パート3
目を覚ましたミネルは、いまいる場所がどこだか咄嗟には分からなかった。
「こ、ここは……」
次第にここが自分の暮らしている小屋だと分かった。
けれど、いつの間に戻ってきたのだろうか? 確か湖の水を飲んでいたら、変な人間がやってきて……。
そこまでは覚えているが、どうしてもその先が思い出せない。
頭だけを動かすと、そこにはテーブルでうたた寝しているマルクの姿があった。
自分がベッドにいて人間がここにいるという事は、また日光に当たって気絶してしまったのだろうか。だとしたら、記憶が無いのも納得できる。
体を起こしてマルクの方に近づくと、どうやらマルクは、何かを紙に書いている最中に寝てしまったようだった。
ミネルが何を書いていたか見るために、紙を取ろうとすると……。
「……ん、あれ、起きたんだ」
ミネルが近づいてきた気配に気付いたのか、いきなりマルクが目を覚ました。
「お、お主……何故ここにおる!?」
驚いたミネルは、どうしてマルクが小屋にいるのかを、少し戸惑いながら尋ねた。
「ふわ……ああいや、ごめん。いきなり君が気絶したから、とりあえず横になりそうなところを探していたら、この小屋を運よく見つけてさ。近くの村に戻ろうかと思ったんだけど、吸血鬼の君を連れて行けないだろ」
「ここは我の家じゃ! お主はさっさと出て行け!」
「君の? ああ、だからこんなに整ってるのか」
マルクはミネルの言葉を無視して、小屋の中を見渡した。
小屋の中には本棚や暖炉、他にも服をしまうタンスなどといった、人間の生活に最低限必要な家具があった。本が散らかっているなどという事は無く、埃はひとつも落ちていない。
ただ、ひとつ。マルクは気になることがあった。
「……でもなんで、こんなところに木こりの斧が?」
これだけ整った環境に、なぜか入り口の横に斧がぽつんと置かれていた。
ミネルはマルクの質問に答える。
「ふん。ここは元々木こりの家みたいでの。長らく誰も使用しておらんかったから、我が有効活用させてもらっておるだけじゃ」
「なるほど。だから吸血鬼だけじゃなく、普通の人でも暮らしていける環境なんだな」
「……お主、いったいどういうつもりなのじゃ」
マルクは質問の意味が分からず、問い返した。
「どういうつもりって?」
「我の正体を知ったにも関わらず、何故逃げぬ? 何故怯えぬ? 何故殺そうとしない?」
「おいおい殺すだなんて。吸血鬼なんて貴重な存在、殺すなんてもったいないだろ」
マルクとしては真面目に答えたつもりだが、ミネルにとっては逆に不審感が強まるだけだった。
そしてさらに、マルクは言った。
「そんなことより、僕もしばらくここに住み着いていいかな?」
「はあ……? お主、なにを訳の分からんことを言っておる?」
「だって、すでに全滅したはずの吸血鬼が目の前にいるんだ。こんな貴重な存在観察しないわけにはいかないだろ!」
「観察……? お主はただの旅人であろう? 何故我を殺さずに観察するのだ?」
「本にして売り出す!」