表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

女王様のお遊び。

断罪イベントに婚約破棄?いえ、全ては女王様のお遊びです。

作者: unagi

恋愛色が薄くなってしまったので、裏側掲載予定です。

「ギース、頼み事があるんじゃ。」

10年前、女王様は私にこういった。


◇◆◇


「ギース!お前は騎士道に反した行動をとり、シアを手に入れようとした!その行為は罰するに値する!」

勇者と呼ばれる男、ジェームズは私にこう宣言した。

「そうですか。」

私はたんたんと応えた。


ジェームズは勝ち誇った顔をして、3人もの女性を従えている。


一人は、公爵家のご令嬢。

妾の子である彼女は、意に反した結婚をさせられそうになった。

そこに颯爽と現れた勇者。

彼がその結婚を破談に導いた。

もう一人は、王宮専属の騎士で唯一の女性。

騎士道一筋だった彼女。

その前にまたも颯爽と現れた勇者。

悪魔退治の道中、暴漢から彼女を守った。


最後の一人は女王様。

若くでこの国の女王として君臨した。

そして現れた勇者。

一人孤独に闘う彼女の心を救った。

ーーとかなんとか。


その三人の女性が勇者の後ろからこちらを伺っていた。

「それで、私の処遇はどのように?」

私は冷静さを保っていた。

勇者はニヤニヤと締まりのない顔をした。

「幽閉では足りないな。シアに手を出したのだから。斬首刑あたりはどうだ?」

勇者の提案に、周りに集まっていた観衆たちが同意する。

「そうだそうだ!」「斬首でもまだぬるい!」「早く捕まえろ!」


私はため息をついた。

「そうですか。念のため、何の罪で?」

「私のシアに手を出した罪だ!」

観衆の応援も熱を帯びる。

いつの間にかパーティー中の人が集まっていた。

すなわち、若い貴族のほとんど、というわけだ。

「私のシア?」

「そうだ。」

勇者は胸を張った。

「皆のもの!私は、リムシアに全てを捧げることをここに誓う!あなたの望みは全て叶え、あなたの憂いを全て払おう。」

勇者はリムシアの手を取り、誓いの言葉を述べた。

それは昔に使われたプロポーズの言葉だった。

後の二人の女性は悲しげな顔をしたが、祝福の輪に加わっていた。

周りは祝福ムードで、会場の酒で祝杯をあげる者もでた。


「まあ、嬉しいっ!私の望みはなんでも叶えてくださるって、ほんとう?」

リムシアは嬉しそうに頬を染めた。

「もちろんだとも。月の女神に誓おう!」

勇者は手を胸にあて、誓いのポーズを取った。

月の女神とはこの国を創設した神といわれる存在で、その月の女神への誓いはいかなる場合も破ることを許されてはいなかった。


勇者はリムシアとの結婚を選択した。

公爵令嬢として一定の富を得ることより、付き合いの長い女騎士と結婚し平穏な毎日を手に入れることより、も。

正直、勇者も迷いはあった。

公爵令嬢と結婚すれば、一生優雅な暮らしができる。

女騎士は、特に長い付き合いで自分を一番よく知っている。


しかし、リムシアと結婚することを選んだ。

リムシアは女王だ。

国一番の女と結婚し、地位と名誉と金を手に入れる。

勇者は自分では気がついていなかったが、リムシアを選んだ理由はそこにあった。

胸の奥底に眠った野望が、勇者として持ち上げられることでひょっこりと顔を出したのだ。


勇者は誇らしげに一歩を踏み出した。

この瞬間、この国は自分のものになったのだ、と。



「ーーはははははは!ははっ!くくくっ」

突然の奇妙な笑い声。

勇者はこの瞬間を邪魔されたと、笑い声の主を探した。

後ろを振り返る。

笑い声は、リムシアから出ていた。

いや、私のよく知る女王リムシアのものだった。


「し、シア...?」

「気安く呼ぶな。我は女王ぞ。お前のような一家臣が呼び捨ててよい名前ではない!」

ポカンと、突きつけられた言葉に口を開けた。

その間抜けづらを見て、女王はクツクツと笑った。

「か、家臣?シアと私は結婚してーー」

「結婚?なんの話だ?なあ、ギース。」

「ええ、勇者と女王の結婚なんて聞いたこともありません。」

加害者であるギースと被害者のリムシアの会話に、動揺がはしる。

「誓いの言葉を言っただろう!」

「誓いの言葉?ああ、あんな古いもの、なんの拘束力も持たぬ。」

確かに、今時あんな言葉で結婚の約束をする者なんていなかった。

ただ、勇者はパフォーマンスのように素敵な言葉を使っただけだ。


「何を言っても同じこと!月の女神への誓いは、女王でも破れぬものだ!」

それでも勇者は勝ち誇った笑みを浮かべた。

その下品な顔に、リムシアは眉を顰める。

「お前は、私の望みを叶えると、誓ったのだ。」

「そうだ、シア!君は私と結婚の約束もしただろう!」

勇者は、婚約した場所がいかに綺麗で、どんな言葉でリムシアを口説いたか、早口に説明した。

「...ジェームズ?」

それを聞いた公爵家のご令嬢と女騎士の表情が固まった。

同じシチュエーションで二人もプロポーズを受けていたからだ。

身分として女王を結婚相手に選んだのは仕方がないと思っていた。

本当は自分を一番に愛してるとーー


「婚約?そんなもの記憶にないが、まあいい。破棄しておけ。」

リムシアはさらりと、婚約破棄を言い渡した。

「ギース!お前だな!お前が私のシアに...!」

リムシアが別人のような態度を取るので、勇者はギースに食ってかかった。

それをギースがかわすより先に、リムシアの剣が勇者の行く手を阻んだ。

「シア?そんな危ないものを持って。ーー君は戦えないんだろ?」

勇者は見慣れぬ剣を持ったリムシアを、諭すよう言った。

「戦えない?誰がそんなことを言った。」

キラリと光った剣は、使い込まれた跡がある。


流石の勇者も、今までのリムシアが偽りだったことに気づいた。

「だ、騙していたのか、俺を!ーーならいい。隣国の姫からも求婚されているのだ。そちらへ行くまでだ。」

ヒーローとして輝いていた時とは一転。

下衆な笑みを浮かべて笑った。

「隣国?ならぬ。」

「どこへ行こうが俺のかってだ!」

勇者は隣国から貰っていた魔法陣を取り出し、移転魔法を発動させた。

ピカッと魔法陣が光り、皆が目をつぶった。


「ーーな、なぜだ、」

勇者は移転できなかった。

「なにをした!」

「月の女神に誓ったじゃないか。私の望みを叶える、と。」

リムシアは妖艶に冷たく微笑んだ。


それはギースのよく知るリムシアだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ