第1章 第36話 帰還と討伐報告
第1章
第36話 「帰還と討伐報告」
ダンジョンの入口。
崩れかけた洞窟の奥から、四人の冒険者がゆっくりと外へ出てきた。
アルト。
ロイド。
ローレン。
ミリア。
長い戦いのあとだった。
外の空気はひんやりしていて、森の匂いが濃い。
アルトは大きく息を吸った。
「……外だ」
ダンジョンの重い空気とは違う。
肺が軽くなる感覚だった。
ローレンが空を見上げる。
「はぁー……」
「生き返るな」
夕方の空が赤く染まっていた。
ミリアが少し疲れた声で笑う。
「今日は本当に疲れたね……」
ロイドは周囲を確認してから言った。
「ここで少し休む」
「村までまだ距離がある」
四人は近くの岩に腰を下ろした。
戦闘の疲労がどっと押し寄せてくる。
アルトは手を見る。
まだ少し震えていた。
(ゴブリンキング……)
あの巨大な魔物。
棍棒の一撃。
あの力は今まで戦ってきた魔物とは次元が違った。
ローレンがアルトの肩を叩く。
「よくやったな」
アルトが顔を上げる。
「え?」
ローレンは笑った。
「最後の足の攻撃だ」
「ありゃ完璧だった」
ミリアも頷く。
「うん」
「すごく助かった」
ロイドも短く言った。
「いい判断だった」
アルトは少し照れた。
「いえ……」
だが胸の奥は熱くなっていた。
自分が役に立った。
それが嬉しかった。
少し休憩したあと、ロイドが立ち上がる。
「行くぞ」
「日が落ちる前に村へ戻る」
四人は森の道を歩き始めた。
⸻
森を抜けるころには、空はすっかり暗くなっていた。
木々の隙間から、村の灯りが見えてくる。
ミリアがほっと息を吐いた。
「あ……見えた」
小さな村。
木の柵に囲まれた家々。
煙突から煙が上がり、夕食の匂いが漂っている。
アルトはその光景を見て、胸が少し緩んだ。
(帰ってきた)
村の入口をくぐると、村人がこちらに気づいた。
「おや、冒険者さんたちだ」
「ダンジョン行ってたんだろ?」
ローレンが笑う。
「まあな」
村人は心配そうに聞いた。
「どうだった?」
ロイドが短く答える。
「問題は解決した」
村人は安心した顔をした。
「それはよかった……」
アルトたちはそのまま村の中央へ向かった。
そこにある建物。
木造の二階建て。
看板には剣と盾の紋章。
冒険者ギルド。
ローレンが扉を押す。
ギィ……
中から賑やかな声が聞こえてきた。
酒の匂い。
笑い声。
いつもの光景だ。
だが四人が入ると、何人かの冒険者が振り向いた。
「お、ロイドたちだ」
「ダンジョン帰りか?」
ローレンが笑う。
「まあな」
カウンターの向こうでは、受付のミリア(受付嬢)が顔を上げた。
「あ、ロイドさん」
「おかえりなさい」
ロイドはカウンターに近づく。
「報告だ」
受付嬢ミリアは書類を準備する。
「ダンジョン調査クエストですね」
「結果はどうでした?」
ロイドは答えた。
「第二階層」
「ゴブリンの巣を確認」
周囲の冒険者が少し反応する。
「巣だって?」
ロイドは続けた。
「ゴブリンリーダー」
「そして――」
一瞬、言葉を止めた。
「ゴブリンキングを討伐した」
受付嬢の手が止まった。
「……え?」
ギルドの空気が止まる。
一人の冒険者が言う。
「今なんて言った?」
ローレンが笑った。
「だから」
「ゴブリンキング倒したんだよ」
ざわっ……
ギルドが一気に騒がしくなる。
「嘘だろ!?」
「この辺のダンジョンにキングなんて出るのか!?」
「第二階層だぞ!?」
受付嬢ミリアも驚いていた。
「本当ですか……?」
ロイドは頷く。
「間違いない」
「巣も破壊した」
受付嬢は慌てて記録を書き始めた。
「これは……」
「大きな報告になります」
その時だった。
ギルドの奥から声が聞こえた。
「騒がしいな」
低く落ち着いた声。
奥の扉が開く。
そこから一人の男が現れた。
四十代ほど。
長いコート。
鋭い目。
周囲の冒険者が少し姿勢を正す。
アルトは気づいた。
(この人……)
受付嬢が言った。
「ギルドマスター」
男はロイドを見る。
「報告を聞いた」
「ゴブリンキングだと?」
ロイドは頷く。
「間違いない」
ギルドマスターはしばらく黙っていた。
そして視線をアルトに向けた。
「……その新人か」
アルトは少し驚く。
「え?」
ローレンが笑う。
「今回かなり活躍したぞ」
ギルドマスターはアルトをじっと見た。
まるで何かを見極めるような目だった。
そして小さく言った。
「なるほどな」
アルトはまだ知らない。
この出会いが――
次の物語へ繋がることを。




