パート2
この世の中、人にあらずものは忌み嫌われていた。
それらは全て『化け物』などの一言にまとめられ、住処を奪い、殺していた。
たとえそれが、人間にとって友好的なものであっても――だ。
しかし、今でも人間に見つからないようにひっそりと生き続けている。
そして化け物の基準も大きく変わっていた。
人にあらずものだけではなく、人間という道から外れた人間も忌み嫌われるようになってしまった。
例えば魔女。
人に害するものを作り、時に妖しげな言葉を使う。
そう思われるだけで、処刑された人は数多くいる。
マルクはそういう『化け物』といったものを探し、旅をしている。
そして先日泊まった村にて、近くの森に魔女が住んでいるという噂を聞き、その噂が事実かどうかを確かめるため、向かったのだが――。
「お主は馬鹿か?」
マルクの期待は、少女のその一言であっさりと打ち砕かれた。
「今どき魔女なぞ馬鹿馬鹿しい。お主は子供か?」
「へ……? つ、つまり君は魔女じゃないの!?」
「そう言っておるじゃろうが」
そんな……、と言いながら手に持っていた旅行用のトランクを地面に落とした。
けれどすぐにマルクは立ち直った。
「……まあ、噂ってのは大体がデマだしね。こういう事もあるよな。ちなみにこの辺りに君の他に人はいる?」
「この辺りは我を恐れてか、人どころか獣もうろつかんぞ」
「だよなー……」
ふと、そこで少女の言っている事が少しおかしい事に気付く。
「……君を恐れて? 魔女じゃないんだから、どこからどう見てもただの少女にしか見えないけど……」
すると少女は無い胸を張り、急に威張りだした。
「ふふん。我が誰だか知りたいか?」
「そりゃ、こんな所に君みたいな少女が、そんな変な格好をしているってのは疑問に思うけど」
「へ、変じゃと!? お主の方がよっぽど変な格好じゃ! 特にそのベレー帽!」
「なっ!? 確かに格好が変なのは自覚してるけど、ベレー帽を悪く言うな! それを言うなら君のそのマントだって似合ってないよ!」
「き、貴様……!」
すると、肩を震わせながら少女の体が宙に浮き始めた。
「へ……?」
「ふ、ふふ……。我を怒らせたな? この我を怒らせたら、どうなるかその身に刻ませてやる!」
そして爪を立て、その小さな体をマルクに向かって飛翔した!
「我が名はミネル・スカーレット! そして――吸血鬼じゃ!」
あと数センチで、マルクにその爪が届くところで……。
「ぎゃっ!」
丁度、木々の隙間から差し込む日差しが少女の顔に当たり、爪ではなくそのままマルクに体当たりするような形になってしまった。
それをマルクはもろに喰らい、二人で抱き合うような感じに巨樹に当たるまで転がった。
「ふ、ふにゅ~……」
「魔女じゃなくて、吸血鬼だったのか……」
止まるさいに、思いっきり頭をぶつけたマルクだったが、そんな事を気にも留めないで気絶しているミネルを見ていた。
このままじっくりと観察したい。だけどそれだとただの観察だ。僕がしなくちゃいけないのは、生態観察なんだから。
そう思いながら、マルクはミネルをおぶりトランクを左手に持って、森の奥に進んだ。