第1章 第9話 森の調査
第1章
第9話 森の調査
森から逃げ帰ったあと、アルトはしばらく村の外れで座り込んでいた。
心臓の鼓動はまだ速い。
呼吸も少し荒い。
だが時間が経つにつれ、体の震えは少しずつ収まっていった。
「……助かった」
ぽつりと呟く。
本当に危なかった。
もし森の出口がもう少し遠かったら。
もし転んでいたら。
考えるだけで背筋が寒くなる。
アルトはゆっくり立ち上がった。
村の中へ歩き出す。
昼の村はいつも通りだった。
畑では村人たちが働き、子供たちが道を走り回っている。
平和な光景。
さっき森で起きたことが、まるで嘘のようだった。
そのとき。
井戸の近くで、村の男たちが話している声が聞こえた。
「最近、森の様子がおかしいらしいぞ」
アルトは思わず足を止めた。
「おかしいって?」
「ゴブリンが出たって話だ」
「本当か?」
「隣の村の木こりが見たらしい」
アルトの胸がドクンと鳴る。
やはり。
ゴブリンは珍しいことではないが、村の近くまで出ることはあまりない。
男の一人が腕を組んだ。
「もし増えてるなら、町に報告しないとな」
「冒険者を呼ぶかもしれん」
「そうなる前に収まればいいがな」
アルトはその場を離れた。
心の中で考える。
(やっぱり異常なんだ)
森の奥で何かが起きている。
それは間違いない。
家に戻ると、アルトはベッドに腰を下ろした。
しばらく何も考えずに天井を見る。
だが頭の中には、さっきの光景が浮かぶ。
ゴブリンの群れ。
追いかけてくる足音。
棍棒が振り下ろされる瞬間。
「……逃げた」
アルトは小さく呟いた。
あのときの判断は正しい。
戦っていたら負けていた。
それはわかっている。
それでも。
胸の奥に、少し悔しさが残っていた。
「もっと強ければ……」
逃げずに戦えたかもしれない。
アルトは目を閉じた。
そして。
ゆっくりとステータス画面を開く。
⸻
ステータス
名前:アルト
筋力:8
敏捷:7
体力:8
魔力:3
⸻
二日前の自分とは比べ物にならない。
それでも。
ゴブリンの群れには勝てなかった。
そのとき。
また光の文字が現れた。
⸻
新規クエスト
ランク:D
ゴブリンを3体討伐する
報酬:筋力 +3
⸻
アルトは目を見開いた。
「三体……」
さっき見た群れを思い出す。
正直、怖い。
だが。
報酬を見る。
筋力 +3。
それは今までで一番大きい。
アルトは拳を握った。
「……行くか」
怖くないわけじゃない。
だが逃げてばかりでは強くなれない。
クエストがある。
それを達成すれば、確実に強くなれる。
アルトは立ち上がった。
木の棒を手に取る。
そして家を出た。
村の外れにある森へ向かう。
空はまだ明るい。
昼の森なら、少しは安全なはずだ。
森の入口に立つ。
昨日までと同じ景色。
だが今日は、少し違って見える。
「……よし」
アルトは森の中へ足を踏み入れた。
木々の間を進む。
耳を澄ます。
風の音。
鳥の声。
そして――
遠くから聞こえる、小さな声。
「ギッ……」
アルトは立ち止まった。
ゆっくりと茂みの向こうを見る。
そこにいたのは。
三体のゴブリン。
だが。
その中の一体は、少し違った。
体が大きい。
手に持っているのは、普通の棍棒ではない。
錆びた短剣。
「……強そうだな」
アルトは小さく呟いた。
どうやら。
この森には――
普通より強いゴブリンがいるらしい。




