一つの星の終焉、世界と愛の誕生
遥か遠い昔、一つの“星”に、女と男の二人が居た。
二人は共に同じ“星”で生まれ、共にずっと暮らしていた。
しかし、二人は喧嘩してばかりだった。
些細な事で喧嘩が始まり、仲直りしては又、喧嘩を始める。
「これはわたしのだよ!」
「いいや、これはぼくの!」
沢山あったが無くなって一つだけになったモノの為に、或いはこの世にたった一つしかないモノの為に取り合う。
そんな暮らしがずっと続くと思われていた……。
ある日、二人にとてつもない困難が立ちはだかる。
住んでいる“星”に別の星の者達が降り立ち、何の予言も無く、戦争を開始したのだ。
二人は懸命に応戦するも、戦争に敗れてしまう……。
そして“星”は、別の星の者達の策略に寄り、消滅の危機に陥る。
傷だらけになった二人に出来る事は、“星”の消滅と同時に起きる“死”をただ待つのみ。
……いや、他にあるとしたらそれは――
残っている力を振り絞って、“星”を脱出する事。
それ以外に方法は無かった。
しかし、二人に残された時間は少なく、其々に残っている力では何処かへ脱出するのに足りない。
二人合わせての力であれば、もしかしたら何とかなるかもしれない。
そんな中、女は残っている力を振り絞って、男に寄り添う。
そんな女に男は驚きの表情を浮かべるが、男も女に近付こうと、残っている力を振り絞って寄り掛かる。
女は笑って、こう言った。
「わたしは……『世』になるよ」
男も笑って、こう言った。
「……ならば、俺は……『界』になろう」
やっとの事で二人の手が合わさると、二人は大きな光に包まれて消えていった。
それから数分経った後、一つの“星”が宙から消えた。
女と男の二人の行方はどうなったか?
新しい場所を見つけ、其処を“世界”と呼び、其処に住む人達が“愛”を育む事で、全てが“愛”に包まれていく。
そんな物語が何処かで生まれ、別の何処かで眠っている。かもしれない。
こうして、星が消える直前の二人の間に“愛”が芽生え、新たに“世界”が生まれていった。
……かもしれない。
※ ※ ※
新しく出来た“世界”の何処かのベンチで、老人は一人、腰掛けていた。
老人の左側から男の子が一人、ハートの形をした“それ”を両手に持って走り、老人に近付く。
「はいっ!」
男の子は笑顔で、両手に持っていた“それ”を老人に渡す。
「……“星”をありがとう、小さな坊や」
老人は片手で“それ”を受け取ると、もう片方の手で被っていたハットを取り、軽く頭を下げた。
「おじさん、なにいってるの? それは“あい”だよ?」
男の子は可愛らしく首を傾げる。
老人は先程受け取った“それ”に目を向けると、少し恥ずかしそうな顔を浮かべた。
「あ……はは、そうだったね……。今は、そうだったんだ……」
「おじさん、へんなのー」
男の子は笑い掛ける。
老人は“それ”をコートの懐に仕舞うと、再び笑顔を浮かべた。
「……そうかもしれないね。……よし、今日は一つ昔話をしようか」
「えっ、なになに!」
男の子は興味津々で目を輝かせる。
「一つの“星”が滅び、“世界”が生まれ、全てが“ 愛 ”に包まれていった話を……さ」