パート6
マルクはそう言った刹那、扉から小さな光が飛び込んできた。
光はマルクや男達を見るかのように動き回り、ミネルの顔の前で止まった。
突然現れたそれに、マルクと男達は驚き、その場に立ち尽くしていた。
すると光は再び動き出し、男達の頭上でキラキラと輝く粉を落とし始めた。
「な、なんだこれは……?」
「急に、眠気が……」
驚く事に、その粉を吸った男達は急にあくびをし、その場で眠り込んでしまった。
担がれていたミネルは落ちたが、その前にマルクがミネルの体を受け止めた。
マルクは持っていた果物ナイフで、ミネルの縄を解いていると、再び小さな光がミネルの元にやってきた。
「ふう……。助けてもらいすまんな、リンよ」
「リン? それはこの光の名前かい?」
『光じゃなくて、フェアリーです』
マルクの疑問に答えたのは、なんと小さな光――フェアリーだった。
『初めまして勇敢でお優しい紳士さん。私の名前はリン。以後よろしくお願いします』
「こ、これはご丁寧に。僕はマルク・ヴァンプール。旅人で物書きをしている者さ」
光に目が慣れてきたのか、マルクはリンの姿を捉える事が出来るようになった。
まるで小さな小人のようだった。背中には蝶のような小さくて薄い羽が四枚ある。
「それより、何故お主がここにおる? 出て行けといったはずであろう?」
「確かにそうだけど……出て行けといったのはこの小屋で、森じゃないだろう? 近くで野宿でもして、そこから観察しようかな、と思って」
「お主は馬鹿か? 今この場でおぬしの血を――」
『こらミネル』
「あたっ」
リンは、ミネルのおでこにその小さな手で叩いた。
『あなたはあたしとマルクさんに助けてもらった身でしょう。それなのにその態度はなんですか?』
「し、しかし、実際に助けてもらったのはお主じゃ。こやつからは……」
『マルクさんが助けにきていなければ、私の助けも間に合わなかったわ。それに、あなたの流儀を自分で破るつもりなのかしら?』
「むう……」
ミネルはしばらく悩んでいたが、マルクに向き合い、頭を下げた。
「……助けてもらい、礼を言わせて貰う」
「い、いやそんな、僕はただ僕の為にさせてもらっただけさ」
「本来なら客として招きたいところだが……」
ミネルは急に頭を上げて、マルクの事を睨み始めた。
「我はまだお主のことを許しておらん。今すぐに出て行け」
『ミネル』
「う……」
再びリンに叩かれ、ミネルはしぶしぶ言った。
「……この小屋に入る事は認めん。が、この近くで野宿することぐらいは認めてやる」
「うん。僕はそれでもいいよ。野宿するのには慣れてるからね」
『私からも礼を言わせて貰います。ミネルを助けていただき、ありがとうございました』
「いや、実質僕は何もしてないよ。それより、彼らはどうする?」
マルクが言っているのは、リンの粉で眠った男達のことだ。今もまだ深い眠りについている。
「血を吸ってから、村の近くに捨てたいが……。こやつらの血はまずそうじゃ」
「それなら、僕が運んでおくよ。せめてそれぐらいはさせてくれ」
『では、私が村まで案内させてもらいますね』
「ありがとう、助かるよ」
この暗い中、マルク一人では森のなかで迷ってしまうため、リンの申し出はマルクにとってとても助かる事だ。
男達を縄で縛ると、マルクは小屋の近くにあった荷車に乗せて、リンの案内で村まで運び始めた。
リンの光はとても小さいが、月の光に負けないくらいに輝いているので、見失う事は無かった。
「そういえば、リンさんはフェアリーなんだよね?」
『リン、で結構です。そうですね、もしくは妖精と言ったほうが分かりやすいかもしれません』
妖精。マルクは本で読んだ知識を思い出していた。