棗の恋心
語り手:工藤棗
「なぁ、椎名。ちょっといいか?」
「ん?どうした、棗?」
同じ大学に通う椎名は、中学・高校の同級生で大学では学科が違うけれど、こうしてお昼は一緒に食べている。ほかの二人は別の人間と打ち合わせがあるとかで今日はこの椎名と、二人で過ごしていた。
「・・・その、いいにくいんだが」
「なになに?どうした?言ってみろよ」
「女の子のことなんだが」
それを聞いた椎名は「女の子っ!?」と大声を出して椅子から立ち上がった。
「おい、椎名。声がでかい」
「棗が・・・棗がとうとう男にっ!??」
「お前、今まで俺をなんだと思ってたんだ?」
「いや、お前女子に興味なかったじゃん。あいつどう?とかって話してても~『可愛いじゃないか?』としか言わないしさ」
「そうだったか?」
「それで、相手はどんな子?可愛い?性格は?年上か年下か?」
「椎名、落ち着け」
椎名はいつもいる二人とは違い冷静なまとめ役という感じなのだが、なんだかいつもより話に食いつく。それとも、俺がこの手の話を全くしないからだろうか・・・。
とりあえず、俺は椎名の質問に答えることにした。
「そうだな。背は俺と同じぐらいで、性格は真面目なんだが、時々危なっかしいというか世間知らずで・・・それに少し負けず嫌いなところもあるな」
「世間知らず、というと?お嬢様とかそんな感じ?」
「そうじゃない。いろいろ事情があって言えないんだが、ずっと施設にいて義務教育を受けていないんだ」
「えっ、なにそれ?ひどいやつじゃんか。じゃあ、その子思い出無し?辛いな~それ」
「本人は気にしているかどうかは分からないがな」
力輝は本当のところ、どう思っているか分からない。
普通の女子高生と同じように過ごしてはいるが、心の中ではいったいどう思っているのか・・・・。
「その子、今何歳なの?」
「今年、高校に入ったから16歳だ。・・・そういえば、あいつの誕生日知らないな」
登録する際はほとんど部長が行っていたので、俺は彼女の生年月日を知らない。あとどうやって高校に入れたのかさえも。
「義務教育受けてないのに、高校行けたの?」
「それについては詳しく教えられないが、俺が高校受験までに中学で習う基礎を叩きこんだからな。それで見事合格した」
「マジで!?お前教師になれるじゃんか。今からでも教員免許とれ」
「とらないぞ」
冗談で言っているのか本気で言っているのかはわからないが、俺は教師になるつもりは一切なかった。それどころか、俺はもともと大学へ進学するつもりもなかったのに・・・。
「まぁ、それはさておき。棗はその子のことどう思ってるの?俺に聞くってことはそこらの女子よりは違うでしょ?」
「・・・それが分からないからお前に相談したんだが」
「棗君、背も小さいけど中身もまだ子供ですね~」
「椎名、この間の課題まだ残ってるんじゃないか?手伝ってやんないぞ」
「すみません。棗様!」
椎名は慌てて土下座した。
俺はこの身長のせいでよく中学生と間違えられる。椎名とあとの二人は俺よりも背は断然高いが、「この間、俺より背の高いサラリーマンの人見つけてさ~。すげぇ目立ってたぞ~」と話しているのを聞いたので、背が高いのもあまりよくないなとも思えるようになってきた。
だが・・・子ども扱いされるのだけはどうにかしたい。
「椎名。例えばお前に仲のいい女子がいるとして、その女子が見知らぬ金持ちの男に結婚しろって言われて無理やり連れていかれて結婚させられそうになったら・・・・お前ならどうする?」
「例え話にしてはリアルすぎるけど、本当にあった話じゃないよな!?」
「・・・・」
「俺だったら止める。そんな結婚絶対幸せになんないと思うから」
「・・そうだよな」
「あと、その男ぶん殴るかな。彼女の気持ちを無視して結婚なんてすんじゃねぇよ!って、言ってやりてぇ」
「椎名。お前かっこいいな」
「そっ、そうか?なんか自分で言ったのもなんだが・・・照れるな」
なんで照れているのかわからなかった。本当のことを言っただけなのに。
「俺もそういえばよかったかな」
「えっ!?マジなの?今の本当に起きたことだったのか?!ちなみにお前はなんて言った?」
「今思えば恥ずかしいんだが・・・誰がお前なんかに彼女を嫁にやるもんかって」
「それ明らかに父親がいうセリフだな」




