いくら憧れの人に言われても
そのあとすぐのことだった。
工藤さんが雪村に「話がある。一緒に来てくれ」と会議室へ入ったのである。
「それで、話ってなんですか?」
話だったらさっきもしてたのに、と思っていた雪村だが考えられたことが一つあった。
「彼女の前ではいえない話・・・ですか?」
「あぁ。黒井博士が捕まったことで、報道はそれを大きく取り上げている。それで・・・」
「彼女が報道陣のネタにされる可能性があるということですか?」
こんなことだろうと思っていた。と雪村は内心でつぶやく。
「そうだ。研究所にいるとなればそれを記事にしようと群がってくるだろう」
「考えすぎだと思いますよ。確かに可能性は高いですけど、警察がそこまで報道にばらすなんてことはあり得ないと思うし、彼女は未成年でむしろこの事件の最大の被害者なんですから、情報が漏れたとしたらこれは警察としてどうかと思いますけどね」
「だといいんだが・・」
「心配しすぎですよ。研究所だってそんなことされでもしたら黙ってるはずもない。それに彼女になにかあったとしたら工藤さん達が黙っていないでしょ?」
「お前はどうなんだ?実の妹がピンチの際、お前ならどうする?」
「・・わかりません。その時の自分の判断で決めます。兄妹だってわかってても、まだその…他人だと思っていて」
「そうか?俺はお前たちが兄妹のように思えるがな。前よりも仲良くなってきてるし、最近は一緒に過ごすことも多いだろ?」
「それは、ほかのみんなより僕の記憶がないからでしょ?他人と一緒ですよ」
「雪村・・・」
雪村は、妹だと自覚はしててもその真実が明かされるまでは他人として過ごしていた。
今でもそれは変わらないという彼を工藤さんは黙って見つめるしかなかった。
「これはあくまでお前たちの問題でもある。そこのところはお前の判断で任せる」
「・・・はい」
といっても、記憶がない以上どうしようもないと思っていた雪村に工藤さんはさらに口
を開く。
「それで話は変わるんだが・・明日、力輝が学校へ登校する際に着いてやってくれ」
「いつもの監視、ですか?」
「いや。違う」
「えっ?」




