第2章 第1話 王都レグナス
第2章
第1話 王都レグナス
朝日が地平線からゆっくりと昇り始めていた。
森を抜けた街道の先。アルトの目の前に、巨大な城壁が姿を現す。
「……あれが」
アルトは思わず立ち止まった。
視界いっぱいに広がる石の壁。高さは数十メートルはあるだろうか。城壁は果てしなく続き、その上には見張りの塔が等間隔に並んでいる。
その圧倒的な光景に、アルトは小さく息を吐いた。
「王都レグナス……」
アルディア王国の中心。大陸最大の都市。
村のギルドマスターから聞いた話では、人口は百万人を超えるという。
村とは比べものにならない世界。
アルトは肩にかけた荷物を少し持ち直し、ゆっくりと歩き出した。
街道には同じように王都を目指す人間が何人もいる。
商人らしき馬車。荷物を背負った旅人。鎧を着た冒険者。
様々な人間が、巨大な城門へ向かって進んでいた。
門の前には長い列ができている。
「……入るのも大変そうだな」
アルトが列の最後尾に並ぶと、前にいた商人風の男が振り返った。
「兄ちゃん、王都は初めてか?」
「え? ああ、はい」
「はは、顔に書いてあるぞ」
男は笑いながら城壁を見上げた。
「すごいだろ? 王都レグナスはよ」
確かに、圧倒的だった。
石でできた巨大な門。その両脇には重装備の兵士が立っている。
槍を持ち、鋭い視線で人々を見ていた。
「ここはアルディア王国の中心だ。冒険者も商人も貴族も……何でも集まる場所だ」
男は少し声を潜めた。
「……もちろん、ろくでもない奴らもな」
「ろくでもない奴ら?」
アルトが聞き返すと、男は肩をすくめた。
「王都は光の都市だが、闇も深い」
それだけ言うと、男は前を向いた。
アルトは黙って城門を見上げる。
(闇……か)
ギルドマスターの言葉が頭に浮かぶ。
『王都には妙な噂がある』
『人が消えるとか、奴隷の数が増えてるとか……』
アルトは小さく首を振った。
(まずは様子を見るか)
列はゆっくりと進んでいく。
やがて、アルトの番が来た。
門の前に立つ兵士が腕を組む。
「目的は?」
「冒険者です。王都のギルドに登録しに来ました」
アルトは腰のギルドカードを差し出した。
兵士はカードを受け取り、目を細める。
「……村ギルドか」
「はい」
「問題なし」
カードはすぐに返された。
「王都へようこそ、冒険者」
兵士が門の中を指さす。
「騒ぎは起こすなよ」
アルトは軽く頭を下げた。
「はい」
そして――
巨大な城門をくぐる。
その瞬間だった。
「……!」
アルトの視界が一気に開けた。
石畳の大通り。
両側には大きな建物が立ち並び、人が溢れている。
商人の呼び声。
馬車の音。
人々の話し声。
すべてが混ざり合い、王都の空気を作っていた。
「すごいな……」
思わず声が漏れる。
村とは比べものにならない活気。
目に入るものすべてが新しい。
武器屋。防具屋。魔道具店。酒場。
そして、大通りの先には――
巨大な城がそびえていた。
王城。
アルディア王国の象徴だ。
「ここが……王都レグナス」
アルトはゆっくり歩き出す。
そのときだった。
【クエスト】
視界の端に、いつもの文字が浮かび上がる。
アルトは思わず足を止めた。
「……来たか」
王都に入ったばかりで、さっそくスキルが反応したらしい。
表示された内容を見る。
【本日のクエスト】
①王都の冒険者ギルドへ行け報酬:経験値
②王都の情報を集めろ報酬:スキル経験値
③???条件未達成
アルトは小さく笑った。
「まずはギルドか」
王都の冒険者ギルド。
村のギルドとは比べものにならない規模だろう。
アルトは人混みの中を進みながら、周囲を見渡した。
冒険者たち。
剣士。
槍使い。
魔法使い。
様々な装備の者が歩いている。
(さすが王都だな)
強そうな冒険者が多い。
ここでやっていくには、さらに強くなる必要がある。
だが、不思議と不安はなかった。
アルトには――
スキル「クエスト」がある。
(ここからだ)
王都での新しい生活。
新しい出会い。
そして、まだ見ぬ出来事。
アルトはギルドの看板を見つけ、足を止めた。
巨大な建物。
その入口の上には、大きな紋章が掲げられている。
冒険者ギルド本部。
アルトはゆっくり扉を押し開けた。
その瞬間――
王都での物語が、静かに動き始めた。




