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アルデンテ  作者: haregbee
3/7

三分目

「息子の歩です」


祐二さんが連れてきた男の子を見たとき、私は腰を抜かさんばかりに驚いた。


息子さんは、全然祐二さんに似ていなかった。


「はじめまして。国本歩です」


背の高い男の子は、私と母を見ると、にっこりと笑った。


恐ろしく整った顔立ちは、笑うと崩れるどころか、ますます浮世離れした美貌になった。


「ちひろちゃんは、中学生?」


「中三です」


「受験生か。大変だね」


「歩さんは、高校生ですか」


「うん。歩って呼んでいいよ。なんなら、お兄ちゃんでも」


優しく笑いかけられて、どきどきしない方がおかしい。


色気にあてられて、危うく鼻血を出しそうになった。


「なに、ぼんやりしているの」


すっかりのぼせあがった私に一喝いれた後、母は、歩君に笑いかけた。


「うちの子まだ中学生だから、お手柔らかにね」


歩君が困ったような表情を浮かべたので、私は口を挟んだ。


「もうすぐ高校生だよ」


「ぼやぼやしていると、どうなるか分からないわよ」


「大丈夫だもん」


「あら、油断大敵よ」


「先生に聞いてみれば、」


母と言い合いしていると、祐二さんがくすくす笑い出した。


視線を向けると、祐二さんは慌てて笑うのをやめて、咳払いをした。


「ごめん、つい。でも、困ったことがあれば、歩に聞くといいよ」


「そういえば、歩君は栄真高校だったわね。すごいわ」


母が挙げた高校は、私も聞いたことがあった。


国内有数の名門高校だ。


「運が良かっただけです」


歩君は、照れくさそうに答えたけれど、私は新しい兄をますます尊敬した。


背が高くて、かっこよくて、頭まで良いなんて。


母と私は、四人で会食した次の週、祐二さんの家に引っ越した。


新しい家は、母のレストランがある高級住宅街に立つ大きな家だった。


「お屋敷ってかんじだ」


あまりの大きさに口を開けて突っ立っていると、祐二さんと歩君が迎えにでてきた。


「ちひろの部屋は、俺の隣だよ」


歩君はそう言って、私の荷物を持って案内してくれた。


呼び捨てにされたのが、恥ずかしいけれど、嬉しかった。


「兄妹って、いいね」


「そうだね」


歩君は、振り向かなかったけれど、優しい声で返事を返してくれた。


カーテンからベッドカバーまで私の好きなオレンジ色にまとめられた部屋も素敵だったけれど、私が何より気にいったのは、居間のソファーだった。


母は住居に頓着しない人で、生まれてからずっと狭いアパート暮らしだったので、ソファーなんて置くスペースはなかったのだ。


そもそもソファーは、家族がくつろいでお喋りしたりする場所だと思う。


仕事で忙しい母と話す時間はほとんどなかったので、ソファーは本当に必要ないものだった。


あんまり嬉しかったので、革張りのソファーの上でぴょんぴょん飛び跳ねると、歩君はぎょっとした顔をした。


「ソファー好きなの?」


「うん!ソファーでテレビ見たり、たくさんお喋りしよう」


「俺と?」


「うん!歩君と祐二さんとお母さんも!だって、家族になったんだから」


ほんの一瞬だけ、歩君の表情が変わった。


でも、たった一瞬で、出会ったばかりの私には、歩君が何を考えているのか見当もつかなかった。


歩君は過去に囚われていた。


今もそうなので、とても可哀そうな人だ。


そんな人に恋をした私もまた、同情に値すると今に思う。

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