パート16
「ここら辺で大丈夫ですかね?」
「いいだろう……。それで話とはなんだ、マルク」
「……相変わらず、せっかちな人ですね、あなたは」
小屋から少し離れた、森の奥深くまで歩いた二人は足を止めた。
そこは樹木が多いからか、あまり光が差し込んでこない。
「アラン隊長」
マルクはアレンの事を昔の呼び名で呼ぶ。
「お願いがあります。どうかあの子を狩らないでもらえませんかね?」
「それは無理だな。スレイは絶対に幻獣を狩るという任務の元に成り立っている組織だ。幻獣が全て滅ぼされるまで、スレイは存在し続ける。マルク、お前だってそれは分かっているはずだ」
「それが嫌になったから、僕はスレイから去ったんですよ……」
遠い遠い過去。
マルクはスレイの部隊に所属していた。
若き年齢とは裏腹に、実力は隊長であるアレンすら超えていた。
だが、ある事がきっかけでマルクは部隊から去って行った。
「……お前が去ったあと、上への言い訳をするのは大変だったんだぞ」
「すみません……。けれど、僕にとってそれは必要な事だったんですよ。幻獣を狩り続けるのは嫌になった。ひそかに、けれど確実にスレイによる狩りを止めるには、これしか無かった」
「…………お前、まだあの幻獣の事をひきずってるのか」
「………………」
アレンの問いに、マルクは答える事が出来ない。
否、答えてしまったら、今まで誰にも言わなかった、心の底に未だに残っている罪悪感が無くなってしまう。
だから、マルクは答えなかった。
「一応言っておくがな、その事に関してはお前は正しい行動をしたんだ。誰もお前を責めたりは……」
「誰も責めなくとも、僕が僕自身を責めますよ。どうしてあんな事をしてしまったのか。どうして助けられなかったのか。どうして止められなかったのか。どうして……殺してしまったのか」
「…………ふん」
興味を失ったのか、アレンは次の話題に移る事にした。
「話はそれだけか? あの元副隊長でよく頭の回ったマルクにしては、少ないな」
「もちろん、僕があなたがどう返答するかぐらいは予想してましたから」
そしてマルクは、スレイが小屋にやってくるよりも前に考えていたある提案を持ち出した。
「さっき小屋から出てきたあの子。実は――」