マルク・ヴァンプールの第十四回目のレポート
――とまあ、吸血鬼である『ミネル・スカーレット』出会ってから、彼女が誘拐されそうになったり、フェアリーである『リン』に出会ったりなど、様々な事がいろいろ起きた。
リンについてもいろいろ観察したいところだが、今回の目的は吸血鬼。なのでここではメモをする程度にしか記さない事にしておく。
それではここで、僕がこれまで読んで蓄えてきた吸血鬼についての知識を、ひとまず書いてみようと思う。
吸血鬼は人の血を飲む事で有名だが、ミネルを見ている限りどうやら、美味しいだとか不味いなどがあるらしい。その判断はどうやっているのかは謎だが、体格などから関係しているのかもしれない。
そして吸血鬼の寿命について。これはリンから聞いた情報だが、いま住んでいる小屋に来たのは、約百二十年も前と言っていた。この事から長寿ということが分かる。今のところここまでしか確実な情報を手に入れていないが、他にも観察すべき部分がたくさんあった。
まず、初めに出会ったときに彼女が僕を襲ってきたところだ。あの時どうやって空中を浮く事が出来たのだろうか? もしかすると蝙蝠などに関連しているかもしれない。
そもそも吸血鬼が誕生したのは、十五世紀に有名となったワラキア公ヴラド三世だ。今は十八世紀だからおよそ三百年前。幻獣の中では最近から存在し始めたとされたと考えられる。が、これは元が人間のケースだ。血を吸う幻獣は遥か前から存在し続けている。
では何故、今頃になって吸血鬼という存在が目立ち始めたか。それは血を吸う、という行為が関わっている。
以前から存在している幻獣というのは、人間の血ではなく、獣や家畜などの血を吸っていた。それも少量しか吸わなかったため、あまり人間にばれる事が無かった。
けれど『人間の血を飲めば寿命が延びる』と聞いたヴラド三世は、夜深くに出歩き人間の血を吸い始めた。これが、吸血鬼が公になるきっかけとなった。主な説ではこれが一番の有力とされている。他にも元が蝙蝠だったのに、人間の血を吸ったことが原因で人の形を取るようになったなどと、いろいろな説がある。
もし最初が人間から幻獣になったとするなら、彼女が飛んでいる事に仮説を立てることが出来ない。が、蝙蝠から人の形を取るようになり、幻獣となったのなら説明がつく。
……て、生態観察なのになんで過去の話ばっかり書いてんだよ。
まあともかく、リンの話によるとミネルは満月の日(今これを執筆している次の日だ)に活発に活動するらしい。
つまり、近くにいる僕の身がかなり危ないのだが、これくらいで諦めたりするわけがない。
無事に生き延びて、絶対にこの事を世間に広めるまで諦めたりしない。