パート8
ここには吸血鬼についての解釈が書かれていますが、これは作者自身の考えであるため、本来の吸血鬼とは異なっています。その事をご了承ください。
翌日の朝。
目を覚ましたマルクは、吸血鬼という存在を観察するために、小屋の中に入ろうとしていた。
「おーい、中に入ってもいいかな?」
ノックをしながらそう尋ねてみたが、ミネルからの返事は無い。
あまり音を立てないようにして扉を開けて中に入ると、まだミネルは毛布に包まって眠っていた。
カーテンを締め切っているため、小屋の中はとても暗く、しかも森の奥深くに建てられているからか日ざしがあまり入ってくる事がない。
まさに、吸血鬼が住むにはうってつけの住み家だろう。
「………う、ううん。もう、昼?」
入ってきたマルクの気配に気が付いたのか、ミネルが目を覚ました。
「ミネル? まだ朝だけど」
「……朝? じゃあ、もう少し寝る……」
けれどすぐに目を瞑って眠ってしまった。
マルクは毛布を整えてやってから、床に落ちてあるミネルがまとっていた黒いマントをきちんと畳んで、テーブルの上に置いた。
(どうやら、観察は昼からだな)
そう思ったマルクは、さっそく小屋にある調理器具で朝飯を作り始めた。
(……いい匂い)
香ばしい匂いでミネルは目を覚ました。
まだ日は昇ったばかりで日ざしが一番強いからか、それともまだ起きたばかりだからか頭がまだボーっとしていた。
吸血鬼は空を飛んだり、姿を変えたりなど、人には出来ない事が出来るかわりに、いろんな弱点があると世間では広がっている。が、実際は弱点が一つしか存在しない。
それなのに何故複数あると世間で広まっているのかというと、その弱点というのが吸血鬼によって違うからだ。
葫が苦手な吸血鬼もいれば逆に大好きな吸血鬼もいる。日ざしが苦手な吸血鬼もいれば逆に平気な吸血鬼もいると、弱点はさまざまだ。
そのせいで、人々からは間違った常識として『弱点がたくさんある』と広まっている。それは逆に、それだけの数の吸血鬼がいたとされているわけなのだが。
つまりミネルの場合は日ざしが苦手で、別に葫が嫌いでもなく、十字架も見てもなんとも思わない。
「………お腹、すいた」
身を起こしてそう呟くと、マルクが気付いて尋ねる。
「今、トースト焼いてるんだけど、蜂蜜でもかけようか? それともジャムがいい?」
まだ夢うつつのミネルは、トーストを焼いているマルクの姿がかつて生きていた母の姿が重なって見えていた。
なので、こう答えていた。
「……ガーリックトーストがいい」
「ガーリック? あるにはあるけど、君は吸血鬼だろう? 葫は苦手なんじゃ……」
「………もう忘れたの、母上? ミネルは、吸血鬼だけど、苦手なのは日ざしだけだって。葫を嗅いだって、気を失ったりなんか、しないよ……」
それを聞いたマルクは驚いたが、ミネルが寝ぼけている事にすぐに気付き、
「そうだったね。じゃあ、ガーリックトーストにするから、もう少し寝てていいよ」
「うん……」
そしてまた、ミネルは横になって目を閉じた。