パート21
「……模擬戦、だと?」
突然のアレンの提案に、マルクは少しだけ眉間に眉を寄せた。けれどすぐに無表情に戻ると、手にしていた剣を構えた。
「分かった」
「勝負はどちらかがまいったと言うまで。相手を倒す手段はなんでもありだ。実戦と同じ感じで来い」
アレンも同じように構えると、周りにいた何もせずにしゃべっていた野次馬は巻き込まれないように、訓練場の隅に移動し始めた。
先に仕掛けたのは、マルクだった。
最初の踏み込みと同時に構えていた剣を上段から一気に振り下ろす。アレンはそれを後ろに一歩下がることによって避け、そのまま剣を地面と平行にしながら横に斬る。容赦なく頭を狙ってきたその攻撃に戸惑うことなく、マルクは少しだけ腰を沈めて避けるとさらに踏み込むために剣でアレンの心臓を突こうとする。けれどその突きが届くよりも先にアレンの剣ではじかれて、体勢を崩されてしまう。
「…………っ!」
急いでマルクはアレンに足払いをしてその場から退避しようとしたが、その動きを読んでいたのかアレンはその場で軽く飛び、渾身の力で持ち上げた剣を振り下ろした。なんとか地面に転がることによって回避したマルクは息を整えるため、剣を構えなおす。
「すばしっこい奴だな、お前は。まるで猿でも相手にしてるかのようだ」
「…………」
アレンの挑発に乗ったわけではなかったが、マルクは再び剣を振る。今度は縦にではなく下段から上段への振り上げだった。今度は避けずに剣で受け止めたアレンはがら空きの左半身に向かって斬りかかる。慌てることなくマルクはそれを剣で防ぎ、休む暇なくアレンに斬りかかる。
斬り、防ぎ、避け、突き、時には離れて体勢を整え、また斬り……。
周りでその模擬戦を見ている者ですら呼吸をするのを忘れて、二人の戦いを見守っていた。
やがて、マルクがアレンの剣を弾き飛ばした。
「むっ!」
「はあっ!」
相手に飛ばした剣を拾わせる暇を与えずに、マルクは剣を振り下ろした。だがアレンは横に動くことによって紙一重でかわすとそのままマルクの体に体当たりをした。
マルクとアレンの体格は、アレンの方が勝っていた。普段から体が細く小柄だったマルクの体はやすやすと吹き飛ばされ、それと同時に剣を手放してしまった。
地面に転がったマルクが急いで立ち上がろうとすると、首筋に冷たい鉄の感触を感じた。マルクがさっきまで持っていた剣をアレンが拾い、マルクの首筋に当てたのだ。
「まだ、続けるかな?」
「…………まいった」
そのマルクの一言により、マルクとアレンの模擬戦は終わった。