パート5
その夜。
マルクは焚き火のわずかな明かりで、本を読んでいる時だった。
少し離れたところから、微かに音が聞こえた。
「…………?」
まさか狼が? そう思ったが、ミネルは自分の事を恐れて人どころか獣すら近づかないと言っていたのを思い出し、マルクはすぐに別の可能性を考えた。
とりあえず荷物をまとめ、焚き火を消さないまま隠れる事にした。
樹木の陰に隠れていると、音は小さいが徐々に近づいてくるのがわかる。音とその間隔からして、どうやら人のようだ。しかも一人ではなく、複数。
森の中なので顔はよく見えないが、焚き火のおかげでシルエットだけは見ることが出来た。
数は三人。どちらも体は大きい巨体で、その手には農作業で使われる鍬や斧が。おそらく近くの村にいる男達だろう。
(やっぱり、目的はあの子か)
マルクの推測では、魔女と噂されているあの子を捕まえに来たと考えている。
ただでさえ忌み嫌われている存在だ。討伐、あるいは捕獲しようとするのは、もはや当たり前の行動だ。
「……でも、そうされると困るんだよな」
マルクはトランクから果物ナイフを取り出した。
男達が小屋の中に入ると、ミネルはベットの上で寝ているところだった。それを確認すると、急いで手と足を縄で縛り、喋れないように口も縄で縛ろうとした。その時、ミネルが目を覚ました。
「な、なんじゃお主ら!?」
「おい、目を覚ましやがった!」
「急いで口を縛れ!」
必死に抵抗しようとしたが、さすがに男達の腕力には歯が立たず、すぐに拘束されてしまった。
「むー! むー!」
「へ、へへ……。安心しな、魔女。俺たちはお前を殺しに来たんじゃない」
「悪いが、俺たちの生活の為になってもらおう」
それを聞いた瞬間、ミネルは全てを悟った。
自分はどこかの貴族か王に売られるのだと。
いままでは、誰かが小屋に入ろうとする前に気付き、木こりの斧を使って追い出してきた。が、疲れていたせいで反応が遅れてしまった。
このまま売られてしまっても、いずれ殺されてしまうだけ。
ミネルにとって、それは一番いやな事だった。
「むー!」
「こいつ、おとなしくしやがれ!」
たとえ縛られたとしても、ミネルは体を無理矢理に動かして、なんとかして逃げようとした。
しかし、所詮は少女の体。あっさりと抱えあげられてしまう。
「よし、このまま……」
「村に戻って売ろう、とか考えないでくれよ」
小屋から出ようとした男達の前に立ちふさがったのは、マルクだった。
男達は突然の乱入者に驚いたが、一番驚いたのはミネルだった。
「むー!? (な、何故お主がここに!?)」
「ゴメン、約束を破って。でもこの状況じゃ、そんな事言ってる暇じゃないだろ?」
「だ、誰だお前! こいつは俺たちの獲物だ!」
「おいおい。僕は別に奪いに来たとか、そういうのじゃないさ。でも、その子を攫うのは勘弁して欲しいんだ」
体つきからして、人数からして圧倒的に男達が勝っているのに対し、マルクは至って冷静だった。
「だってその子は、僕の大事な友人になる予定なんだから」