の男と大剣の男が座り、隣にハンマーの女が座った。

「んじゃ、まずは自己紹介だ。 俺はアーヴィン。 一応頭って事になってるが、パーティの内で誰が偉いかなんてモンは無いから気にするな」

無精ひげを生やしている男、一言で言えば、男くさい男だというのが第一印象だ。

「では、僕も。 僕はグリフ。 ギルドではファイターで登録してます」

こっちは女好きそうな優男って感じだ。 さっきのアーヴィンと違って知性を感じられる。

「それ言うならみんなファイターで登録してるってーの。 あ、私はシャルロッテ。 シャルって呼んでいいよ」

女性にしては背が高く、体も筋肉質だ。 大きなハンマーを扱えばこうもなるのだろう。

「で、お嬢ちゃん。 あなたのお名前は?」

「あ、すみません。 私はエチカです。 よろしくお願いします」

「おう、よろしく」と「よろしくお願いします」が帰ってきた。

「それでだが、魔法はどの程度使えるんだ? 出来れば明日にでも行きたい場所があるんだ」

「えーと、私はエイジスの神官ですので、基本のヒールと能力向上系魔法のアタックとシールド、それとエイジス様由来のライトニングストライクが使えます」

三者が顔を見合わせてなにやら確認を取っている。

「問題なさそうですね。 では、明日にでも」

言いかけているところで女将さんが料理とお酒を持ってきてくれた。

「はい、お待ちー。 彼女、あなた達がモンスター討伐に行って助けた村の子らしいよー」

「……モンスター討伐で行った村?」

三人ともなぜか考え込む様に固まった。

「……グリフ、どの村か覚えてる?」

「エチカさん、それはいつ頃のお話でしょうか?」

「えーと、確か2週間ほど前ですね」

今度は本格的に悩み始めた。

「え、あなた達覚えてないの!?」

「いやいや、覚えてるって! ……ただ、心当たりが多すぎてどれだったかな、と」

「だよねぇ、ギルドで討伐数がどうのこうの言われて、モンスター討伐ばっか受けてたもんねぇ」

「村といっても東西南北どこへでも行きましたからね。 7つくらい村に討伐いった気がします」

うんうんと3人とも唸っている所を見ると本当にどこだかわかっていないみたいだ。

「えっと、東の方にあったナタークって村なんですけど、覚えてませんか?」

「東だったらたしか2箇所だったな」

「僕の記憶でも2箇所なので間違っていないと思います」

「じゃあ、二分の一だねー」

大分絞られたみたいだが、結局のところ自分の事は覚えていないみたいだ。

寂しくはあるが、普段から村を救ったりしていると考えれば人を選ばずに仕事をしているんだと思う。

そういう人たちだからこそ、自分は救われてて今現在生きているのだ。

「正直な話、俺たちは村の名前なんていちいち覚えてねーからなぁ」

「楽しく遊べるような可愛い子が居るような村だったら覚えているんですけどね」

「モテない野郎共だからその辺は仕方ないねぇ」

「喧しい」と「モテないのは貴女もでしょう」の言葉が同時に飛んでくる。

初めて会った時も思ったがとても仲が良さそうだ。

「2週間前の東っていうと、クソトカゲの群れから襲撃された村のやつか、」

「ゴブリンとオークの混合部隊の襲撃してきた時のやつですね」

「このどっちかだと思うんだが、合っているか?」

「はい、ゴブリンとオークが襲撃してきた方の村です」

「村の名前はおぼえてねーが、狩ったのは覚えているな」

「ですね。 あの時は確か僕とシャルが同スコアでアーヴィンがゴブ一匹分足りずに負けたのを覚えています」

「あーあの時のか! あの時のただ酒飲めて気分がよかったねぇ!」

「……あれは痛かった。 仕事上がりだってーのにおねーちゃんのトコに遊びにもいけなかったもんなぁ」

「そこで私は助けてもらいました。 本当にありがとうございます!」

「あー気にすんな。 俺らは仕事でやっただけなんだからよ」

「こう言ってはなんですが、僕らは仕事第一です。 助けたのはあくまでついでですよ」

「まあ、目の前で人に死なれちゃ気分が悪いからねぇ。 出来る範囲ではやるけど、無理だったら絶対に助けないよ、私達」

「それでもありがとうございました!」

これは偽りのない気持ちだ。

もしかしたらあの時に死んでいたかもしれないので尚更だ。

「……おう」

なぜか3人共私から目を逸らす。

「かっかっか! このコらは褒められたり感謝されたりするのに慣れていないからねぇ!」

「うっせー」「いや、本当に」「なんか小っ恥ずかしい」と3人とも本当に気恥ずかしそうにしている。

「それで、パーティの話は決まったのかい?」

「ああ、問題なさそうだ」

「魔法力がどれくらいあるかは判りませんのでマジックポーションを用意しておきましょう」

「じゃあ、エチカちゃんのパーティインを記念して今日は飲み明かすかー!」

「はいはい、明日に支障をきたさないようにしなさいよ」

こうして憧れのパーティに入った日の夜はとっぷりと更けていく。

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