パート20
翌日。
スレイは、幻獣が発見され討伐しろという命令が来ない限り、日々訓練に勤しんでいた。
だが……幻獣を討伐し続けて約二百年。すでに幻獣の数は少なくなっており、先日のウルフのようにひっそりと暮らしているため発見が困難となっており、ほとんどスレイの役割は無くなっていた。
そのため、訓練を真面目にしている者は少なく、国としてはスレイに宛てられる軍資金を自国の軍に費やした方がいいのではと議論されるほどに、今のスレイは部隊として成り立っていなかった。
「で、この前の子とはどうなったんだよ?」
「それがよー、最初はあんなに嫌がってたくせに途中からは自分から腰振ってきてさ。いやーもう大変だったわ」
「はは、今度俺にもやらせてくれよ」
訓練場にも関わらず、下品な会話をして時間を潰している仲間をよそに、マルクは剣をただひたすらに振り続けていた。
マルクは当時十八歳にも関わらず、スレイではその実力を認められ副隊長としての任を受け持っていた。だがマルクが部隊に指示を出すという事はなく、むしろマルクにとってそれは、邪魔であった。
もともと、マルクには人をまとめるといった才能は自身ですらないと自覚していた。むしろ、自分から仲間たちと距離を取っており、コミュニケーションは一切していなかった。
だが副隊長という立場はそれなりに自由に行動することが出来るため、その点にだけは感謝していた。
もし副隊長出なかったら、先日のように単独でウルフを狩ることなど出来ないのだから。
「――マルク、少しいいか?」
汗をぬぐう事すらせずに剣を振り続けていたマルクに、アレンが声をかけた。
「……なんだ?」
「出来れば、他の仲間がいるときは示しがつかないので、なるべく敬語を使ってもらいたいものだがな」
アレンが苦笑しながらそう言ったのには、他にも意味があった。
アレンはマルクの事をまるで自分の子供のように扱っているため、少しでもいいから世間に適応出来るように、さり気無くではあるがこういう風に教育をしていたのだ。
それを聞いたマルクは顔を少し歪ませながら、少し考えた結果。
「……俺に何か用か、アレン隊長」
と、敬語はまったく使われていないが、アレンの事を『あんた』ではなく『アレン隊長』と呼んだだけだった。しかしアレンはその事に不満どころか、逆に満足そうに首を縦に振った。
「うむ。そうやって一人で素振りだけでは、お前の実力では物足りないと思ってだな」
そして、今この訓練場にいる全員に聞こえるように大きな声で、腰にある剣を抜きマルクにその剣先を突き付け――。
「模擬戦をしないか? マルク・ヴァンプール副隊長」