パート13
この小説には黒太子エドワードの末裔なんて書いてありますが、実際には存在しない人物です。ご了承ください。
「……ほんとにこんな所に魔女なんていんのか?」
「は、はい。先日も村でも力が強い者たちを三人送ったのですが、今朝森はずれでたおれておりまして……」
「あーなんの訓練も受けてない奴には、化け物の相手になんねえよ。命があっただけマシだけどな」
そう言って笑い飛ばしたのは、エドワード・アランだった。
彼は百年戦争で有名な黒太子エドワードの末裔であり、スレイの副隊長であった。家系だけではなく剣の腕前も一流であり、人からも慕われやすいため、たった十八歳で部隊に所属。二十歳になると同時にスレイを率いる副隊長にまで上がった。
その後ろを歩くのは隊長であるスミス・アレン。それと部下の三人を率いて魔女を退治に向かっている所だった。
本来なら隊長であるアレンが部隊を率いるはずなのだが、今回はエドワードが副部長になって初の任務なので、副隊長にふさわしいかどうかを見極めるため、全てを任せることにしたのだ。
「……エドワード。いくら魔女だからといって、油断するんじゃないぞ」
「分かってますよ隊長。いくら副隊長になって初の任務といっても、いつもやっている事と変わりはないんすから。心配しすぎだぜ?」
「そうだな……」
表面上はそう言ったが、アレンは嫌な予感がしていた。
スレイの中でも五十八歳と最年長であるアレンは、幻獣をもっとも多く狩った事がある玄人だった。長年の幻獣を狩る狩人としての勘も冴えており、アレンはよく自分の勘を頼りにしていた。
(……おそらくだが、今回の相手は魔女じゃない。別の何かだろう)
そして、アレンの予感は的中する事になる。
「あの小屋か、村長さんよ?」
「お、おそらくそうです」
エドワードたちはミネルが住んでいる小屋の前までたどり着いた。
「村長。あとは我らに任せて村に戻っているといい」
「わ、分かりました。あとはよろしくお願いします」
アレンがそう言うと、村長は素直に従って村へと走っていった。
「さて、と……。魔女に気づかれないようにこの小屋を囲んで行くとしよう。二人は裏から逃げられないように少し迂回しながら行け。俺が最初に突入するから、アレン隊長とお前は俺の後に付いてこい。いいな?」
エドワードの指示は確実に相手を仕留めるのに、もっとも適切な指示だった。もし裏に出口があったとしたら、正面から突入したさいに逃げられてしまう可能性があるからだ。
指示された二人が小屋の裏に回ろうとした瞬間、小屋の扉が開いてミネルとマルクが出てきた。
「スレイの皆さん。少しお話しませんか?」
マルクが頭にベレー帽を被せながら、笑顔でそう言ってきたので、エドワードたちは困惑した。
「なんだお前は? 見たところ……人間じゃねえか」
(……やっぱり、スレイの目は誤魔化せないか)
スレイは特殊な訓練と長年の経験から、幻獣と人間の区別が見ただけで分かるようになっている。今ではあまり活動自体も少ないので、もしかしたら誤魔化せる事が出来るかと思っていたが、こうもすぐにばれたとするなら、諦めるしかなかった。
「まあ僕は人間です。見ての通り。僕の名前はマルク・ヴァンプールと言います。マルクと呼んでください。それで、そちらスレイを率いるリーダーは誰ですか?」
「俺だ。俺の名前はエドワード・アラン。アランでいい」
「ではアランさん。さっそくで申しわけ無いんですけど、この森から退いてもらえませんか?」
「なんだと?」
エドワードの表情がさらに困惑しているのを見て、マルクは無理も無いと思った。
何故ならただの人間が化け物と呼ばれている幻獣を庇っているのだ。下手したら死刑されてもいいだろう。もちろんそうならないように考えているが。
「お前はただの人間のはずだろが? おそらくそこにいるガキが魔女なんだろうが、そいつを庇ってるつもりか? ええ?」
「そうですよ。僕は僕の為に彼女を庇ってます。彼女は僕の友達ですから」
「……お前正気か? 化け物を庇うなんて――」
「化け物ってもう一度言ってみろ。殺すぞ」
マルクの雰囲気が一瞬で変わった。ただの人間ではあまり感じられないかもしれないが、あらゆる幻獣を倒してきたエドワードは別だった。マルクはエドワードに向けてとてつもない殺気を放っていた。その膨大な殺気に、思わず一歩退いてしまった。
その殺気は、ミネルでさえも身が竦んでしまうほどだった。
(こやつ、本当に我らの事を……)
そうでなければ、これほど本物の殺気を出すことは出来ないだろう。
「……失礼。ちょっと頭に血が登りすぎたようだ」
するとまた一瞬にして、マルクから出ていた殺気は消え去った。
エドワードは全身から汗が湧きあがるのを感じられずにはいられなかった。手を見ると、ほんの僅かだが震えていた。
(この俺が怯えただと……? こんなただの人間に……)
「どうしても退かないというなら……決闘しましょう」
そう言ってマルクはポケットから革で出来た手袋を取りだした。