パート11
「へ、変な帽子って……これは世間でベレー帽って呼ばれてる帽子だよ。それと僕はマルクブァンプール。君やミネルみたいな幻獣を観察して、本を出しているただの物書きさ」
アルラウネの質問に苦笑しながらも、マルクは昨日言ったことを復唱するかのように答えた。
それを聞いたアルラウネは、怪訝そうな顔をした。
「つまり……あなたはアルラウネみたいな化け物を、観察し、本を書いて金を稼いでるんですか?」
「……………」
マルクはその問いに、すぐに答える事は出来なかった。
それは何故か。昨夜同じ事をミネルに聞かれ、怒らせてしまったからだ。
視線をずらしてミネルの方を見てみると、ミネルもマルクがどう答えるか気になるらしく、じっとマルクを見つめていた。いや、睨んでいた。
だからこそ、マルクは今度こそ素直に自分の目的を答える事にした。
「……少し、誤解があるようだね。確かに僕は君たち、幻獣について調べてそれを本として売っている。そしてお金をもらっている。だけどこのお金はすべて旅費に使ってるし、紙やインク代などで全部消えているよ」
現に、マルクの所持金はせいぜい十日分の宿代ぐらいしか残されていなかった。その内の八日分は観察した事をまとめるための紙とインク代に消えていく。それほどに紙とインクは高く、実質あと二日しか宿に泊まることが出来ない。そのため、宿に泊まらずに野宿することが多いのだ。
「じゃあ、なんの為に本を書き続けているんですか?」
眉間にしわを寄せながら、アルラウネが聞いてくる。
「それはね――君たちを守るためさ」
「……あの、言っている意味が分からないん、ですけど」
それはアルラウネだけではなく、ミネルも同じことだった。
私たちを守る? こんな貧弱そうな人間が?
そう思うだけで、ふつふつと怒りがこみ上げてくるのを、ミネルは感じていた。
それに気付いているのかいないのか、マルクはさらに続けた。
「十八世紀になっても未だなお、魔女狩りは続いている。それも世間の人々に気付かれないように、だ。なぜなら世間ではガリレオやルネ、アイザックたちのおかげで妖術や魔術など信じなくなったからだ」
今マルクが挙げた三人、ガリレオ・ガリレイ。ルネ・デカルト。アイザック・ニュートン。彼らは近代的な知性の持ち主たちで、その才能は世間の考え方を変えるほどだった。
そんな彼らが自らの考え方を広めた行動というのが、『本を書いて売る』事だった。
「つまり……お主が我らを観察して書いた本を売り、幻獣に対する常識を変えようと?」
「そんなところだね。それに売るといっても、その幻獣がいた地域にだけさ。未だに魔女狩りが続いている場所ってのは、どこも小さい村とか街なんだ。僕は魔女狩りが少しでも確実に減らせるように、こうして本を書いてるってわけさ」
「……確かに、理には叶っていますけど。そんな簡単にいくものなんですか?」
もっともな疑問に、アルラウネが尋ねる。するとマルクは自信ありげに胸を叩いた。
「任せておいて。なんといったってこれでも僕は有名だからね」
「いや、そういう意味じゃなく――」
そんな時だった。