パート19
スレイの本拠地は、町の中心にある城の中にある。
この城には街を統べる領主が住んでおり、もしどこかから何者かが攻めてきたとき、街を守るために兵を日々鍛えていたり、様々な雑務をこなしている。まさに住民からみたら、信頼の出来る領主だった。
もちろんスレイもその一部だ。
幻獣を駆除するために設立された部隊だが、何もその対象は幻獣のみではない。その高い戦闘能力は対人間にも通用するため、万が一の場合はスレイも出動することになっている。もはやスレイは、ただの幻獣狩りだけではなく戦争の最終兵器とも扱われているのだ。
とはいっても、十八世紀に入った今。ほとんどの政権戦争はすでに終わっており、剣のみで戦い続けるスレイはほとんど兵隊とは呼べなくなっていた。時代が進むにつれ進化していく文化、技術などは剣ではなく、銃や火薬を使う武器に向いていったため、剣を使うスレイはむしろ足手まといとなってしまったのだ。
なので、スレイは領主の護衛と今まで通りの幻獣を狩る魔女狩りのみの活動をしているのだ。
先ほど幻獣を狩ってきた少年は、城内に入る城門の隣にある小さな扉から入ると一人の男が少年の事を待っていた。
「……今回は、少し遅かったな」
少年の事を待っていたのは、スレイの隊長でもあるスミス・アレンだった。
「予想以上に相手が早かったので、追うのに時間がかかっただけだ」
相手はかなりの年上であるというのに、敬語も使わずにタメ口で喋る少年。
しかしアレンは慣れているのか、咎めるつもりもなく少年が床に置いたふろしきの中身を確認する。
「ふむ……。報告にあった通り、狼男だったか。よくやった」
「任務だから、当然のことだ」
褒められて照れるとかそういうのはなく、これで報告することは全て済んだとばかりに自室に戻ろうとする少年の肩に、アレンは手を置いて止めた。
「待て。少し腹は減ってないか? 酒でも飲みながら――」
「あんたが酒を飲まないのは知っている。無理に俺を誘わなくていい」
それだけ言うと、少年はアレンの手を払うと振り返らずに部屋へと戻って行った。
「…………ふう」
明りの付いてない城の中を歩いて、そのまま暗闇の中へと消えて行った少年を見送った後、アレンは小さく息を吐いた。
確かに少年の言うとおり、アレンは酒はあまり飲まない。だからと言って、まったく飲まないわけではない。気まぐれ程度だが、飲みたくなる日もあるのだ。
だから気まぐれに、少年を誘ってみたのだったが……。
「……無駄だとは分かっていたがな。いや、だからこそなのかもしれんな」
私も随分歳をとってしまったものだ、と呟きながら一人で夜遅くまでやっている酒場を目指し始めた。