棗の恋心2
引き続き、語り手:工藤棗
「口には出さなかったが、あいつにもらわれるぐらいなら俺がもらった方がまだましだとも思ったんだ。俺ならあいつに無理やりになんてさせないし・・・」
それから疑問に思った。
俺が力輝を今までどんな形で想っていたのかを・・・。
魔法師で、後輩としてじゃなくて、もっと別の何かなんじゃないかと。
そう考えると、なぜかもやもやしてきて、自分でも訳が分からなくなってきたため椎名にこうして相談することを決めた。
「棗、その時点で答えはもう出てるぞ?」
「・・・」
「お前、彼女がほかの男と付き合ってたらどうする?」
「それは・・・」
「彼女がその男とキスしてさらにその先まで行こうとしたら・・・「そいつを殺す」
「殺しちゃダメだ。目がこわい、目がこわい」
「もう、分かっただろ?」
「・・・あぁ」
気分が悪くなった。
想像するだけで、その男を殺しそうになってしまう。
そんな汚い手で力輝に触れられると思うと虫唾が走る。
まだいない間に、俺の気持ちを伝えておいた方がよさそうだな。
そして数日後。
「椎名、ちょっといいか?」
「ん?どうした?また恋愛相談か?」
「そうだ。あいつに告白した」
「・・えっ?告白した?」
「そうだ。ほかの男と付き合っていないうちに自分の気持ちを本人に伝えた」
「マジかよ。ちなみにどのような告白を・・・?」
「俺と結婚を前提にお付き合いしてください。と言った」
「けっ、結婚!?」
「俺は木野原のようなことはしない。結婚を前提としていれば、あいつが立派な大人になるまで待つ事ができるからな。俺はあいつを他の男にやるつもりはない」
「・・・そっ、そうか。それで返事はなんだって?」
「いや。返事はもらってない」
「へっ?」
「ただお前を誰にも渡したくないってことだけ覚えといてくれと言ったら「分かりました」と言ってくれただけだ」
「それって、本当に告白したことになるんだろうか・・」
「とにかく気持ちは伝えたから問題はない」
「そうですか・・・」
「椎名、質問していいか?」
「なんだ?」
「お前、納豆食べれるか?」
「あぁ。食べれるけど・・・どうした急に?」
「あいつ、納豆が食べれないっていうんだよ。くさいから食べたくないとか言って」
「あぁ~いるよね。っていうか最近の子は食べないんじゃないか?」
「それであいつ、口移しで食べさせろとかわけのわからんことを「ちょっと待て」
「口移し?今口移しって言ったか?」
「そうだ」
「まさか・・したんじゃないよな?」
「しようと思ったら止められた。それでお茶を飲みながら食べてたな」
「お前・・・鬼か」
「椎名。お前まで俺を鬼扱いするのか?」
まったく失礼な奴らだ。
「いやいや、そんなに嫌がってるのに食べさせるのって案外鬼畜というか」
「身体に良いのに食べないのがおかしいんだ」
「気分悪くなったんじゃないか?」
「ああ。ぐったりしていた」
「そりゃそうなるわな~」
「椎名、お前キスしたことあるか?」
「いきなりなんだよ?・・・まさかしたのか?」
「・・・」
「その顔はしたんだな?したんだな?」
「あぁ。した」
「で、なにかあるのか?」
「納豆食べ終わった後に気持ち悪いとかいうから、少し和らげられるかと思って・・・してみた。そしたらすごくびっくりしていた」
「そりゃするだろ。それだけ?」
「いや、病室から出る時にもう一回してみた」
「お前・・・・病人になにしてんだよ」
「やっぱりだめだったか?」
「だめっていうより・・・なんの病気かしらないけど、悪化させたらお前のせいだぞ?」
「キスぐらいで悪化するのか?」
「しないだろうけど、もしそうなったらっていう例えだよ。空気読めよ」
「・・・わかった。もうしない」
「そうしておけ」
「退院してしばらく経ってから、またやる」
「もしかして、はまった?」
「はまったってなんだよ?」
「・・・いや。なんでもない」
椎名の言っていることは分からなかった。
だが、多分「お前は彼女とキスするのにはまったのか?」と聞きたかったんだろうが・・。
はまったというよりは、
いつもと違う彼女の顔を見ることができたから、それをもう一度見てみたいと思っただけなのだ。
真っ赤になって、おろおろして・・・普段じゃ見れない彼女の顔を・・・
もう一度見たい。




