パート12
小屋の開いていた窓から、小さな光――リンがあわてた様子で入ってきた。
『大変ですミネル! この森にたくさんの人たちが武装して入ってきています!』
「なんじゃと!?」
リンの報告に、三人の間に緊張が走った。
ミネルは、おそらく昨夜の報復だと考えた。もしそうじゃないとしても、この森には魔女がいるという噂が村で広まっているのだ。もはや時間の問題だろう。いますぐ森に隠れ住んでいる幻獣たちを集めても間に合わないだろう。ましては今は日差しが出ている時間だ。いくらここがどれだけ深い森だとしても、吸血鬼の力を半分も使うことはできない。
百年以上生き延びてきたミネルでも、焦らずにはいられなかった。にも関わらず、冷静でいられたのは――マルクただ一人だった。
「その武装してきた人たちって、村の人たちだった?」
『い、いえ、剣や斧を持った人たちで、この辺りではあまり見たことが無い紋章が胸にありました』
「……間違いない、スレイだ」
「スレイ……? な、なんですかそれは?」
「スレイは、魔女狩りが始まったと同時に出来た組織。つまり魔女狩り部隊だよ」
魔女狩り部隊、スレイ。
人ではなく、幻獣を殺すためだけに生まれた組織だ。今までに殺してきた幻獣は万を超える。それほどに幻獣を殺せるだけの術を持ち、その習性すらも熟知している。
今は幻獣の数も減ってきたからか活動も少なくなっているが、それでもかすかな情報を頼りに、莫大な報酬を求め狩りを続ける。幻獣から見たら、悪逆非道の組織である。
「リンは念のため、アルラウネと一緒にこの小屋から逃げてくれ。あとは僕がなんとかする」
「……お主、まさかわしを奴らに引き渡す気か?」
確かに、リンとアルラウネだけを逃がしミネルだけを残すとするなら、この場にいる幻獣たちは思った。なにしろ村で噂になっているのはミネルだけなのだ。ミネルだけをスレイに引き渡せば、この森にいる幻獣たちは助かる。
自分の言葉にまた誤解があったようで、マルクはまた苦笑する。
「違うよ。そんなことをこの僕がするわけが無い。それに僕は君のことを友達と思ってるんだよ?」
「昨日もそんな戯言をほざいておったな。お主は馬鹿か?」
「僕は馬鹿だよ。何故なら君たちを助けたいと思ってるんだから」
『ミネル、この人を信じてみたらどうですか? 私は少なくとも、マルクさんの言葉に嘘はないと思っています』
「むう……」
リンに言われたからか、ミネルは少し考える素振りを見せたかと思うと、
「……よかろう。ただし、もし我らを裏切る行為を見せた瞬間、お主の血を一滴残さず吸ってやるからの」
「了解。肝に銘じとくよ」
こうして、マルクはスレイを迎え撃つ為の準備をし始めた。