第1章 第3話 初めての戦闘
第1章
第3話 初めての戦闘
森の中は静まり返っていた。
風が枝を揺らす音だけが、わずかに聞こえている。
アルトはその場から動けずにいた。
目の前にいる魔物。
青く半透明の体。
ぷるぷると揺れる丸い形。
村の近くでも時々見かける、弱い魔物。
スライム。
だが――
「……」
アルトの喉が乾く。
頭ではわかっている。
スライムは弱い。
子供でも棒で叩けば倒せることもある。
それでも。
実際に戦うとなると話は別だった。
アルトはゆっくりと木の棒を握り直した。
手のひらに汗がにじむ。
胸の鼓動が少し速い。
「落ち着け……」
小さくつぶやく。
逃げることもできる。
森を出ればそれで終わりだ。
だが。
アルトの目の前には、まだ光の文字が浮かんでいる。
⸻
クエスト
スライムを1体倒す
報酬:スキル「鑑定」
⸻
「スキル……」
アルトはその言葉を見つめた。
普通なら、スキルは一生に一つ。
成人の儀で授かるだけ。
それなのに。
クエストを達成すれば手に入る。
もしそれが本当なら――
このスキルは、とんでもない。
「……やるしかない」
アルトは一歩前に出た。
落ちていた枝がパキッと音を立てる。
その瞬間。
スライムがゆっくりとこちらへ向いた。
ぶるぶると体を震わせる。
そして。
ぴょん、と小さく跳ねた。
「うわっ!?」
思わず後ろに下がる。
だがスライムの動きは遅い。
ゆっくり。
本当にゆっくりと近づいてくる。
「……今だ」
アルトは棒を振り上げた。
そして。
思い切り振り下ろす。
バシッ!
鈍い音が響く。
棒がスライムの体に当たった。
だが。
「え……?」
スライムは潰れない。
ただ形が歪んだだけだった。
ぐにゃりと体が戻る。
そして。
またゆっくりと近づいてくる。
「マジかよ……」
アルトは焦った。
もう一度、棒を振る。
バシッ!
また叩く。
バシッ!
何度も叩く。
だがスライムは完全には潰れない。
ただ少しずつ形が崩れていくだけだ。
「くそっ……!」
アルトは歯を食いしばった。
スライムが跳ねる。
そのままアルトの足に触れた。
「うっ!」
冷たい感触がした。
痛みはない。
だが気持ち悪い。
アルトは思わず蹴り飛ばした。
スライムが地面に転がる。
「はぁ……はぁ……」
呼吸が荒くなる。
こんなに体力を使うとは思わなかった。
だが。
スライムの体は、明らかに小さくなっている。
「あと少し……!」
アルトは棒を握り直した。
そして。
最後の一撃を振り下ろす。
バシンッ!
スライムの体が大きく歪む。
そのまま。
ぺしゃり、と潰れた。
青い体が崩れ、地面に溶けるように消えていく。
そして。
光の文字が現れた。
⸻
クエスト達成
報酬獲得
スキル「鑑定」
⸻
「……!」
アルトの体が淡く光る。
頭の中に、新しい感覚が流れ込んできた。
何かを見るだけで、その情報がわかる。
そんな不思議な感覚。
アルトは地面を見た。
そこには小さな青い石が落ちている。
さっきのスライムが残したものだろう。
その石を見た瞬間。
頭の中に文字が浮かんだ。
⸻
スライムコア
低級魔物スライムの魔力の結晶。
冒険者ギルドで
銅貨3枚程度で買い取られる。
⸻
「……見える」
アルトは驚いた。
これが鑑定スキル。
物の情報がわかる能力。
「すごい……」
アルトはコアを拾った。
それほど価値は高くない。
だが。
アルトにとっては大きな一歩だった。
初めて魔物を倒した。
そして。
新しいスキルを手に入れた。
そのとき。
また光の文字が現れた。
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新規クエスト解放
ノーマルクエスト
ランク:E
薬草を5本採取する
報酬:体力 +1
⸻
「クエスト……増えてる」
アルトは思わず笑った。
クエストをこなすほど、強くなる。
そんな力が自分にあるなんて。
成人の儀のときは、外れスキルだと思った。
だが今は違う。
「これ……もしかして」
アルトは夜空を見上げた。
星が輝いている。
村の外。
森の奥。
そしてその先には、もっと広い世界がある。
「冒険者……なれるかもしれない」
小さくつぶやいた。
まだ始まったばかりだ。
だが確実に。
アルトの人生は――
変わり始めていた。




